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お義兄様ルート
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お兄様は、話を終えると、婚約の手続きの為に戻っていった。
私のことが心配だから、もう少し側にいると言ってくれたけれど、今は1人で考えたいので、お断りした。
私とお兄様が従兄妹……
お父様とお母様はもう居ない……
両親が生きていたら、私は今頃どうしていたのだろう。
そんな考えても仕方ないことを考えてしまう……
仲睦まじかったという両親を想像し、切なくなる。
でも、今までお兄様とお父様が私に向けてくれた愛情は嘘ではない。
とても大事に育てて貰ったと思っている。
自分が、本当の家族ではないと想像すらする事も無いほどに、大事にしてくれた。
私は、本当に幸せだったの。
だから、今、本当の両親は亡くなっていると聞いて、悲しくはあるけれど、今まで過ごしてきた幸せな時間が私を優しく包んでくれる。
衝撃を受けて、混乱はしているけれど……悲しむのは今だけ。
いつまでも沈んでいたら、空から見守ってくれている両親に心配を掛けてしまうし、たくさんの愛情を注いでくれたお父様とお兄様に申し訳ない。
今度、お墓参りに行って、挨拶をしてきましょう。
大事に育てて貰い幸せに過ごしていたと報告に……
静かに目を閉じると、精神的に疲労した体は、深い眠りへと落ちていく。
◇ ◇ ◇
昨日、お兄様から聞いた話を思い出す。
アルフォンス様が私と婚約しようとしていたなんて、信じられないけれど、お兄様が確信を持って話していたから、本当のことなのよね。
でも……私はアルフォンス様の気持ちに応えることは出来ない。
お兄様と婚約すれば嫁に出る事もなく、邸でお父様やみんなと変わらぬ日々を過ごす事が出来る。
きっと、これが私にとって最良の結果なのだと思う。
お兄様が私を愛してくれているというのだもの。
愛されて結婚するなんて、幸せなことのはず。
私は……お兄様のこと……
まだ、1人の男性として見る事はできないけれど、日が経てば、そのうち……お兄様を愛するようになるのかも知れない。
こればかりは、私にも分からない。
「お嬢様、手が止まっておりますが、食欲がありませんか?」
つい、考えに耽ってしまって、朝食を食べていた手が止まっていたのを、レンが心配して声を掛けてくる。
「いえ……ちょっと考え事をしていたの。朝食は美味しいし、昨日は食べずに寝てしまったから、お腹も空いていたし、大丈夫よ」
「それなら、良かったです」
「これは、レンにも話しておかなければいけないわね。昨日、決まったことなのだけれど……私、お兄様と婚約する事になったの」
レンは、驚いたように目を見開き、一瞬、動きを止めるも「おめでとうございます」と言った。
私とお兄様の婚約について、何も疑問に思わないのね。
私とお兄様が従兄妹だということを、レンも知っているのね。
いや、我が家に仕えている者たちは皆知っているのかもしれない。
私だけが何も知らなかった……そのことに、少し疎外感を感じてしまう……
けれど、きっと、これも私を想っての事。
卑屈になってはいけないわ。
さて、今日も薬作りをしましょう。
あっ、お兄様と結婚することになったら、私はここを出て邸に戻ることになるのよね。
薬師としての仕事は……お兄様と今後について話をしなければ。
お兄様に、連絡しようと思っていると、リコリスの瞳が赤く染まりだす。
「メル、午後のティータイムにそちらにお邪魔しようと思うんだけど、良いかな?」
「え? 私は大丈夫ですが、お兄様はお忙しいのでは?」
「メルと過ごす時間を作る事くらい出来るよ」
「それなら、私も丁度お兄様と話さなければと思っていたので、お待ちしてますね」
「あぁ、それじゃ、また後で」
昨日、こちらに来たばかりなのに、今日もいらっしゃるなんて、どんなお話なのかしら。
でも、こちらに来るたびに、アランさんに移動のお手伝いをして貰うのも大変よね。
きっと、通話だけではなく、会って話さなければいけないことなのよね。
いつもと変わらず薬作りをしていると、お兄様とのティータイムの時間になった。
「今日は、どのようなお話が?」
「いや、特に話さなければならない事はないよ。婚約者として、これからメルとの時間を多く持とうと思ってね」
「そうだったのですね……。でも、アランさんにご迷惑をお掛けしてしまうのではないですか?」
「あぁ、転移の魔道具だけど、私用にも作って貰ったんだよ。ここと邸を往復できるだけの機能しかないものをね」
いつの間に……
でも、確かに、これからお兄様が頻繁にこちらに来る事を考えれば、その方が、アランさんのご迷惑にならないわね。
「それでしたら、気軽に行き来しやすいですわね」
「だから、これからは毎日ティータイムを一緒に過ごしたいと思っているんだが、良いかな?」
「毎日ですか? 私は構いませんが……」
「良かった。メルは、まだ私の事を兄としてしか見ることは出来ないと思うが、これからは私と過ごす時間を増やしていって、少しずつ異性として意識して行ってくれればと思っているんだよ。ただ、焦らずゆっくりでいいんだよ。自然と、メルの気持ちが育つのを待つつもりだから」
「お兄様……」
「ただ、お兄様と呼び続ける事は、関係に変化を持たせにくいから、まずは、その呼び方から変えてみようか。フェルと呼んでごらん」
お兄様を愛称で呼ぶなんて……
あぁ、でも、お兄様ではなく、婚約者だったわ。
「フェ・・・・フェル?」
「そう、良い子だね」
お兄様は、優しく微笑み、頭を撫でた。
私のことが心配だから、もう少し側にいると言ってくれたけれど、今は1人で考えたいので、お断りした。
私とお兄様が従兄妹……
お父様とお母様はもう居ない……
両親が生きていたら、私は今頃どうしていたのだろう。
そんな考えても仕方ないことを考えてしまう……
仲睦まじかったという両親を想像し、切なくなる。
でも、今までお兄様とお父様が私に向けてくれた愛情は嘘ではない。
とても大事に育てて貰ったと思っている。
自分が、本当の家族ではないと想像すらする事も無いほどに、大事にしてくれた。
私は、本当に幸せだったの。
だから、今、本当の両親は亡くなっていると聞いて、悲しくはあるけれど、今まで過ごしてきた幸せな時間が私を優しく包んでくれる。
衝撃を受けて、混乱はしているけれど……悲しむのは今だけ。
いつまでも沈んでいたら、空から見守ってくれている両親に心配を掛けてしまうし、たくさんの愛情を注いでくれたお父様とお兄様に申し訳ない。
今度、お墓参りに行って、挨拶をしてきましょう。
大事に育てて貰い幸せに過ごしていたと報告に……
静かに目を閉じると、精神的に疲労した体は、深い眠りへと落ちていく。
◇ ◇ ◇
昨日、お兄様から聞いた話を思い出す。
アルフォンス様が私と婚約しようとしていたなんて、信じられないけれど、お兄様が確信を持って話していたから、本当のことなのよね。
でも……私はアルフォンス様の気持ちに応えることは出来ない。
お兄様と婚約すれば嫁に出る事もなく、邸でお父様やみんなと変わらぬ日々を過ごす事が出来る。
きっと、これが私にとって最良の結果なのだと思う。
お兄様が私を愛してくれているというのだもの。
愛されて結婚するなんて、幸せなことのはず。
私は……お兄様のこと……
まだ、1人の男性として見る事はできないけれど、日が経てば、そのうち……お兄様を愛するようになるのかも知れない。
こればかりは、私にも分からない。
「お嬢様、手が止まっておりますが、食欲がありませんか?」
つい、考えに耽ってしまって、朝食を食べていた手が止まっていたのを、レンが心配して声を掛けてくる。
「いえ……ちょっと考え事をしていたの。朝食は美味しいし、昨日は食べずに寝てしまったから、お腹も空いていたし、大丈夫よ」
「それなら、良かったです」
「これは、レンにも話しておかなければいけないわね。昨日、決まったことなのだけれど……私、お兄様と婚約する事になったの」
レンは、驚いたように目を見開き、一瞬、動きを止めるも「おめでとうございます」と言った。
私とお兄様の婚約について、何も疑問に思わないのね。
私とお兄様が従兄妹だということを、レンも知っているのね。
いや、我が家に仕えている者たちは皆知っているのかもしれない。
私だけが何も知らなかった……そのことに、少し疎外感を感じてしまう……
けれど、きっと、これも私を想っての事。
卑屈になってはいけないわ。
さて、今日も薬作りをしましょう。
あっ、お兄様と結婚することになったら、私はここを出て邸に戻ることになるのよね。
薬師としての仕事は……お兄様と今後について話をしなければ。
お兄様に、連絡しようと思っていると、リコリスの瞳が赤く染まりだす。
「メル、午後のティータイムにそちらにお邪魔しようと思うんだけど、良いかな?」
「え? 私は大丈夫ですが、お兄様はお忙しいのでは?」
「メルと過ごす時間を作る事くらい出来るよ」
「それなら、私も丁度お兄様と話さなければと思っていたので、お待ちしてますね」
「あぁ、それじゃ、また後で」
昨日、こちらに来たばかりなのに、今日もいらっしゃるなんて、どんなお話なのかしら。
でも、こちらに来るたびに、アランさんに移動のお手伝いをして貰うのも大変よね。
きっと、通話だけではなく、会って話さなければいけないことなのよね。
いつもと変わらず薬作りをしていると、お兄様とのティータイムの時間になった。
「今日は、どのようなお話が?」
「いや、特に話さなければならない事はないよ。婚約者として、これからメルとの時間を多く持とうと思ってね」
「そうだったのですね……。でも、アランさんにご迷惑をお掛けしてしまうのではないですか?」
「あぁ、転移の魔道具だけど、私用にも作って貰ったんだよ。ここと邸を往復できるだけの機能しかないものをね」
いつの間に……
でも、確かに、これからお兄様が頻繁にこちらに来る事を考えれば、その方が、アランさんのご迷惑にならないわね。
「それでしたら、気軽に行き来しやすいですわね」
「だから、これからは毎日ティータイムを一緒に過ごしたいと思っているんだが、良いかな?」
「毎日ですか? 私は構いませんが……」
「良かった。メルは、まだ私の事を兄としてしか見ることは出来ないと思うが、これからは私と過ごす時間を増やしていって、少しずつ異性として意識して行ってくれればと思っているんだよ。ただ、焦らずゆっくりでいいんだよ。自然と、メルの気持ちが育つのを待つつもりだから」
「お兄様……」
「ただ、お兄様と呼び続ける事は、関係に変化を持たせにくいから、まずは、その呼び方から変えてみようか。フェルと呼んでごらん」
お兄様を愛称で呼ぶなんて……
あぁ、でも、お兄様ではなく、婚約者だったわ。
「フェ・・・・フェル?」
「そう、良い子だね」
お兄様は、優しく微笑み、頭を撫でた。
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