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第4話 その日は誕生日
しおりを挟む夕食を片付けて、ソファに腰かけながら、スマホで電話を掛けた。
『もしもし、彩葉?』
明るい声が聞こえた。――ホッとする。声を聞くだけで、少し、胸の奥があったかくなる。
「遥香、久しぶり。お正月以来だね」
『そうだね、もう三ヶ月も経ってる。時がたつの、はやいね、ほんと――って、葉書、届いた?』
「うん。さっき見た」
『そっか。彩葉、来れそう?』
そう言った遥香の向こうで「ママ―!」と声がする。
『ちょっと待ってね』
そう言って、遥香が少し電話口から離れて、何かを話している。
そう。遥香はもう、二児のママなのだ。結婚も早くて出産も早かった。比べるようなものではないのだけれど。ちょっと、置いて行かれたような気持ちは、少しだけある。
――と言っても、結婚願望とか、強いわけではないから、羨ましいとかでもない、複雑な気持ち。学生時代ずっと、一番仲良しだった友達が、もう、家族がいて子供がいて……どっちかというと、私がそうなりたいというよりは、少し離れちゃった気持ちかなあ。
『ごめんね、もう大丈夫』
旦那さんに子どもを頼んできたのか、後ろが静かなところに移動してくれたみたい。
「ごめんね、忙しい時間に」
『全然平気。いつでも電話してよ。彩葉、残業とかも忙しそうだからさ、こっちからはちょっと遠慮しちゃうんだよね~』
「うん。そうだね。こっちから電話する。――で、同窓会のことだけど」
『来れる? 彩葉に会いたいなぁ、私』
遥香にそんな風に言われると、弱い。立ち上がって、窓から外を眺める。もう、空は真っ暗だ。
「――遥香、珍しいね、こういう幹事とか」
『ん。あ、そうだね。蒼真くんに頼まれちゃって』
普通に、遥香から飛び出た名前に、どきっと胸が弾む。
「そう、なんだ。……連絡、取ってるの?」
『ううん。全然。久しぶりに連絡が来てさ。同窓会、企画したいって言われて』
――そうなんだ。
……って、何で、ほっとするんだろう。
別に、蒼真と遥香が連絡を取り合ってたっていいのに。遥香は結婚してるし、旦那様とラブラブだし。関係ないのも分かってるのに。
蒼真と、連絡を取ってないのは――明らかに、私がそれを選んだのに。
ああ、なんか――やな感じだな、私。
「……私も、もう長いこと、連絡してないや」
静かにそう言うと、遥香は、そっか、と受けてから。
『あんなに仲良かったのに――彩葉、連絡してあげたら? 喜ぶよ、きっと』
「え、いいよ。何話していいか分かんないし。……ずっとこっちにいるからさ。私が連絡とってるの、中学の友達だと、遥香くらいだよ。行っても、分かんない子たちばっかりだったりして」
『あ、私も! なんだかんだ、子どもがいるとさ。ママ友と会う方が増えちゃって』
「そうなんだね」
それは何となく、分かるかも。
独身の遊んでる子たちと会うにしても、子どももいるし、置いてくとか、遥香はしなそうだし。
「でも、皆、そうなんじゃないかな? 中学の子たちでずっと会ってる、とか、あんまり聞かないし。だからこその同窓会、じゃない?」
「ん。そうかもね」
『私も同窓会だけは、子どもたち置いて、ゆっくり参加するつもり。だから、彩葉、帰ってきてくれたら嬉しい』
「……ん。行こうかな。ちょうど、そこらへん、仕事も暇な時期だから。夏休みってことで」
『えー嬉しい。その日、彩葉のお誕生日だもんね。お祝いしようね』
「ん。ありがと」
――そうなのだ。
同窓会の日は、私の、25歳の誕生日。
――てことは。
蒼真の誕生日でも、ある。
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