「四半世紀の恋に、今夜決着を」

星井 悠里

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第1話 色のない春が。

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 春の夕方。桜はもう完全に散ってしまって、私の世界はまた色を失った。

 今日は月一の強制早帰りの日。合コンに誘われたけど断って、デパ地下で好きな惣菜と、おいしいワインを買って帰ってきた。

 二十五歳まで、あと三か月弱。
 大きな会社の秘書課に務めている。お局クラスの先輩達がかなり居るので、まだそこまでの重責を伴う仕事はしていない。

 とはいえ、社会人三年目。四月の頭に新しい後輩が配属されて指導も始めた。
 秘書課に入るだけあって、コミュニケーションに問題がある人は少ない。たぶん来年には指導も落ち着いて、だんだん、責任の重い仕事も回ってきそう。

 頼られるのは、昔から、わりと好き。

 取締役会の議事録を作成したり、文書の管理、会議の資料作成なんかも好きだし、向いていると思う。
 役員秘書をしていて一番大事なとこだけど……まあ、口は堅い方だと思う。
 必要なものを予測して動いたり、資料の用意、移動ルートの管理、会食相手の好みでの店の選別。人の顔を覚えるのは得意かも。……たぶん、秘書課は向いてるんだと思う。

 お局さんたちにも、迷惑をかけていないので嫌われるというよりは、頼りにされているし、お給料も結構いい方。

 それと、よく友達にいいなあと言われるのだけど。
 まあ……秘書課って、なんかモテる。
 ちゃんとしてそうに見えるみたいだし、サポート力とか、気が利くって思われる。

 合コンの誘いも多いし、声を掛けられることもある。
 でも――それって、私を見てるっていうより、秘書課の女、ってことな気がする。

 ……とはいっても、まあモテはするし。
 専業主婦になれそうな条件のいい人を見つけて、実際そうしてやめていく先輩たちも多い。


 なのに私はというと――彼氏も居ないし、合コンも、なんだかもう疲れて、最近は人数合わせでどうしても頼まれた時にしか参加しない。それでも一応参加する時は、もしかしたらいい人に会えるかも、と期待しては行くのだけれど、いつも撃沈。

 ……モテるのになぁ、私。

 大学で上京して以来、告白されて何人か彼氏も居たし、今だって、はいって言えば、彼氏になってくれそうな人たちも居るのに。
 なのに、恋は続かないし、新しく、いいと思える人にも会えないまま、もう数か月――って、あれっ? 一年くらい経ってるかも。

 ――仕事は嫌いではない。モテるのも、悪くない。でも。
 私にとってこの世界は――キラキラした綺麗な色が全然ない、ぼんやりした世界。

 はあ……。私、このまま枯れていくのかな……。
 トキメキも何もないなんて、もう、心の底まで干からびそう。


 風が少し冷たいな。そんなことを思いながらマンションのエントランスで立ち止まる。ポストのダイヤルを回して、一枚の葉書を手に取ると、エレベーターに乗り込んだ。

 なんだろ、これ。
 あんまり来ないタイプの郵便物に、さっと目を走らせた瞬間。


 ずっとずっと、ぼんやりしていた世界の風景に、
 突然、ばぁっと色がついた気がした。


 感情の起伏があまり無くて、笑っていても、冷静で。
 もう私、ときめいたりできないんだろうなあって、今の今までずっと、思っていたのに。


 はがきの一番下に書いてある、たった二文字の苗字に、心臓が跳ねた。
 鼓動がどんどん、速くなる。ぎゅ、と葉書を握りしめた。


 同時に、ふ、と涙が滲んで――こらえようとしたのに、零れ落ちた。




 ――春、なにかが動き出す気がした。



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