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第2章【三日月が満ちるまで】
27♥情報の非対称性と、サウナの妄想 | 上司、脳内で一線を越える【宇佐美】
★★★
本作はR18ではありませんが、宇佐美の過剰な脳内シミュレーション(性的妄想)が含まれます。
宇佐美の理性がバグる様子を楽しんでいただける方は、そのままお進みください。
★★★
「最初に『競合他社』、つまり彼氏の有無を確認しなかったのか?」
「合コンに来てる時点でフリー確定っしょ! 人数合わせだったなんて、聞いてないっすわ……」
「……不備だな。お前の精査不足だ」
俺は冷ややかに言い放ち、手元のハイボールを流し込んだ。
情報の非対称性を放置したままリソースを投入し続ければ、最後にプロジェクトが破綻するのは必然だ。
「もー、相変わらず優しさの欠片もないひでぇセリフ! 宇佐美さんもいつか同じ目に遭えばいいんすよ。その時は僕が全力で笑ってあげますからね!」
呪いのような捨て台詞を吐きながら、川口は「すみません、生もう一杯!」と店員を呼んだ。
「今日は俺の奢りだ。気の済むまで飲んで忘れろ」
焼き鳥の串をいじりながら、「マジで好きだったのにー!」とテーブルに突っ伏す川口を俺は見守っていた。
――その時だ。
俺の背筋を、冷たい氷の粒が滑り落ちるような感覚が走った。
(待てよ。……俺はどうなんだ?)
三井さんに彼氏がいるかどうか。
俺はこの恐ろしいファクトチェックを、一度も行っていなかった。
ビジネスにおけるリスクヘッジには余念がないこの俺が、人生最大の重要案件において致命的な見落としをしていた事実に、全身の毛が逆立つ。
彼女のあの笑顔も、もしかして単なる「福利厚生」の一環か?
コーヒー専門店の一杯も、もやし生活の冗談も、すべては円滑な人間関係を築くための派遣の処世術――。
だとしたら、俺は実体の伴わないダミーのターゲットに対して勝手に「熱」という名の過負荷なプロモーションをかけていただけなのか?
俺は現代の恋愛の境界線を測るべく、恐る恐る口を開いた。
「川口……。相手とはどこまで、その……接触があったんだ?」
「接触? 相変わらず堅苦しい言葉使ってますけど、手を出したかってことが聞きたいんですよね?」
「表現はどうでもいい。それで……具体的な進捗はどうなっている?」
「はいはい、接触ね。ディズニーでは普通に手を繋ぎましたよ。それにこの前は貸切のサウナにも行ってきたばかりです」
「サウナ!? ……裸で過ごしたってことか?」
「ちょっとー。宇佐美さんの想像するサウナとは違いますよ? 完全個室のプライベートサウナで二人して水着で一緒に整ってきたんです」
川口が力なく笑う。
彼氏がいても、他の男とディズニーへ行き、手を繋ぎ、サウナで肌を晒し合う。
それが現代のスタンダードなのか。
「それで帰りにキスしようとしたら、やんわり回避されましたけど……奥手な子なのかなって。結局、それ以外は何もないっす」
(……キス。サウナで整った後に、キス、だと?)
脳内の演算回路が、制御不能なシミュレーションを開始した。
三井さんと、サウナ。
薄暗い個室。
立ち込める熱い蒸気。
水着に包まれた彼女の、普段のオフィスカジュアルでは想像もつかないほど柔らかな肉体の曲線。
湿った肌に真珠のような汗が浮かぶ。
熱を帯びた頬と濡れた睫毛、艶やかに光る唇。
もしその状況で「キスを回避」されなかったら、その後の進展は?
そのまま水着の紐に指をかけるような展開が、今の若い世代の「スタンダード」に含まれているというのか。
(……俺の理性は、この毒性の強い妄想を「ただの仮定」として処理しきれるほど、強固にできているのか?)
想像しただけで口の中が異常に乾き、ネクタイの下の頸動脈がドクドクと警鐘を鳴らし始める。
手のひらに伝わる湿り気、耳元で刻まれる彼女の吐息。
視覚情報だけではない、触覚、嗅覚までもが脳内を完全に占拠し、俺の理性を内側から焼き切ろうとしていた。
「宇佐美さん、顔、真っ赤ですよ?」
川口の声で現実へと引き戻される。
「もしかして、僕の彼女の水着姿を想像してました? 宇佐美さんもやっぱ男っすねぇ」
「そういうのでは……ない」
俺の想像を川口に悟られたくなく、ハイボールを飲もうとするが中身は空だった。
「サウナの水着ごときで宇佐美さん興奮しすぎ。禁欲生活でも送ってるんですか?」
さっきまで沈んでいた川口が、俺のうろたえる姿を見て、ここぞとばかりに意地悪く笑い出す。
「……ふざけるな。俺はただ、公共の場に近い施設での規律と、個体間の境界線について考察していただけだ」
自分でも驚くほど苦しい言い訳を並べ立て、ちょうど運ばれてきた追加のハイボールをひったくるように受け取った。
喉の奥に冷たいアルコールを流し込み、熱を帯びた思考を強引にクールダウンさせる。
だが、グラスをテーブルに置いたその瞬間、脳内を支配していた肌色の霧が晴れ、代わりにもっと冷酷で根本的な問題がその姿を現した。
(……川口は手を繋いだり水着で一緒に過ごしたのに、本命ではなかったのか?)
脳内の演算回路が火花を散らし、エラー音を上げている。
俺は三井さんにまだ一度も触れてさえいない。
進捗状況としては、川口よりも遥か手前、スタートラインにさえ立っていないということだ。
もし三井さんに本命がいたら、俺も間違いなく「川口コース」……
「宇佐美さんもいつか同じ目に遭えばいいんすよ」という川口の呪いをそのまま再現してしまうのか?
しかしここではっきりさせなければ、内に秘めた「飢え」は正体不明の化け物になってしまう。
彼女の口から「彼氏、います」と宣告されたら、その瞬間、俺のメンタルという名のサーバーが回復不能なダウンを起こすのは火を見るより明らかだった。
本音を言えば、三井さんとの時間は終わらせたくない。
けれど、既に彼女の前では「上司」という仮面は剥がれつつあり、彼女のすべてを俺で埋め尽くしたいという独占欲まで出てきてしまっている。
もはや気づかないフリをすることなど不可能だ。
ついさっきまでは、川口に対し「精査不足」と説教していた俺自身が、一番の精査不足だったとは……
本作はR18ではありませんが、宇佐美の過剰な脳内シミュレーション(性的妄想)が含まれます。
宇佐美の理性がバグる様子を楽しんでいただける方は、そのままお進みください。
★★★
「最初に『競合他社』、つまり彼氏の有無を確認しなかったのか?」
「合コンに来てる時点でフリー確定っしょ! 人数合わせだったなんて、聞いてないっすわ……」
「……不備だな。お前の精査不足だ」
俺は冷ややかに言い放ち、手元のハイボールを流し込んだ。
情報の非対称性を放置したままリソースを投入し続ければ、最後にプロジェクトが破綻するのは必然だ。
「もー、相変わらず優しさの欠片もないひでぇセリフ! 宇佐美さんもいつか同じ目に遭えばいいんすよ。その時は僕が全力で笑ってあげますからね!」
呪いのような捨て台詞を吐きながら、川口は「すみません、生もう一杯!」と店員を呼んだ。
「今日は俺の奢りだ。気の済むまで飲んで忘れろ」
焼き鳥の串をいじりながら、「マジで好きだったのにー!」とテーブルに突っ伏す川口を俺は見守っていた。
――その時だ。
俺の背筋を、冷たい氷の粒が滑り落ちるような感覚が走った。
(待てよ。……俺はどうなんだ?)
三井さんに彼氏がいるかどうか。
俺はこの恐ろしいファクトチェックを、一度も行っていなかった。
ビジネスにおけるリスクヘッジには余念がないこの俺が、人生最大の重要案件において致命的な見落としをしていた事実に、全身の毛が逆立つ。
彼女のあの笑顔も、もしかして単なる「福利厚生」の一環か?
コーヒー専門店の一杯も、もやし生活の冗談も、すべては円滑な人間関係を築くための派遣の処世術――。
だとしたら、俺は実体の伴わないダミーのターゲットに対して勝手に「熱」という名の過負荷なプロモーションをかけていただけなのか?
俺は現代の恋愛の境界線を測るべく、恐る恐る口を開いた。
「川口……。相手とはどこまで、その……接触があったんだ?」
「接触? 相変わらず堅苦しい言葉使ってますけど、手を出したかってことが聞きたいんですよね?」
「表現はどうでもいい。それで……具体的な進捗はどうなっている?」
「はいはい、接触ね。ディズニーでは普通に手を繋ぎましたよ。それにこの前は貸切のサウナにも行ってきたばかりです」
「サウナ!? ……裸で過ごしたってことか?」
「ちょっとー。宇佐美さんの想像するサウナとは違いますよ? 完全個室のプライベートサウナで二人して水着で一緒に整ってきたんです」
川口が力なく笑う。
彼氏がいても、他の男とディズニーへ行き、手を繋ぎ、サウナで肌を晒し合う。
それが現代のスタンダードなのか。
「それで帰りにキスしようとしたら、やんわり回避されましたけど……奥手な子なのかなって。結局、それ以外は何もないっす」
(……キス。サウナで整った後に、キス、だと?)
脳内の演算回路が、制御不能なシミュレーションを開始した。
三井さんと、サウナ。
薄暗い個室。
立ち込める熱い蒸気。
水着に包まれた彼女の、普段のオフィスカジュアルでは想像もつかないほど柔らかな肉体の曲線。
湿った肌に真珠のような汗が浮かぶ。
熱を帯びた頬と濡れた睫毛、艶やかに光る唇。
もしその状況で「キスを回避」されなかったら、その後の進展は?
そのまま水着の紐に指をかけるような展開が、今の若い世代の「スタンダード」に含まれているというのか。
(……俺の理性は、この毒性の強い妄想を「ただの仮定」として処理しきれるほど、強固にできているのか?)
想像しただけで口の中が異常に乾き、ネクタイの下の頸動脈がドクドクと警鐘を鳴らし始める。
手のひらに伝わる湿り気、耳元で刻まれる彼女の吐息。
視覚情報だけではない、触覚、嗅覚までもが脳内を完全に占拠し、俺の理性を内側から焼き切ろうとしていた。
「宇佐美さん、顔、真っ赤ですよ?」
川口の声で現実へと引き戻される。
「もしかして、僕の彼女の水着姿を想像してました? 宇佐美さんもやっぱ男っすねぇ」
「そういうのでは……ない」
俺の想像を川口に悟られたくなく、ハイボールを飲もうとするが中身は空だった。
「サウナの水着ごときで宇佐美さん興奮しすぎ。禁欲生活でも送ってるんですか?」
さっきまで沈んでいた川口が、俺のうろたえる姿を見て、ここぞとばかりに意地悪く笑い出す。
「……ふざけるな。俺はただ、公共の場に近い施設での規律と、個体間の境界線について考察していただけだ」
自分でも驚くほど苦しい言い訳を並べ立て、ちょうど運ばれてきた追加のハイボールをひったくるように受け取った。
喉の奥に冷たいアルコールを流し込み、熱を帯びた思考を強引にクールダウンさせる。
だが、グラスをテーブルに置いたその瞬間、脳内を支配していた肌色の霧が晴れ、代わりにもっと冷酷で根本的な問題がその姿を現した。
(……川口は手を繋いだり水着で一緒に過ごしたのに、本命ではなかったのか?)
脳内の演算回路が火花を散らし、エラー音を上げている。
俺は三井さんにまだ一度も触れてさえいない。
進捗状況としては、川口よりも遥か手前、スタートラインにさえ立っていないということだ。
もし三井さんに本命がいたら、俺も間違いなく「川口コース」……
「宇佐美さんもいつか同じ目に遭えばいいんすよ」という川口の呪いをそのまま再現してしまうのか?
しかしここではっきりさせなければ、内に秘めた「飢え」は正体不明の化け物になってしまう。
彼女の口から「彼氏、います」と宣告されたら、その瞬間、俺のメンタルという名のサーバーが回復不能なダウンを起こすのは火を見るより明らかだった。
本音を言えば、三井さんとの時間は終わらせたくない。
けれど、既に彼女の前では「上司」という仮面は剥がれつつあり、彼女のすべてを俺で埋め尽くしたいという独占欲まで出てきてしまっている。
もはや気づかないフリをすることなど不可能だ。
ついさっきまでは、川口に対し「精査不足」と説教していた俺自身が、一番の精査不足だったとは……
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