「四半世紀の恋に、今夜決着を」

星井 悠里

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第3話 幼馴染という関係

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 私と蒼真の母親同士が、妊婦同士の交流を目的にした母親学級で知り合って帰ってきたら、なんとお隣さんだったって。気も合って、私たちが生まれる前には親友になってたらしい。

 蒼真のお母さんが陣痛を起こして病院に行くのを、私のお母さんが見送って、ほっと息をついた途端に自分も陣痛。すぐにタクシーを呼んで、同じ病院に駆けこんだそうな。まあ、あそこらへん、産院なんて一つしかないし。
 それで結局、同じ日に同じ病院で生まれたのが、私と蒼真。
 蒼真の方が少しお兄ちゃん。
 なんと、生まれた日に並んで写真を撮ってる。

 それからも、どこに行くのも、ずっと一緒。検診も、遊びも、幼稚園も、小学校も。
 お母さんたちが仲良すぎて、いつも一緒に行動してたから、必然的にいつも一緒。兄妹みたいだった。

 赤ちゃん同士でも、好き嫌いの好みはあるらしく、喧嘩したりすることもあるのに、私たちは、いっつもとなりで仲良く、くっついて遊んでいたらしい。
 そういう写真も、ひたすらにたくさんある。お母さんがクラウドに保存してあるので、いつでも見れる。……まあもう長らく、見てないけど。

 蒼真の部屋の窓と、私の部屋の窓は、向かい合わせで。
 小学校の時に部屋を持ってから、窓を開けては蒼真と話していた。

 ずっとずっと一緒だった。

 ――そんな感じだから、どこから好きだったのか、分からない。

 ちょこちょこと、思い出があるのは確かだけど。

 私が意地悪されてる時に、私を背中にかばってくれた、とか。
 高くて見あげていた遊具に、先に上った蒼真が、ほら、と手を伸ばしてくれたとか。
 運動が得意な蒼真が、駆け抜けていく背中とか。

 いくつか、思い浮かぶけど、それだけで好きとか、そんなんじゃなくて。
 ――たぶん、ずっと一緒にいる間にゆっくりと、ずっと蒼真が好きだった。

 蒼真は、いっつも元気で、明るくて、笑顔で。
 ――私だけ特別なんじゃなくて、誰にでも、優しかった。

 何かで困ってる人がいるとか。例えば、転んじゃって荷物が散らばってる子が居たとして、皆が手伝っていいか迷って近寄らない時に、駆け寄って助けてあげる、そんな人。

 いい人が損をする、なんてたまに聞くけど。
 蒼真を見てたら、そんなことないって思う。
 蒼真は、そんなの何も考えず、したいようにするけど、周りの人が嬉しい。
 そんなかんじ、だった。

 恋かどうかも判別できないまま、きっと、生まれてからずっと、好きだった気がする。

 登下校も小学校まではずっと一緒だった。
 中学になって、蒼真がサッカー部に入り、朝練が始まってからは、別になった。それでも、部活が無い日は、「彩葉、いくぞー!」って、隣から声が掛かった。
 そんなのが嬉しかった、あの日々。

 中学二年になると、蒼真は急に背が伸びて、男子の中でも頭ひとつ飛び出る感じになった。
 そしたら――急にモテ始めた。

 ううん、もともとモテてはいた。
 悪ふざけとかしないし、男の子っぽくてカッコいいし、意見とかもはっきり言うし、なんかちょっと大人っぽいことも言ったりする。優しいし。蒼真が居るとクラスの雰囲気がイイ感じになる。

 ――そんな蒼真の近くに居たいから。
 私は、ちゃんとした子でいようって、いつからか、思っていた。


 中一までは、同じクラスの子たちが、いいよねって言ってる程度だったのに、中二になって目立ち始めてから、先輩や後輩、他のクラスの子たちにも人気になっていたらしい。そんなの何も知らずに、蒼真と楽しく幼馴染をしていた私は、ある日、知らない子に呼び出された。

 用件は、ラブレターを渡して欲しいってことと。
 蒼真のことを好きなのか聞かれて、咄嗟に応えられないでいたら――好きじゃないなら、側に居座らないほうがいいよ、って、言われた。
 皆、あなたのことよく思っていないし、蒼真にも迷惑だから、って。

 そんなの蒼真は言ってないもん、て思ったけど。
 ――私の存在を邪魔だと思ってる人が「皆」という程いるのかと思ったら、すごくショックで。

 ……あの頃、まだ、恋かどうかも分かっていなかった私は。蒼真に、ラブレターを、渡したんだった。

 渡しに行きながら、それなのに、受け取らないでほしいなんて、心のどこかで、思ってた気がする。


 なんか、すごく――変な顔をされて。

 受け取った蒼真に。
 何故か、とても後悔したのを、覚えている。


    そこまで考えて、今さらだなぁと、息をついた。
   







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