【本編書籍化】【ifルート】簡単に聖女に魅了されるような男は、捨てて差し上げます。

Ria★2巻発売中『簡単に聖女に魅了〜』

文字の大きさ
16 / 21
ハルトルート

5

しおりを挟む
 「お嬢様、お初にお目にかかります。リズと申します。いつもここで仕事をしておりますので、お会いする機会がなかったですよね」

 私が気にしていたからか、女性の方から挨拶をしてくれた。リズというのね。声も高過ぎず通る綺麗な声だわ。

 「メルティアナと申します。こちらには……もう半月もお世話になってしまっていますわ。でも、そろそろ家に戻ろうと思っていますの」

 「……今、なんて?」

 リズさんと会話をしていると、ハルト様が、私の顎をクイっと上に向かせ、厳しい顔をしていた。
 顔が……ち、近いわ……
 手を離していただけないかしら。そして、何か怒っていらっしゃるのかしら……

 「あの……手を……」

 「私の聞き間違いでなければ、家に帰ると聞こえたが」

 「あの、そうですね。そろそろレンとも普通に接することが出来そうだと思いまして。いつまでもお世話になっているわけにはいきませんので」

 「そんなことは気にしなくていい。世話になることを悪いと思う必要は微塵もない。……少し早いが……行こうか」

 「え? あの、どちらに?」

 ハルト様は問いに答えることはなく、私を抱き上げたまま無言で歩みを進めていく。
 普段通ることのない廊下を抜けて、邸の裏手に出るとそこには……

 「これは……」

 「本当は、すべての準備が済んでから見せたかったんだが、ここから出て行こうとするのを聞いて、すぐ見せた方がいいと判断した」

 森にある家と全く同じ家が建っていた。
 そして、周りにも小さな苗木が沢山植っており、リスたちの小屋まで再現されていた。

 「フェルナンド殿に協力してもらってね。同じものを建てさせた。メルティアナ嬢は、植物魔法を使えるから、周りに苗木だけ植えてある。あとは、君は魔法で成長させれば、あの森の状態を再現出来るはずだ」

 「ハルト様……どうしてここまで……」

 「愛しているからだよ。言葉だけでなく、行動で私の気持ちを分かって欲しかったんだ。私の気持ちが伝わっているか?」

 「えぇ……とても伝わりますわ。こんな私に、こんなに……」

 「私の愛する人にこんななんて言わないで欲しい。メルティアナ嬢は、優しい素敵な女性だ」

 「ありがとうございます……」

 こんなに良くしてくださるのに、気持ちが伝わるのに……どうしても、彼女との関係が気になってしまう。
 いつも執務室で、二人でお仕事をされている。あの親しさ……
 あんなに綺麗な人が側にいるのに、何も思わないものなのかしら……

 「思うことがあるなら、なんでも言って欲しい。先程から少し様子がおかしいように思うが……」

 「……あの、リズさんと随分と親しそうだなと思いまして……」

 あぁ、こんな言い方したくないのに……
 どう言葉にすればいいのか分からない。

 「リズ……? もしかして……、いや、まさか……」

 「あの……?」

 急に片手で目を覆い、上を向いてしまった。
 一体、どうしてしまったのかしら……

 「もしかしてなんだが……」

 「はい?」

 「嫉妬しているのか?」

 「……し、嫉妬!? え、いえ、その……」

 嫉妬……そう言われてみれば、そうなのかもしれない。

 「自惚れでなければ、メルティアナ嬢も私に好意を持っていると思っていいのか?」

 「う……あの……そうですわね。私も自覚したばかりなので……」

 「ちゃんと気持ちを聞いても?」

 「……お慕いしております」

 こんな形で、ハルト様に想いを伝えることになるなんて。
 気持ちを自覚したばかりだというのに。

 「好きな人から愛の言葉を貰えると、こんなにも心が満たされるのだということを知ったよ。メルティアナ嬢、ありがとう」

 「そんな……私の方こそ、ありがとうございます」

 「さぁ、ここはまだ完成していないから、そろそろ執務室に戻ろう。お茶の準備も整っていることだろうし、リズの話をしようか」

 「はい……」

 二人の関係は、どういったものなのだろう。
 元恋人とか……ハルト様も大人だもの。そういう人が居てもおかしくはないけれど……

 「おかえりなさいませ。お茶の用意が整っております」

 「ありがとう。それじゃ、先延ばしにしても良いことはないから……リズ、君の恋人は誰だ?」

 「は? いきなり何を……あぁ、そういうことですか。お嬢様、ご心配なく。私とハルト様は、ただの仕事上の関係だけになります。先程のは……タイが曲がっているのが気になってしまって……今後はそういうことも控えていきますね。それに、私の恋人は……お嬢様のお世話をさせていただいているリンですよ」

 「え……? リン? あの赤毛のお下げが可愛い?」

 「えぇ、そのリンです。いつもお嬢様の髪はサラサラで綺麗だの、肌は透き通るように美しいだの、こちらの方がお嬢様に嫉妬してしまいますよ」

 「まぁ……」

 まさか、リズさんとリンがお付き合いしていたなんて……
 恋愛対象が男性じゃないと知れてホッとした。
 こんなに魅力的な人がそばに居たら、いつか間違いを犯すのではないかと心配だったから……

 「これで、安心したか? 私とリズがどうこうなることはないから、心配する必要はない」

 「はい……もう恥ずかし過ぎますわ」

 「ははっ、私は嫉妬して貰えて嬉しかったがな」

 「もう……」

 初めての嫉妬という感情は、いとも簡単に霧散してしまった。
 ちゃんとハルト様を信じていけるような強い心を持てるようにならなくてはね。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。

古森真朝
ファンタジー
 「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。  俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」  新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは―― ※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。

下賜されまして ~戦場の餓鬼と呼ばれた軍人との甘い日々~

星森
恋愛
王宮から突然嫁がされた18歳の少女・ソフィアは、冷たい風の吹く屋敷へと降り立つ。迎えたのは、無愛想で人嫌いな騎士爵グラッド・エルグレイム。金貨の袋を渡され「好きにしろ」と言われた彼女は、侍女も使用人もいない屋敷で孤独な生活を始める。 王宮での優雅な日々とは一転、自分の髪を切り、服を整え、料理を学びながら、ソフィアは少しずつ「夫人」としての自立を模索していく。だが、辻馬車での盗難事件や料理の失敗、そして過労による倒れ込みなど、試練は次々と彼女を襲う。 そんな中、無口なグラッドの態度にも少しずつ変化が現れ始める。謝罪とも言えない金貨の袋、静かな気遣い、そして彼女の倒れた姿に見せた焦り。距離のあった二人の間に、わずかな波紋が広がっていく。 これは、王宮の寵姫から孤独な夫人へと変わる少女が、自らの手で居場所を築いていく物語。冷たい屋敷に灯る、静かな希望の光。 ⚠️本作はAIとの共同製作です。

二度目の子育て~我が子を可愛がったら溺愛されました

三園 七詩
恋愛
私は一人娘の優里亜の母親だった。 優里亜は幼い頃から体が弱く病院でほとんどの時間を過ごしていた。 優里亜は本が好きでよく私にも本の話をしてくれた。 そんな優里亜の病状が悪化して幼くして亡くなってしまう。 絶望に打ちひしがれている時事件に巻き込まれ私も命を落とした。 そして気がつくと娘の優里亜が大好きだった本の世界に入り込んでいた。

身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」 魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。 鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。 (な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?) 実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。 レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。 「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」 冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。 一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。 「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」 これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

処理中です...