荒野のオオカミと砂漠のキツネ

Haruki

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空飛ぶオオカミ

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あれから数日後
ついにロバートが出撃する日がやってきた。

雲ひとつなくどこまでも晴れ渡った空、穏やかな風、爽やかな空気
皮肉にも全てがフライトに好条件の日だった。

e120型輸送機改は滑走路上でパイロットのことを待っていた。
その腹には巨大な新型爆弾を抱えている。

軽量化のため銃座と銃手は載せていない。
乗るのは航空機関士、爆撃手、副操縦士、そしてパイロットのロバートを含む四人だけだ。

ドアを開けると
他のクルー達が出迎えてくれた。

「…これも運命か」

ロバートはそう呟いて、操縦席に乗り込んだ。
一通り機内を見回すと、皆にこやかだ。
それはまるで、自分たちが何をするのか分かっていない様だった。
そしてブレーキをかけながらエンジンを始動させた。
徐々にエンジンが響かせる低音が大きくなっていく、

計器をチェックし、回転数が到達したのを確認すると
新たに取り付けられロケットブースター点火ボタンを力強く押し込んだ。

それと同時にブレーキを解除する。
機体は加速していきついに離陸に成功した。

護衛戦闘機はいない、それはもはや片道切符の作戦だった。
爆撃後の帰還、いやそもそも爆撃地点に到達できるかもさえ怪しい

計画されたルートでは海上を北西に進み、そこで進路を南に変えて爆撃目標上空に向かうことで敵レーダーにかかるの時間をなるべく遅らせる作戦だった。

爆撃機は順調に海上を高度を上げながら飛行していた。
しかし、連合軍のレーダーはすでに彼らの機体を捉えており、
迎撃機が次々に飛行場から飛び上がった。

ロバートが素直にヒラリーの街を爆破するはずが無かった。
密かに機体の不調を装って海面に不時着する作戦を練っていたのだ。

間も無く南に進路を変更する地点が近づこうとしていた時だった。
ロバートはスロットルを調整するレバーに手をかけた。
エンジン出力を下げて失速させ、墜落させようと考えたのだ。

そして、その機体の上空には敵戦闘機が3機太陽の影に隠れる様に飛行していた。

「あのデカブツを絶対に逃すわけには行かない! 急降下後、全機攻撃開始!」

悠々と飛行する爆撃機に突如雷の様な攻撃が襲い掛かった。

「へっ、あの機体全然反撃してこないぜ」

「こりゃ良いぜ、ぶち落としてやれ!」

機体のあちこちから金属が裂ける音が絶え間なく響いている。
まるで機体が悲鳴を上げている様だ。

右翼のコントロールを失った機体はやや右に傾きながら飛行を続けた。

戦闘機は、まるで獲物に群がるオオカミの群れの様に容赦なく攻撃を繰り返した。

タンクに穴が空いた右主翼からは、大量の燃料がまるで霧の様に噴き出していた。
いつ炎上してもおかしくない状況で、右3番エンジンが直撃を受けて爆発した。
気化した燃料に一瞬で引火し、右主翼は炎の帯を引いた。

機体は高度を下げながら北西に向かって飛び続けた。
炎はすでに手に負えない状況となっていた。
翼を焼き終えた炎は胴体にまで広がり、
軽量化のため消火器などを下ろしてしまったため、
ただただ焼ける機体を呆然と眺めることしか出来なかった。

何発もの弾丸が機体胴体を貫き、コックピットの風防は粉々に砕けた。
すでに航空機関士は頭から血を流しており、副操縦士も割れたガラスの破片で右腕をやられている。
そして、爆撃手は必死に自身のジャケットで火を消そうと奮闘していた。

右翼にある二発のエンジンはすでに止まっていた。
機体は大きく右に傾いたまま失速していった。
ロバートはパイロットとしての意地を見せて、その機体を安定させていた。

機体真上からの攻撃が、再度降り注ぎ
副操縦士は椅子に仰向けにもたれ掛かった。

次の瞬間、凄まじい衝撃と共に機体尾部が引き裂かれた。

炎はますます勢いを増し、操縦席のすぐ後ろまで迫っていた。
水平尾翼を失った機体のは真下に広がる海へ真っ逆様に落ちていった。

ロバートは燃え盛る機内で、ゆっくりと写真を取り出して眺めていた。

「ごめんよリサ… 帰るって約束、果たせそうにないぜ」

小さくそう呟いた。

意識が遠のいていくなか、誰かに肩を叩かれた様な気がした。
おそらく爆撃手だったのだろう。
指先に力が入らなくなり、写真は彼の手から離れてふわりと空中に舞った。

その後、
大勢が空を舞う火の玉を見た。
そして、ヒラリーの海岸にはその破片の一部が流れて着いていた。

リサも火の玉が気になって、海岸線へ来ていた。
焼けこげたゴムの様なものや、布の様なものが流れ着いている中に
波に揉まれる一枚の紙切れの様なものを見つけた。

彼女は気になって手に取ってみた。

「…乗っていた人のものかしら」

それは焦げている上に海水にさらされて酷い状態で
かろうじて写真であることが分かる程度であった。
彼女はそれをじっと見つめた。

「きっと大切な人の写真ね、持ち主のところへお帰り」

そう言って、その写真を海面にそっと置いた。
写真は引き波と共に海へ帰って行った。

彼女は、その写真の持ち主が誰なのか、そしてその写真に映る人物が自分だとは知る余地も無かった。
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