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第2話 滲む月の夜
しおりを挟むシャワーを浴びて、髪を乾かして、スキンケアを終える。
ほっと、息をついた。
買ってきた総菜をお皿にのせていると、窓から風が吹きこんで、カーテンを揺らした。少し寒く感じて、窓を閉めに行く。ふと空を見上げると、さっきまでオレンジだった空には、ぼんやりした月が、滲んでいた。
食事をテーブルに並べた後、タブレット端末で好きな音楽をランダム再生させた。いつもなら、話題に困らないよう、ニュースと新聞チェックなんだけど。今日はそんな気分じゃない。
さっき、突然、圧倒的な力を持って私の心を乱しまくった往復葉書も、テーブルに置いた。
「いただきます」
手を合わせて、声に出す。これだけは、一人でもちゃんとしている。
一人って、気軽で自由で――でも、だからこそ気合が抜けると緩みまくっちゃう。
昔から、私は「ちゃんとした子」でいたかった。
それが、今もなんとなく続いてる。
昔の友達が、私が秘書課だって知ったら、きっとぴったりって言われると思う。
いい意味でも、ちょっと嫌味な意味でも、そう思うんだと思う。
何で私が、ちゃんとした子でいたかったか。
理由はたったひとつ、明確にある。
「……あ、これ、おいしい」
目について買ってきた彩りのいいサラダ。ドレッシングが特徴的。
隠し味、なんだろう。おいしいなぁ。味わって食べてから、ふと、葉書に視線を落とした。それは、中学の同窓会のお誘いだった。
表に、木内 彩葉様と書いてある。裏の文章は印刷されているのに、表は手書き。
珍しいな、印刷しないんだ、こういうの。
――特徴のある字。変わってないな、と思うと、胸がなんだかざわつく。
ここの住所は、地元の友達には教えていない。メッセージアプリで繋がってて、不便がないから。いつでも連絡を取ろうと思えば取れるし。
今回、私は住所は聞かれていない。と、いうことは――。
差出人は、二人。
一人は、島西遥香。
遥香は私の親友。小学生から同じクラスになることが多くて、高校まで一緒だった。ふわふわしてるけど、頭がよくて優しくて、大好きな子。大学卒業とともに年上の彼と結婚して、専業主婦になった。というのも、大学一年の時にめちゃくちゃアプローチされた先輩と付き合って、もうほんとに、その先輩が遥香を大好きすぎたらしく。結婚。
まあそれも納得なくらい、仲良しの二人。なんか運命ってこういう人たちのことをいうのかなと、思うような二人。結婚式も、すごく良かった。
遥香が、こういうのを進んでするとか、珍しい。サポートはするけど、名前は出さないってタイプなのにな。遥香とは、お正月に地元に帰った時に、会って以来。その時は同窓会の話なんてしてなかったけど……。
そして――もう一人は川森蒼真。
蒼真。
心の中で唱えるだけでも、気持ちが揺れる。
私の、初恋の人。
いつから初恋だったか分からない。
もしかしたら、二十五年目かもしれない。
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