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◇Rain本編
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しおりを挟むおかしな恋人の、アホな要求に悩みつつも。
とりあえず出かけようと準備してやってるのに、すぐにまた電話が鳴り始めた。
「……んだよ?」
一言目から冷たく電話に出ると、浩人がおかしそうに笑っていた。
『今すごい照れてるだろ。可愛いなぁ、類』
「……迎えいかねぇぞ。それにオレは照れてるんじゃなくて、呆れてんだよ。……大体お前どこでんな事ほざいてんだよ?」
『駅前だけど……ああ、今は誰も周りに居ないから、大丈夫』
「あそ。……切るぞ」
『ん。類、傘1本でいいからな。2本持ってきたら1本捨てるから』
「……じゃーな」
まだ何か言っているような気がしたが、構わずに類は電話を切った。
家の鍵とスマホ。
それだけを持って玄関に行き、靴を履いてから立ち上がる。
傘立てから、2本の傘を持ち――――……。
「――――……」
ふ、と苦笑。
1本を傘立てに戻した。
「……オレも頭おかしーかもな」
思わず呟きつつ、類は家のドアを開けた。
結構激しい雨が降っている上、風が横に吹いているせいで、傘をさしていてもかなりの雨が身体に当たる。
……つめてぇし。
――――……大体、傘なんかコンビニで売ってるじゃん。
買った方が絶対ぇ早いよな。
中途半端に濡れていくので、だんだんイライラしてくる。
駅前に着く頃には、この上なく不機嫌になっていた。辺りを見回していた類の背後から、駆け寄ってくる足音。
「類♪」
傘の中に入ってきた、大きな影。振り返ってそこに脳天気な笑顔を見つけ、ますますムッとする。
「雨の中走ってこなくていいってば」
「ん?」
「せっかく濡れないように迎えに来てんのに、何で雨の中走ってくんだよ?」
「…何だぁ? すっごい不機嫌だなー?」
浩人はクスクス笑いながら、類の前髪を掻き上げて、そして覗き込んできた。
「ありがとな、類」
類の不機嫌などお構いなしで、浩人はこの上なく嬉しそうな笑顔を見せる。
高校1年で出会って、5年。
出会って少ししてからずっと、好きだと言われ続けて。
高校卒業とともに、受け入れて恋人になって。
一緒に暮らし出して、もう2年目。
浩人は、ずっと、類の側で笑ってる。
「――――……」
何となく言葉に詰まって、類は口を噤んだ。
それから、ふ、と気付く。
「……何でお前背後から来る訳?」
よく考えると、浩人が走ってきたのは、方向的に駅からではない。
「駅前、雨宿りの人がどんどん増えててさ。そん中で相合傘すんの、類が嫌がりそうだから、ちょっと離れた所で待ってた」
「……じゃあ初めから、相合傘とか言うなよ」
ボソッと言った類に、浩人はクスッと笑いながら、少し濡れた自分の髪を掻き上げた。
「オレは見られてもいいんだけど、類がそういうの恥ずかしがりそうだから、見られないようにしただけ。相合傘はしたいから、これは絶対なの。分かる?」
「――――……分かんない」
「はー? 分かるだろ?」
クスクス笑う、浩人。
「分かんないよ」
「……分かってるくせに」
ほんと素直じゃないなーなんて、笑って。
浩人は類の手から傘を取った。
「ありがと。帰ろ、類?」
「…ん」
浩人が差し掛けてくれる傘に入り直し、2人でゆっくりと歩き出す。
「―――…また雨強くなったな」
類の言葉通り。 傘に跳ね返る雨の音がますます強くなってる。
嫌そうに顔をしかめた類を見て、浩人はふ、と苦笑い。
「……んだよ?」
「雨、ほんとに嫌いなんだなーと思って。まあ、そういえば昔からか」
「……好きな奴いんの?」
「――――……オレ好きだけど?」
……そんな奴いるんだ。
と思ってしまう位雨が嫌いなので、隣の理解不能な浩人を、まじまじと見上げてしまう。
……そういえば、浩人って。
嫌いなもん、あるのかな。
……あんまり、何かを嫌いとかいうの、聞いたことがない。
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