「星降る大都会」

星井 悠里

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「星降る大都会」

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 人がどんどん死んでいく。
 新しい感染症のせいだ。
 薬もワクチンもない。致死率の高い、強いウイルスだ。

 戦争をしている場合じゃなくなる。
 戦闘員も死んでいくからだ。

 全世界で、大半が罹患し、その多くが命を落とした。

 食糧問題、水問題、環境問題。
 皮肉な形で改善していった。

 ウイルスは、猛威を振るった後、ゆっくりと自然消滅していった。
 後に、自然発生したものだろうと、発表された。

 そして、ウイルスが猛威を振るうかげで、
 文明を支えていたものが、次々に役目を終えていった。

 そのおかげで、目には見えなかった飛び交う電波、電磁波、化学物質も、激減した。


 空気は澄み、かつて大都市だった町でも、夜になると、満天の星が見られるようになった。



 ――彼は、天才だった。

 あらゆる知識に精通し、あらゆるものを作り出すことができた。
 そして、今ある、あらゆるものを壊すことも直すことも、できた。


 かつて大都市だった場所に、一台の車が止まった。


「大丈夫だよ、おいで」
「お父さん……?」

 愛しい娘は、可愛らしい顔を傾げて、彼を見つめた。

「外に出てもいいの?」
「ああ。これからはどこでも、自由に外に出ていいよ」

 娘はぱっと顔を輝かせて車を降りると、誰もいない道をおずおずと歩き、そのうちに嬉しそうに走り出した。 


 ――新しい時代が始まったことを、いつか歴史は、説くだろう。 


 贅沢すぎるほどの静けさ。それを切り裂くように。
 娘が、無邪気な笑い声をあげた。
 

「お父さん! 全然苦しくないよ!」
「そうか、よかった――その笑顔のために、父さん、頑張ったんだよ」

「何を?」

 首を傾げた娘の頭を、優しく撫でる。
 彼自身の手が、目に映る。


 あらゆるものに敏感すぎて、外に出られず、田舎の奥地でとじこもるしかない娘のために。
 天才が、その手で成したことは――おそらく誰にも知られることはないだろう。 



 一瞬瞳を閉じて――少し震えそうな、自らの手をそっと握りしめた。

 瞳を開けると、目の前には、無邪気な娘の愛らしい笑顔。



「――ひみつだよ」



 天才はやわらかく微笑んで、娘を、このうえなく優しく見つめた。





 
  終


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感想 1

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みんなの感想(1件)

沼津平成@25周年カップ参加中

こじれすぎた……っていうことですかね…?(見当はずれだったらすみません)

2026.02.03 星井 悠里

沼津平成さま♡

いろいろな受け取り方ができると思って書いていますので
見当違いとかは全然ありません(´∀`*)
読んで頂き、感想まで、ありがとうございました♡

解除

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