【完結】愛犬との散歩は、恋の予感

Ria★2巻発売中『簡単に聖女に魅了〜』

文字の大きさ
13 / 46
二章 嫉妬

2−1

しおりを挟む
 梅雨が明けて本格的な夏の訪れを告げていた。

 梅雨の間は、本当に私の心も同じようにジメジメとしていた。
 まさか……二週続けて会えないと思わなかったんだもん。
 時々晴れ間が見えても平日で、肝心の週末は雨という始末。

 三週間ぶりに奏くんに会える……

 「クッキーも獅子丸くんに会えなくて寂しかったよね。今日は思いっきり遊ぼうね!」

 「わふっ!」

 尻尾をブンブンと振り回し喜んでいるクッキーに首輪をつけ、家を後にする。

 はぁ、暑い……夏だなー。
 日焼け止めもしっかり塗って、帽子も被って日焼け対策はバッチリ!

 公園に着くと、奏くんが膝に獅子丸を抱いて遊んでいた。
 可愛い……こっそり写真撮りたいけど……だめだよね。

 奏くん、髪切ったんだ。
 襟足にかかっていた後ろ髪はさっぱりと刈り上げられていた。
 白いTシャツが爽やかで、とても眩しい。
 イケメン度が増してるっ! やばいっ! 落ち着け自分!
 変に思われないように、深呼吸をして気持ちを落ち着かせてから奏くんに声をかける。

 「奏くん、獅子丸くん、久しぶりだね」

 「おー、茉莉絵とクッキー久しぶりだな。ほらっ、獅子丸。良かったな、遊んでもらえ」

 奏くんが抱いていた獅子丸くんを地面に下ろし、クッキーがゆっくりと近付く。そして、前足をテシっと獅子丸くんの頭に乗せた。
 それから二匹で戯れ合う姿をベンチに座りながら眺める。
 可愛すぎて、写真を撮らないわけもなく、連写のしすぎで奏くんに笑われてしまった。

 「お前さー、写真撮りすぎじゃない? 写真フォルダ同じような写真で一杯なんじゃない?」

 「う……可愛い瞬間を撮り逃したくなくて……。でも、家に帰ってから厳選して他のは削除してるから私の写真フォルダは最高のクッキーしかいないんだよ」

 「消せないタイプかと思ったけど、そういう整理は出来るんだな」

 「もしかして、整理整頓できないタイプだと思われてた……?」

 「いや、そういうのとは違って……クッキーの全てを残しておきたいっていうタイプかと思って」

 「あー、なるほど。残せるものは残すけど、流石に連写しまくってると同じような写真ばかりになっちゃうからね。その時の最高の一枚を残しておきたいかな」

 「良いな、それ。俺も獅子丸の今日の一枚っていうのを撮ってみるか」

 「うんうん、楽しいよー」

 それからは、二人で愛犬の撮影会になり……どさくさに紛れて、奏くんが二匹を撮ってる姿を隠し撮りしてしまった。
 これくらい……いいよね?

 「そういえば、奏くん髪切ったんだね。すぐ気付いたんだけど、言いそびれちゃった」

 「あぁ、流石に暑いからなー。後ろ刈り上げてだいぶ涼しくなったな」

 「めっちゃ似合ってる」

 「そりゃ、どーも」

 髪型が変わっただけで、なんか男らしくなった気がする。
 前は、男らしいというよりは綺麗な感じがしていたけど……

 「おい……見過ぎ」

 「あっ、ごめん。いや、本当に似合ってるなーって思って」

 格好良すぎて、見つめすぎちゃった。
 
 「まぁ、ほどほどで……」

 「はい……」

 私の変な行動に、奏くんは照れたような顔をすることはあっても、嫌な顔は一度もしたことがない。
 自分でも引くくらい積極的じゃない? と思わなくもないけど、奏くんはそれを許容してくれている。
 きっと、私の気持ちも伝わってると思う。
 それでも、告白してこない私の気持ちも多分わかってくれてるんだと思う。
 
 はぁ……好き。
 言葉に出来ないから、心の中で何度も呟く。

 「あっ、そろそろ飲み物タイムにしようか」

 「あぁ、そうだな。流石に暑いからな、水分補給の回数は増やしていかないとな」

 「うんうん」

 バッグから水受けと水筒を取り出し、クッキーに与える。
 クッキーの好きなジャーキーもおやつで持ってきた。獅子丸くんも食べるかなと多めに持ってきたけど、どうだろう。

 「奏くん、これ獅子丸くんにあげても大丈夫かな?」

 「お、獅子丸良かったな。これ好きだよな?」

 「良かった! はい、獅子丸くんもどうぞ」

 差し出すと小さな口で咥えて、クッキーの隣で転がりながら一生懸命食べていて、可愛いなーと思っていると、クッキーがもう一個くれと催促をしてきていた。

 「食べ過ぎも悪いから、これで終わりだからね?」

 「わふっ」

 「ふふっ、よしよし、お利口さんね」

 二匹のおやつタイムを写真を撮りつつ見守っていると、奏くんが鞄からランチバッグを取り出した。

 「これ……母さんが持って行けって……」

 「え……?」

 取り出したランチバッグに入っていたのは、グレープフルーツゼリーだった。
 保冷剤もしっかり入っていて、使い捨てのスプーンまで用意されていた。
 だから、今日はいつもより鞄が大きかったんだ。

 「ほら、暑いだろ? さっぱりとした冷たい食べ物が良いだろうって母さんが張り切って作ってさ」

 「この前もクッキー貰ったのに、今日も貰っちゃっていいのかな?」

 「変に遠慮すんなよ? 母さんは好きで作ってるだけだから、嫌いじゃなければ、食べて貰えると喜ぶよ」

 「じゃあ、遠慮なく頂きます!」

 「どうぞ召し上がれ」

 「本当に、この暑さにさっぱり冷たいゼリーは良いね! お母さんナイスチョイスだね」

 「確かにな。母さんに礼言わないとな」

 「うん。美味しかったです、ありがとうございますって伝えてね」
 
 「おう」

 何度ももらってばかりじゃだめだよね。
 何かお礼をしたいけど……

 「ねぇ、奏くんのお母さんって何が好きなの? 甘いものとか好きかな? チョコとか」

 「あー、そうだな……って、お返しとか要らないからな? 変にお返しされると、母さんも作りにくくなるだろ? 好きで作ってるだけだから。それに対してお返しすれば、気を使わせちゃったかなとか言いそうだからな」

 「そっか。せっかく作ってくれてるのに、気分を害したくないからやめとくね。でも、感謝だけはちゃんと伝えてくれると嬉しいな」

 「了解。任せとけ」

 いつか直接お礼を言えるといいな。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...