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ハルトルート
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「お嬢様、お初にお目にかかります。リズと申します。いつもここで仕事をしておりますので、お会いする機会がなかったですよね」
私が気にしていたからか、女性の方から挨拶をしてくれた。リズというのね。声も高過ぎず通る綺麗な声だわ。
「メルティアナと申します。こちらには……もう半月もお世話になってしまっていますわ。でも、そろそろ家に戻ろうと思っていますの」
「……今、なんて?」
リズさんと会話をしていると、ハルト様が、私の顎をクイっと上に向かせ、厳しい顔をしていた。
顔が……ち、近いわ……
手を離していただけないかしら。そして、何か怒っていらっしゃるのかしら……
「あの……手を……」
「私の聞き間違いでなければ、家に帰ると聞こえたが」
「あの、そうですね。そろそろレンとも普通に接することが出来そうだと思いまして。いつまでもお世話になっているわけにはいきませんので」
「そんなことは気にしなくていい。世話になることを悪いと思う必要は微塵もない。……少し早いが……行こうか」
「え? あの、どちらに?」
ハルト様は問いに答えることはなく、私を抱き上げたまま無言で歩みを進めていく。
普段通ることのない廊下を抜けて、邸の裏手に出るとそこには……
「これは……」
「本当は、すべての準備が済んでから見せたかったんだが、ここから出て行こうとするのを聞いて、すぐ見せた方がいいと判断した」
森にある家と全く同じ家が建っていた。
そして、周りにも小さな苗木が沢山植っており、リスたちの小屋まで再現されていた。
「フェルナンド殿に協力してもらってね。同じものを建てさせた。メルティアナ嬢は、植物魔法を使えるから、周りに苗木だけ植えてある。あとは、君は魔法で成長させれば、あの森の状態を再現出来るはずだ」
「ハルト様……どうしてここまで……」
「愛しているからだよ。言葉だけでなく、行動で私の気持ちを分かって欲しかったんだ。私の気持ちが伝わっているか?」
「えぇ……とても伝わりますわ。こんな私に、こんなに……」
「私の愛する人にこんななんて言わないで欲しい。メルティアナ嬢は、優しい素敵な女性だ」
「ありがとうございます……」
こんなに良くしてくださるのに、気持ちが伝わるのに……どうしても、彼女との関係が気になってしまう。
いつも執務室で、二人でお仕事をされている。あの親しさ……
あんなに綺麗な人が側にいるのに、何も思わないものなのかしら……
「思うことがあるなら、なんでも言って欲しい。先程から少し様子がおかしいように思うが……」
「……あの、リズさんと随分と親しそうだなと思いまして……」
あぁ、こんな言い方したくないのに……
どう言葉にすればいいのか分からない。
「リズ……? もしかして……、いや、まさか……」
「あの……?」
急に片手で目を覆い、上を向いてしまった。
一体、どうしてしまったのかしら……
「もしかしてなんだが……」
「はい?」
「嫉妬しているのか?」
「……し、嫉妬!? え、いえ、その……」
嫉妬……そう言われてみれば、そうなのかもしれない。
「自惚れでなければ、メルティアナ嬢も私に好意を持っていると思っていいのか?」
「う……あの……そうですわね。私も自覚したばかりなので……」
「ちゃんと気持ちを聞いても?」
「……お慕いしております」
こんな形で、ハルト様に想いを伝えることになるなんて。
気持ちを自覚したばかりだというのに。
「好きな人から愛の言葉を貰えると、こんなにも心が満たされるのだということを知ったよ。メルティアナ嬢、ありがとう」
「そんな……私の方こそ、ありがとうございます」
「さぁ、ここはまだ完成していないから、そろそろ執務室に戻ろう。お茶の準備も整っていることだろうし、リズの話をしようか」
「はい……」
二人の関係は、どういったものなのだろう。
元恋人とか……ハルト様も大人だもの。そういう人が居てもおかしくはないけれど……
「おかえりなさいませ。お茶の用意が整っております」
「ありがとう。それじゃ、先延ばしにしても良いことはないから……リズ、君の恋人は誰だ?」
「は? いきなり何を……あぁ、そういうことですか。お嬢様、ご心配なく。私とハルト様は、ただの仕事上の関係だけになります。先程のは……タイが曲がっているのが気になってしまって……今後はそういうことも控えていきますね。それに、私の恋人は……お嬢様のお世話をさせていただいているリンですよ」
「え……? リン? あの赤毛のお下げが可愛い?」
「えぇ、そのリンです。いつもお嬢様の髪はサラサラで綺麗だの、肌は透き通るように美しいだの、こちらの方がお嬢様に嫉妬してしまいますよ」
「まぁ……」
まさか、リズさんとリンがお付き合いしていたなんて……
恋愛対象が男性じゃないと知れてホッとした。
こんなに魅力的な人がそばに居たら、いつか間違いを犯すのではないかと心配だったから……
「これで、安心したか? 私とリズがどうこうなることはないから、心配する必要はない」
「はい……もう恥ずかし過ぎますわ」
「ははっ、私は嫉妬して貰えて嬉しかったがな」
「もう……」
初めての嫉妬という感情は、いとも簡単に霧散してしまった。
ちゃんとハルト様を信じていけるような強い心を持てるようにならなくてはね。
私が気にしていたからか、女性の方から挨拶をしてくれた。リズというのね。声も高過ぎず通る綺麗な声だわ。
「メルティアナと申します。こちらには……もう半月もお世話になってしまっていますわ。でも、そろそろ家に戻ろうと思っていますの」
「……今、なんて?」
リズさんと会話をしていると、ハルト様が、私の顎をクイっと上に向かせ、厳しい顔をしていた。
顔が……ち、近いわ……
手を離していただけないかしら。そして、何か怒っていらっしゃるのかしら……
「あの……手を……」
「私の聞き間違いでなければ、家に帰ると聞こえたが」
「あの、そうですね。そろそろレンとも普通に接することが出来そうだと思いまして。いつまでもお世話になっているわけにはいきませんので」
「そんなことは気にしなくていい。世話になることを悪いと思う必要は微塵もない。……少し早いが……行こうか」
「え? あの、どちらに?」
ハルト様は問いに答えることはなく、私を抱き上げたまま無言で歩みを進めていく。
普段通ることのない廊下を抜けて、邸の裏手に出るとそこには……
「これは……」
「本当は、すべての準備が済んでから見せたかったんだが、ここから出て行こうとするのを聞いて、すぐ見せた方がいいと判断した」
森にある家と全く同じ家が建っていた。
そして、周りにも小さな苗木が沢山植っており、リスたちの小屋まで再現されていた。
「フェルナンド殿に協力してもらってね。同じものを建てさせた。メルティアナ嬢は、植物魔法を使えるから、周りに苗木だけ植えてある。あとは、君は魔法で成長させれば、あの森の状態を再現出来るはずだ」
「ハルト様……どうしてここまで……」
「愛しているからだよ。言葉だけでなく、行動で私の気持ちを分かって欲しかったんだ。私の気持ちが伝わっているか?」
「えぇ……とても伝わりますわ。こんな私に、こんなに……」
「私の愛する人にこんななんて言わないで欲しい。メルティアナ嬢は、優しい素敵な女性だ」
「ありがとうございます……」
こんなに良くしてくださるのに、気持ちが伝わるのに……どうしても、彼女との関係が気になってしまう。
いつも執務室で、二人でお仕事をされている。あの親しさ……
あんなに綺麗な人が側にいるのに、何も思わないものなのかしら……
「思うことがあるなら、なんでも言って欲しい。先程から少し様子がおかしいように思うが……」
「……あの、リズさんと随分と親しそうだなと思いまして……」
あぁ、こんな言い方したくないのに……
どう言葉にすればいいのか分からない。
「リズ……? もしかして……、いや、まさか……」
「あの……?」
急に片手で目を覆い、上を向いてしまった。
一体、どうしてしまったのかしら……
「もしかしてなんだが……」
「はい?」
「嫉妬しているのか?」
「……し、嫉妬!? え、いえ、その……」
嫉妬……そう言われてみれば、そうなのかもしれない。
「自惚れでなければ、メルティアナ嬢も私に好意を持っていると思っていいのか?」
「う……あの……そうですわね。私も自覚したばかりなので……」
「ちゃんと気持ちを聞いても?」
「……お慕いしております」
こんな形で、ハルト様に想いを伝えることになるなんて。
気持ちを自覚したばかりだというのに。
「好きな人から愛の言葉を貰えると、こんなにも心が満たされるのだということを知ったよ。メルティアナ嬢、ありがとう」
「そんな……私の方こそ、ありがとうございます」
「さぁ、ここはまだ完成していないから、そろそろ執務室に戻ろう。お茶の準備も整っていることだろうし、リズの話をしようか」
「はい……」
二人の関係は、どういったものなのだろう。
元恋人とか……ハルト様も大人だもの。そういう人が居てもおかしくはないけれど……
「おかえりなさいませ。お茶の用意が整っております」
「ありがとう。それじゃ、先延ばしにしても良いことはないから……リズ、君の恋人は誰だ?」
「は? いきなり何を……あぁ、そういうことですか。お嬢様、ご心配なく。私とハルト様は、ただの仕事上の関係だけになります。先程のは……タイが曲がっているのが気になってしまって……今後はそういうことも控えていきますね。それに、私の恋人は……お嬢様のお世話をさせていただいているリンですよ」
「え……? リン? あの赤毛のお下げが可愛い?」
「えぇ、そのリンです。いつもお嬢様の髪はサラサラで綺麗だの、肌は透き通るように美しいだの、こちらの方がお嬢様に嫉妬してしまいますよ」
「まぁ……」
まさか、リズさんとリンがお付き合いしていたなんて……
恋愛対象が男性じゃないと知れてホッとした。
こんなに魅力的な人がそばに居たら、いつか間違いを犯すのではないかと心配だったから……
「これで、安心したか? 私とリズがどうこうなることはないから、心配する必要はない」
「はい……もう恥ずかし過ぎますわ」
「ははっ、私は嫉妬して貰えて嬉しかったがな」
「もう……」
初めての嫉妬という感情は、いとも簡単に霧散してしまった。
ちゃんとハルト様を信じていけるような強い心を持てるようにならなくてはね。
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