荒野のオオカミと砂漠のキツネ

Haruki

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アルフィート

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さて、ルナ帝国軍はヴォルペ共和国領の防衛すらまともにできる状況ではなくなり、ついに連合軍は目の前にまで迫っていた。

ロバートは懐かしのアルフィートの街をぶらぶらと歩いていた。
賑やかさと華やかさはまるで無くなっていたが、街並みを見るだけで懐かしかった。

ロバートは生まれてこの方、アルフィートの街で暮らしていた。
両親は彼が幼い頃に亡くなり、裕福だった叔父に引き取られた。

叔父はこのアルフィートの街に豪大な屋敷を持っていた。
幼い頃のロバートはそこで可愛がられ、大切に育てられた。

叔父は中型機のパイロットだった。
自家用機も保有しており、ロバートは度々それに乗せてもらっていた。

だからロバートは子供の頃から空への憧れが強かった。

そんなことを思い出しながら、ロバートは基地へ戻った。
そして、自分の部屋でコーヒーを飲んでいた時のことだ。

何者かが部屋を訪ねてきて、ドアをノックした。

ロバートが外に出ると、そこには彼の長官が立っていた。

「ロバート君、急に呼び出して悪いが… 伝えたいことがあるのだ、少し来てくれないか?」

「…分かりました」

ロバートはそのまま上官の後を着いて行った。
部屋に入ると上官は椅子に腰掛け、ロバートにも座る様に言った。

「さて、君の操縦技術は素晴らしい… その技術を活かして欲しいのだが、いいだろうか?」

「具体的には何をするおつもりですか? また新米パイロットの教育ですか?」

「いいや、君に飛ばしてもらいたい機体があるのだ… いや、君以外に適任者は居ない、君にしか飛ばせない機体なのだよ」

「どういうことです? まさかこの戦況で試験機ですか?」

「いいや、どれかというと改造機なのだが… まあ見てもらったほうが早いな」

上官はそう言って、格納庫にロバートを招いた。

「これが、その機体だ」

そこには大型4発機のe120型が静かに佇んでいた。

「これは… e120型爆撃機…ならば、僕以外にも飛ばせるはずですが…」

「いいや、この機体は元は輸送機のe120-Cに特殊な改造を施してものだ、名はアーク号だ」

ロバートは肝心のその機体の巨大な全貌を眺めた。

「これはなんです?」

そう言って機体側面に取り付けてある筒状のパーツを指差した。

「それはロケットブースターだ、内部で燃料を燃焼させてそのガスを噴射する仕組みのものだ。離陸時に強制的に増速するために取り付けてある」

「そんなものまで… 一体どんな重いものを運ぶんです?」

「新型1号爆弾だ、現存するのはこの試験型だけらしい」

上官はそう言った。

「で、それを僕に運べと…」

「君も知っているだろうが、すでにこの国は自国の防衛すらまともにできる状況ではない… つまり、最後の悪あがきというところだ」

「どのくらいの威力なんです?」

「平野部なら街一つ壊滅させるほどのエネルギーを持っているらしい」

「…そんな恐ろしいものを使うんですか!?」

「ああ、この状況ゆえ仕方がないのだ… 特殊な材料が不足しているから試作型しか作れなかった様だが、周辺国にはプロパガンダでこの爆弾を大量に持っていると思わせれば良い」

ロバートは一番気になっていることを質問した。

「どこが攻撃目標なのですか?」

上官は近くにあった地図を指した。

「一発しかないから、目標を定めるのには時間がかかったが…」

そう言って地図の点を指差した、

「ヒラリー、軍需工業施設が多数並んでいる。おまけに偵察班の情報が正しければ、ちょうど敵陸軍の大部隊が集結しているらしい… 絶好の的だと思わんかね?」

ロバートは地図を見て固まっていた。

「ここはっ…しかし、僕には…」

「…そういえば君は……… 確かヒラリー空軍基地に勤めていたな、もしやそこに何か大切なものでも忘れてきたのかね??」

「いいえ」

「そうか… ならばできるな?」

「……」

「できるだろう?」

ロバートは黙ったままだった。

「なぜ黙っている」

「こんな兵器… 僕には使えません!」

「もしや… これのせいか?」

上官はそう言って一枚の写真を取り出した。
それはキツネ族の女性の写った写真だった。
そう、紛れもないリサの写真だ。

「…今は君の意見は聞いていない、これは命令だ」

上官はロバートに詰め寄った。

「それでも断るというのなら、君は軍法会議にかけられる。その上、君の周りの奴の身に何かが起きても、私は保証はできない… おい、例のアイツを連れてこい」

そう言うと、ドタドタと物音がして
数人に連れられてアルトが格納庫に入ってきた。

「離せ! このっ、僕が何をしたってんだ」

「アルト… おい、人質を取るなんて卑怯だぞ!」

「おっと… 口の聞き方には気を付けたほうがいいぞ、自分の立場は分かっているのか?」

上官はそう言ってロバートの肩に手をポンと乗せ、アルトの方を指差した。

「もし断るのなら、君は大切な仲間を失うことになる… それでも断るというのなら、まあ… 君も処刑されるなら関係ないことか」

ロバートは悔しがることしか出来なかった。
まさかここまで弱みを握られていたとは思ってもいなかった。

「さて、運ぶのか? 運ばないのか?」

「…ググ……」

「早く決めろ、でないと彼を殺す。今、この場所でな」

そう言って彼は銃を構えた。

「良いのか? ロバート君」

「ロバートさん! これはどう言うことなんですか!?」

アルトの悲痛な叫びがロバートを刺激する。

「ああぁぁ、分かった…… 飛ばせば良いんだろ!!」

それが聞きたかったと言わんばかりに上官は不気味に微笑んで、銃を下ろした。

「よくぞ言った。それでこそ誇り高きオオカミ族だ」

アルトはその場で解放された。
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