忘れられたJ28、色とりどりの傷痕

融解犯

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メモリー1「傷ついたんだ」

7「怪物の存在意義」

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 世の中を変えることが偉業と呼ばれる所以ゆえんをご存知だろうか。
 誰もが不可能だと諦めていたことだから、そもそも思いつきもしなかったから、など。理由は多々あるだろう、その中で。
 では、なぜ人々はその者たちが成し遂げたことを称賛し、畏敬の念を抱いたか。

 それは――その者たちが世の流れに逆らったからだ。

 不可能だと謳われた風潮をあえて無視し、できるわけがないと蔑まされてもなお、手を引かずに取り組み続けた。それが、結果的に世の流れを変えた。そう、偉大なのは多数に流されやすい世の中で一切空気を読まずに発言し、行動したことである。
 おわかりいただけただろうか、世の中を変えた偉人たちの共通点を。

 ――いつだって流れを変えるのは、究極のKYだ。




 まあもちろん、最終的に流れを変えるにしても、発言をすればその場は一度荒れるわけだが。 

「いやいやいや怜さん待って!? 一晩泊めたいならまだわかりますよ!? 仲間にする!? 冗談でしょう!? 不法侵入して盗みまでしようとした奴らですよ!?」
「それは腹が減って仕方なくって言ったじゃないですか。でも、それ以前にオレたち見知らぬ他人とは行動しない主義なんです。お誘いは嬉しいんですが、今回はお断りしてもいいですか? それに、男ばっかだと彼女がキツいんで。あ、でもあなたは大丈夫ですかね? 顔も体型も割と女性に近いですし」
「殺す!!」

 メガネ少年が綺麗に地雷を踏み抜いてくれたおかげで梓の怒りはゲージMAXになった。メガネ少年に飛びかかろうとする梓を「落ち着け!!」と空が寸でのところで抑え、「林太郎も煽るな!」「林......荒らさ、ないで......!」と背高少年と少女が林太郎と呼んだメガネ少年を黙らせる。
 一気に阿鼻叫喚の場と化した空間に巻き込まれないよう、ニャー太を抱えた怜と恒輔は集団から一時的に距離を取る。恒輔が騒がしい彼らを横目に、ワケを訊いてきた。

「怜、理由を話さんことには誰も納得せえへんで。なんであいつらを仲間にしたいんや」
「......理由?」

 怜は垂れ目を緩やかに瞬き、のそりと顔を傾ける。

「そう、理由や。仲間にしたい理由があるんやろ?」
「ないよ」
「「「ハア!?」」」

 間髪入れずに即答すれば、恒輔もまた間髪入れずに素っ頓狂な声を上げた。おまけに何人か同様の反応を被せてきていた。

「おまっ、何か考えがあるんじゃなかったのかよ!」
「いやいや、ほんと何なんです? オレたちはここを出たい、この人たちも仲間にしたいとは思っていない。互いの意見は一致してるんですよ? なのに特に理由もなく仲間にしようって、無償の愛か何かですか? 慈悲深いことで」

 空がツッコみ、林太郎は皮肉たっぷりに笑う。それでも怜は構うことなく集団に歩を進め、まずは梓に声をかける。

「梓くん。やろうとしたことは褒められたものじゃないけど、彼らは悪い子じゃないよ」
「女みたいって言った!!」
「それを言ったのは林太郎こいつだけだし、それはおまえの私怨だ」

 暴れる彼を抑えるのに体力を奪われていた空が、げんなりと呟く。
 今度は林太郎の方に顔を向けて尋ねる。

「君は、さっきからその二人を守っていたよね?」 

 林太郎はメガネの奥で一瞬目を丸くさせたが、素直に認める気はないのか、「......根拠は」と猜疑心さいぎしんを含んだ声音で尋ね返す。

「何となく。ただ、みんなの意識はずっと君に向いていた。君が率先して喋って、あとの二人を『言いなり』と表現して、『話を聞くなら自分の方』と思わせて」

 君は、二人を隠していた。
 一番林太郎の発言に憤りを感じていた梓は、真意を知って瞠目する。思わず林太郎の方を見たが、彼はまだ無言を貫いていた。

「それに、二人は君が俺に捕まったとき助けようとした。本当に君が二人を言いなりと切り捨てるような嫌な人間なら、二人は君を置いて逃げたはずだよ」

 その言葉に、林太郎の傍にいた二人が目を逸らした。それが答えだ。
 観念したのか、林太郎は面倒臭そうに溜め息を吐いた。

「......あんたの言ってることは当たってますよ。でも、それで仲間になろうとは思えないですね。オレはこいつら二人がいればやっていけるんで。それに、ねえ、あんたは本当に何の理由もなくオレたちを仲間にしたいんですか?」

 人の負の感情に絡みつく蛇がこちらを覗き込んでくる。怜を見上げる林太郎の瞳孔は細く厭らしい。

「本当はオレたちを仲間にしてどうしたいんです? 人手がほしい......というより、いざ化物に襲われたときのための、『壁』がほしいんじゃないですか?」
「おい、ちょっと待てよ」

 そこへ厳しい表情で梓が割って入ってきた。

「おまえ、それって要は怜さんは囮がほしいって言ってるってことだろ。怜さんはンなこと言わねえよ」
「へえ、断言できるんですか? あんた、この人のことはどこまで知ってるんです? 見たところ、兄弟とかではなさそうですけど知人ですか? それとも、まさか出会って日も経ってないとか?」
「そ、れは......」

 言い返せず、言葉に詰まる梓。黙らせたところで、林太郎は一転してにっこりと笑いながら怜に向かって続ける。

「じゃあ、お聞かせ願いましょうか。あんたの本心、実際のところはどうなんです?」

 怜は、林太郎の目をじっと見つめた。ニコニコと笑みを絶やさない彼の瞳は、触れればひやりと冷たいのだろう。林太郎もあとの二人も自分たちに良い感情を抱いていない。かと言って自分が彼らを納得させられる言葉を持ち合わせているのかと問われればそうでもなく。耳障りのいい言葉で飾るなんて器用な真似、感情もない人間にできるはずがない。
 だから――結局理解されなくとも、ありのままを語るしかないのだ。
 怜はやがて、おもむろに口を開いた。

「俺、実は記憶も感情もないんだ」
「......はい?」
「ちょ、怜?」 

 唐突な告白に、林太郎は訝しげに眉をひそめる。恒輔もぎょっとして怜を見たが、構わずに続けた。

「多分、ここに来た影響か何かで消えたんだろうね。でも俺は、記憶も感情も別に取り戻したいと思ってない。なかったら困るというだけで、不思議とどうでもいいように感じるんだ」

 そのことは空と梓も初耳で、驚きで目を見開いているのが視界の端に見えた。背高少年の息を呑む音が聞こえたから、彼も、おそらく少女の方も驚いているのだろう。
 そうだ、記憶も感情もない自分はこの中で一番異質だ。自分の心も他人の心もわからない怪物、持ち合わせた知識で考えるならば「不気味」な存在。あいにく、そのことに傷つく心すらもないのだけど。
「それでも」と、怜はチラリと恒輔の方を見やった。

「俺に、記憶も感情も取り戻してやるって言ってくれる変な人がいた。俺自身は望んでいないって言ったにも関わらずにね。......俺のこと、不気味とも何とも思っていないようなんだ。しかもそんな変な人がまだ存在しているって言うんだから、不思議だよね」

 空と梓の方も横目で視線をやり、まるで他人事のように話す怜。
 怜は少女に目を向け、背高少年に目を向け、そして林太郎に戻す。彼はもう偽りの笑みを浮かべておらず、薄く影がかかる程度に顔を俯かせていた。

「きっと、そんなもんなんだよ。みんな突然のことに驚いたから理由を求めてきただけで、みんなだって俺を仲間にするのに大した理由なんてないはずなんだ。だから俺も、君たちを仲間にする理由を持ち合わせていない」
「......あんたが気づいてないだけで、あんたを利用しようと考えてるかもしれませんよ」
「そのときはそのとき、かな。他人の心なんてわからないから回避しようがないしね。だけど俺みたいな右も左もわからない人間は、誰かを信じないと動くことができないんだ。じっとしていたら、暇を持て余したニャー太に怒られそうだからね」

 そのとおりと言わんばかりにニャー太が高く鳴く。怜は改めて林太郎たち三人の顔を見回し、語りかけた。

「どうかな、これが俺なりの答えだ。悪いけど、メリットとかデメリットとか、余計に人の心をぐちゃぐちゃにしてしまいそうな要素はややこしいからなしだ。俺は君たちを仲間にしたいと思ったから、今こうして誘っている。ここに来てから初めての願いだ。俺は、理由もなく君たちを仲間にしたい」

 もう、恒輔たちがとやかく言ってくることはなかった。彼らは林太郎の答えを待っている。背高少年と少女は、しきりに顔を見合わせながら林太郎の様子を窺っている。
 不意に、林太郎の口が動いた。

「――か」

 それは、怜にしか聞こえなかった呟きだった。消え入りそうな声で、言った後には唇を噛みしめて、それが少し、震えていた。
 怜はその言葉の意味を考え、目を細めた。

「感情のある人間は、そんな器用なこともできるんだね」

 俺にはとてもできそうにない。
 無言で続いた言葉は林太郎に届いたようで、一瞬だけ見えた彼の表情は少しだけ力が抜けていた。彼の心中を語る感情の名はまだ知らない。一つ感じたのは、大丈夫だという予感だけだった。
 ビッと目の前に指が三本並べられる。ぱちりと一度瞬いた。

「三日。明日から三日間、オレたちはここにいてやります。ですが、オレたちはあんたらを信用するつもりはない。もしもオレたちがあんたらを信用し、その後も残るとすれば、それはあんたらがよっぽどできた人間だとわかったときです」
「......つまり、この三日間の俺たちの行動次第で、君たちが仲間になるかどうか決まる、と」
「そういうことです。三日間のお試しですよ。少しでもオレたちを無下に扱うような真似をしたら即座に出て行ってやる。オレたち三人をどんな理由であれ引き離そうとしてもだ。これぐらい条件つけたっていいでしょう? オレたちは誘われた側なんですから。......勝手に決めて悪い。これでいいか、陽介、桜」

 きっぱりと言い放ち、強気な瞳で挑戦的に怜を見上げた林太郎。そのあと目を伏せて背後の二人に問うた声は、少し罪悪感めいていた。
 「俺たちは大丈夫だ」と陽介と呼ばれた背高少年が返し、「桜子は?」と隣に問う。桜子と呼ばれた少女は何度も頷き、異議がないことを示した。
 それを肩越しに確認した林太郎はわざとらしい笑顔を見せる。

「そういうわけで、無理に等しいと思いますけど仲間にできるよう、せいぜい頑張ってくださいね?」

 怜は、脳内で林太郎の言ったことを反芻し......そして無表情のまま柔らかい声で告げた。

「わかりやすくて、いいね。ありがとう、やっぱり君たちは悪い子じゃないね」

 ここまで黙って見守ってくれていた三人の方を振り返る。何か考え込んでいる様子で目線を下に向けていた梓は、やがて顔を上げると――怜に向かって親指を立て、歯を見せて笑った。がしがしと頭を掻きながら空が言う。

「俺たち、そもそもおまえらのことも一晩泊めるだけの関係だと思っていたんだが......まあ、面倒を見るガキが増えるだけだ。食料とかの備蓄にも問題なし。条件に関しても守ると約束する。てか梓、おまえギャンギャン文句言ってた割にはあっさりOKするんだな」
「いやー、不法侵入の件についてはまだモヤモヤしますけど......今のやりとりを聞いて、怜さんの言うことにも納得しちゃったんですよね。言われてみればこいつらは根っからの悪者って感じはしないですし、誰かを仲間にするのに特別な理由なんていらない。だったらもう、オレも受け入れてもいいかなーって」

 「あ、でもやっぱ不法侵入のことは謝れよ!」と、梓が林太郎たち三人まとめて指差せば、三人は意外そうに顔を見合わせた。

「おい、何だよその反応」
「......謝るだけでいいんですか?」
「私たち、てっきり、何か対価が、必要だと......」

 陽介と桜子がおずおずと言い出せば、「なーに言ってんだよ」と梓が呆れきった声を出す。

「こんな世界だ。おまえらの行動も理解できなくはないし、対価なら仲間になって協力することで支払えるだろ。別に信用も......してくれたら嬉しいけど、無理強いはしない。ただ、オレも怜さんと同じように仲間になることを求める。さっきと意見は反対だけどな」

 「賑やかな方がいいだろ」と、梓はニッと笑って言いきった。
 その言葉を受けて、最初に深く頭を下げたのは陽介だった。

「勝手に、あなたたちの家に入ってすみません。そして......許してくれて、ありがとうございます」

 深い声だと怜は感じた。何が深いのか自分でもよくわからないが、きっとあれは、陽介なりの精一杯の謝罪と感謝なのだろう。
 陽介の行動にハッとなった桜子が、続いて「ごめんなさい」とおどおどとした様子で謝り、林太郎も頭こそ下げなかったが、「......悪かったです」とぼそりと呟いた。

「うむうむ、くるうしゅうない。素直で可愛い奴らだ」
「まあ、今思えばここって俺たちが勝手に拠点にしてるだけで、本当はある意味俺たちだって不法侵入みたいなもんだけどな」
「ああ、そういえばそうでしたね。オレってばうっかりしてました。さっきの謝罪、取り消しでいいですか?」
「余計なこと言わなくていいんですよ! そしておまえはそうやってすぐに調子に乗るなよ可愛くねえなあオイ!」
「はいはいおまえはそうやって突っかからない! おまえもそうやって煽らない! オラ、二人からここまで仲間が集まったんだ! 最初にするべきことがあるだろうが!」

 空がパンパンと手を叩くと、全員の注目がそちらに集まった。

「俺は天野空。一応この面子の中でリーダーをしている。正直めんどくせえけどな! 次、梓!」
「え!? あ、オレ、工藤梓! 改めて、よろしく! けど女呼ばわりしたら承知しねえからな!」

 梓はキッと女呼ばわりをしてきた林太郎を睨んだ。

「ほら、そこの失礼なチビ! おまえも正体をはっきりさせやがれ!」
「あんたも大概失礼ではないですかねえ? 氷山ひやま林太郎りんたろうです。三日という短い間ですが・・・・・・・・・・・、よろしくお願いします」
「林太郎、おまえはまたそうやって......。はあ、真戸まと陽介ようすけといいます。これからお世話になります」

 陽介は林太郎をたしなめた後、自身の自己紹介を済ませる。桜子の背中を軽く叩いて促せば、気づかされた彼女が肩を強張らせた。

「あ......大上おおかみ桜子さくらこ。よ、よろ、しく......えと......」

 桜子は陽介の陰に隠れつつ、恒輔の方を窺う。その視線に気づいた恒輔が「ああ、次オレの番か」とお茶目に軽く自分の頭を叩く。

「宇佐美恒輔。実はオレと隣の彼は今日この世界に来たばかりやねん。せやから、まあ......お手柔らかにな?」
「安心しろ、こいつら二人とも初日とは思えねえぐらい順応してるから、遠慮いらねえぞ」
「それと恒輔さんはすごいゲーマーだから、今行き詰まってるゲームがあれば攻略方法教えてくれるかも。てなわけで恒輔さん! あとで『我虎街闊歩記録』の龍王戦の攻略法を教えてください!」
「梓くんそれ内緒や堪忍して!! 龍王戦の効果的なコマンド教えるから!!」

 またギャアギャアと騒がしくなった彼らを、怜は一人ずつ見渡す。誰一人として自分を気にする様子がない。だからこそ、不思議で仕方がない。

「......それにしても、いいの?」

 静かな声でも存外よく通るようで、喧騒がピタリと止んで怪訝な六対の目が自分に集まる。

「俺は、何度も言った。自分は記憶も感情もない人間だって。自分が何者かもわからない。自分が今どんな感情を抱いているのかもわからない。そんな曖昧で不気味な存在、今さらだけど仲間にしていいの?」
「自分が何者かわからん? それはちゃうやろ」

 恒輔が即答する。「え」とこぼした怜に近づき、その心臓部を軽く拳でトントンと叩いた。

「自分、名前は?」

 少し、目を細める。わかりきった質問をしてくる意図が読めなくて、それでも首を傾げながら答える。

「......雨宮、怜」
「ほら、それが答えや」

 恒輔は細い目を開き、眦を緩めて穏やかに微笑んだ。まだ理解できず瞳の開閉を繰り返す怜に、空が便乗して言葉を乗せた。

「記憶がないから、感情がないから。ただそれだけで忌避する理由にはならねえだろ。おまえは雨宮怜。それさえわかってりゃ、俺たちにとっちゃ十分なんだよ」
「そうですよ! 怜さん、自分で言ってたじゃないですか! 仲間にするのに特別な理由なんていらないって! 怜さんはオレたちを助けてくれた恩人でもあるんですから、仲間外れになんかしませんよ!」

 梓が空の肩に飛びついて腕を回し、とびっきりの輝かしい笑顔を怜に向ける。「そうだけど」と冷静に反論しかけた怜だが、それは別の声によって遮られる。

「何が言いたいのかよくわかりませんけど、オレたちを引き入れたあんたが抜けるってなったら、それは本末転倒じゃないですか? あんたが抜けるなら、オレたちも抜けたいところですけど?」
「俺たち、記憶がないとかそんなの気にしませんよ」
「うん......別に、気に、ならない......」

 目を合わさず、括った黒髪の先端を指でいじりながらそう告げる林太郎。あとの二人も妥当なフォローを入れる。無感情なようで、しかし彼らは遠回しに「ここにいていい」と言ってくれていた。

 ――こんな自分でも、ここにいていいと。

 振り返る。その先にいた恒輔は微笑んだままだった。

「記憶や感情の有無関係なしに、オレは怜のやることを肯定する。怜はしょうもないこと気にせず、もっと自分の願いを持ったってええんや。......感情ってのは、願いから生まれるものでもあるんやから」

 怜の黒い瞳に自分の姿を映すよう、まっすぐその目を見つめる恒輔。両肩に置かれる手の重みは新鮮で、どこか憂いを帯びた雰囲気は知らない匂いがしそうだった。
 本当に感情は必要ないか。どうだろう。自分に記憶も感情も必要ないのはたしかで、それで誰かに怪物呼ばわりされても傷つかないだろう。
 だけど......じゃあ、この胸の内に広がる熱は。じんわりと暖かくて、少しだけ目が熱くなるこれは。たしかに、必要ないと思っていたはずの感情なのだろう。名前は知らない。別に知らなくてもいいと思う。
 ただ、この暖かさを覚えていれば。感情を持つことも悪くないとわかっていれば。

「よーし、これで俺たち七人は明確に仲間となったわけだ。ここで今後について語っておくぞ」

 再び空によって空気が切り替えられ、今後の方針が述べられた。

「俺たちの目標はこの世界から出ることだ。こんなところで化物にむざむざ殺されるなんざ、たまったものじゃねえ。よって、明日からここを抜け出すための手がかりを探し始める。しらみつぶしになるかもしれねえ。それでも爪痕一つ残さず死ぬのはごめんだ。そういうわけで、おまえら頑張って働けよ! 俺はここでおまえらの帰りを待っている!」
「「最低ですか」」

 梓と林太郎の声が重なり、それがきっかけで「真似しないでくださいよ」「してねえよ!」とまた騒がしくなる。賑やかさが絶えない仲間たちだ。......それが怜の願いに繋がった。
 守りたいと思った。こんな自分を、気味悪がらず仲間に迎え入れてくれた彼らを。

 ――俺はきっと、強いのだろう。あの化物に通じるかはわからないけど、多分戦える。みんなを守ることなら、何もなくたってできる。そうして返せるものを返していこう。

 それが、雨宮怜の今日からの存在意義だ。
 静かに決意を宿した瞳は、何にでも映せるように黒く、揺らぐことがなかった。
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