【完結】その夏は、愛しくて残酷で

Ria★2巻発売中『簡単に聖女に魅了〜』

文字の大きさ
31 / 33
四章 大好き

---柊真視点④---

しおりを挟む
 それから、担任が迎えにくると、このまま教室に戻るのは無理だろうと判断し、保健室へと連れて行かれた。

 ベッドに横になりながら目を冷やしていると「お母さんが迎えにきてくれたわよ」と担任に言われた。
 わざわざ母さん呼んだのか……

 「……母さん、悪い。ちょっと取り乱した」

 「仕方ないわよ……」

 仕方ない……まさか、母さん美月の病気の事知ってたのか?
 
 「なぁ、母さん。まさかと思うけど、美月のこと知ってた?」

 「……ごめんね。美月ちゃんのお母さんから柊真には言わないで欲しいって言われてたの。美月ちゃんが知られたくないって言うからって……」

 おばさんから聞いてたなんて……どうして言ってくれないんだよ!
 思わず立ち上がり母さんの両肩を掴んだ。

 「母さんが教えてくれさえすれば、もっと美月に寄り添うことができたのに! もっと一緒にいられたのに! どうして教えてくれなかったんだよ!」

 「だって、美月ちゃんが……」

 「どうしてだよ……美月」

 母さんから手を離し、ベッドに腰をかけると止まらない涙をぐいっと腕で拭った。

 「美月ちゃんも女の子なのよ。どんどん窶れていく姿を好きな人に見られたくなかったのね」

 「そんなの……気にしないのに」

 「柊真が気にしなくても美月ちゃんが気にするのよ。可愛かった頃の姿を最後に記憶して欲しいなんていじらしいじゃない」

 「でも……」

 「柊真の気持ちもわかるわ。美月ちゃんに言って欲しかったのよね。頼って欲しかったのよね。大好きだったんだもの」

 「うん……」

 「でも、最後は、美月ちゃんの我儘をちゃんと受け入れてあげないとね。最後の美月ちゃんのお願いなんだもの」

 「……」

 美月の最後の願いか……
 もっと違うことを願って欲しかった。

 家についてもじわじわと溢れてくる涙を止めることは出来なかった。

 それから数日して、美月のお母さんが訪ねてきた。
 夏祭りの時も痩せたなと思ったけど、今はその時よりも窶れていた。
 無理もないか。大事な一人娘を亡くしたんだから……

 「急にごめんなさいね。これ、きっと柊真くんにもらって欲しいんじゃないかなって思って持ってきたんだけど、受け取ってもらえるかしら?」

 そういって、紙袋から箱を二つ取り出した。
 一つはラッピングされたもので、もう一つはただの箱だった。
 中には何が入っているのか……

 とりあえず、ラッピングされてない方の箱の蓋を開けた。
 すると、真ん中に俺があげた手帳が置かれていた。
 
 「それね。ちょっと読んだんだけど……初めは、柊真くんに見てもらおうと思って、沖縄旅行のおすすめの場所とかが書いてあったのよ。でもね……途中から普通の日記になっていっててね。柊真くんとケーキを食べたとか簪買ってもらったとかそういうことばかり書いてあるのよ」

 「そ、うですか」

 手帳を手に取りページを捲ると、家族で沖縄旅行に行った時の写真やおすすめの料理屋などの情報が載っていた。
 苦味が抑えられたゴーヤ料理が食べられるだの、マリンクラフト体験で貝の写真立てを作ったこと。
 海で拾った貝殻を瓶に詰めた写真など、美月が目一杯楽しみ、生きた証が綴られていた。

 ポタポタと流れる涙で手帳が濡れないようにと、さっとティッシュと手に取った。
 
 「それじゃ、私はもう失礼するから、ゆっくり見てあげてね」

 「はい……ありがとうございました」

 おばさんを見送り、箱を持って自分の部屋へと向かった。
 箱を開けると、美月にあげた簪も入っていて、夏祭りの時の美月可愛かったなと、浴衣姿の美月が目に浮かんだ。
 他には何が……俺があげたお土産の缶か? 机に飾ってるって言ってたよな。俺も机に飾っとくかと缶を手に取るとカサリと紙の音がした。
 中に何か入ってるのか……?

 中を開けるとくしゃくしゃにされた紙が押し込められていた。
 一つ一つ開いていくと……美月の苦しい胸の内が書き込まれていた。

 『死にたくない』

 『痛い』

 『忘れないで』

 美月の辛さを痛いほど感じ、膝から崩れ落ちた。

 「美月、気付いてあげられなくてごめんな。こんなに苦しんでたのに……」

 ひとしきり泣いて、ぼーっと天井を見つめているともう一つの箱の存在を思い出した。

 そういえば、なんかラッピングされた箱があったよな……
 リボンを解き、蓋を開けるとネックウォーマーがいくつも入っていて、メッセージカードが添えられていた。

 『16歳おめでとー‼︎  一緒にお祝いできなくて残念‼︎ プレゼントもう見たかな? 気に入ってくれると嬉しいな❤︎』

 まるで、美月の声が聞こえてきそうな、いつも通りな美月のメッセージカードに、止まったはずの涙が、ポタポタと零れ落ち、文字が滲んだ。

 「ヤバっ、あー……文字が滲んじゃったじゃないかよ……ったく、何やってんだよ、俺」

 これ以上文字が滲まないようにとそっとティッシュを押し当てた。
 誕生日まで後2ヶ月半くらいあるけどな。ちょっと早い誕生日プレゼントありがとな。

 これのことも手帳に書いてたりするのかとペラペラと捲っていくと……あった!

 『初めはミシンだけだったけど、編み物もやってみたくて、お母さんに教えてもらいながら作ったんだけど、目の大きさを同じにしたりするのが難しくて、ちょっと歪になっちゃった。これ、没にしようかなって思ったんだけど、お母さんが気持ちが大事なんだから、いいのよって言ってくれたから、箱に詰めちゃったけど、大丈夫かなー』
 
 これ……全部美月の手作りなのか……
 編み物なんてしたこともないのに、俺のために……

 こんなに作って……何年もネックウォーマーに困らなくていいな。
 美月、ありがとう。

 おもむろにメッセージカードの裏を見てみると、一言添えられていた。

 「はっ……美月は残酷だな。こんなにもお前のこと好きにさせといて、何も言わずに逝くなんて」

 『ーーあなたの心の片隅に住わせて』

 心の片隅どころか、俺の心はお前でいっぱいだよ。一杯すぎて溢れそうなほどに……
 なぁ、最後に俺と付き合って、幸せだったか?

 外はジリジリと日差しが照り返す中、もこもこと暖かいネックウォーマーを首に巻き、静かに涙を流した。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます

おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」 そう書き残してエアリーはいなくなった…… 緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。 そう思っていたのに。 エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて…… ※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

幼馴染

ざっく
恋愛
私にはすごくよくできた幼馴染がいる。格好良くて優しくて。だけど、彼らはもう一人の幼馴染の女の子に夢中なのだ。私だって、もう彼らの世話をさせられるのはうんざりした。

カモフラージュの恋

湖月もか
恋愛
容姿端麗、文武両道、しかも性格までよし。まるで少女漫画の王子様のような幼馴染な彼。 当たり前だが、彼は今年も囲まれている。 そんな集団を早く終わらないかなと、影から見ている私の話。 ※あさぎかな様に素敵な表紙を作成していただきました!

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

【完結】私たち白い結婚だったので、離婚してください

楠結衣
恋愛
田舎の薬屋に生まれたエリサは、薬草が大好き。薬草を摘みに出掛けると、怪我をした一匹の子犬を助ける。子犬だと思っていたら、領主の息子の狼獣人ヒューゴだった。 ヒューゴとエリサは、一緒に薬草採取に出掛ける日々を送る。そんなある日、魔王復活の知らせが世界を駆け抜け、神託によりヒューゴが勇者に選ばれることに。 ヒューゴが出立の日、エリサは自身の恋心に気づいてヒューゴに告白したところ二人は即結婚することに……! 「エリサを泣かせるなんて、絶対許さない」 「エリサ、愛してる!」 ちょっぴり鈍感で薬草を愛するヒロインが、一途で愛が重たい変態風味な勇者に溺愛されるお話です。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

【完結】双子の伯爵令嬢とその許婚たちの物語

ひかり芽衣
恋愛
伯爵令嬢のリリカとキャサリンは二卵性双生児。生まれつき病弱でどんどん母似の美女へ成長するキャサリンを母は溺愛し、そんな母に父は何も言えない……。そんな家庭で育った父似のリリカは、とにかく自分に自信がない。幼い頃からの許婚である伯爵家長男ウィリアムが心の支えだ。しかしある日、ウィリアムに許婚の話をなかったことにして欲しいと言われ…… リリカとキャサリン、ウィリアム、キャサリンの許婚である公爵家次男のスターリン……彼らの物語を一緒に見守って下さると嬉しいです。 ⭐︎2023.4.24完結⭐︎ ※2024.2.8~追加・修正作業のため、2話以降を一旦非公開にしていました。  →2024.3.4再投稿。大幅に追加&修正をしたので、もしよければ読んでみて下さい(^^)

処理中です...