8 / 36
第7話 恋の先輩
しおりを挟む「とにかくね、私は先輩に幸せになってもらいたいんです」
「うん、まあ……ありがとね」
「それでダブルデートとかして遊びたいんですよー!」
「……うんうん、なんか前から言ってるよね。ごめんね、実現できなくて」
そんな話をしているところに、ランチが運ばれてきた。
「美味しそう。いただきます」
手を合わせると、愛梨さんが笑った。
「そういう、笑顔で手を合わせてる先輩、めっちゃ可愛くて、私、惚れたんですよね~」
「……惚れたの?」
「はい! あ、だから私もするようになりました。いただきます」
同じように手を合わせた後、愛梨さんは、一口目のサラダを頬張ってから。
「これ、やると、男の人が可愛いって言ってくれるんですよね、なんかちゃんとしてるねーみたいな。まあでも私のは先輩のまねっこですけど。でも先輩は、別にそういうんじゃなくてちゃんとやってるじゃないですか。なんかほんと、可愛いんですよねぇ、先輩」
「う、うん。ありがと」
たまに、「先輩が好き」と並べ立ててくれるので、自己肯定感はこの子と居る、ちょっとだけ上がる。
……ちょっとだけっていうのは、なんか冗談にも聞こえるから。まあ、少しだけ聞いとこうかなっていう……まあでも、褒めてくれるのは嬉しい。
「それで? 先輩、四連休はなにするんですか?」
「――中学の同窓会が初めてあるの。だから行こうかなって思って」
「へえ、同窓会ですかぁ……」
ふうん、と頷きながら、もぐもぐ食べて。飲み込むと同時に、ふふ、と笑う。
「まさか初恋の人に会えるからって、うきうきしてるとか? あーでも、中学だから……もう十年くらい前ですもんね。そんなわけ――」
そこまで言いかけて、愛梨さんがふっと笑うのをやめた。
私の顔を見て、何かを察したみたいに。
「――」
そんなわけない、て言おうとしたんだよね、きっと。
そう、そんなわけ……普通ならないよね。
愛梨さんは、んー、と考えながら話していて、ふと私に視線を戻してきた。
「……先輩、今日、仕事終わって何かあります?」
「え? どうして?」
「その返事は、暇ですね? 飲みに行きませんか? ゆっくり。多分、お昼じゃ聞けないから」
ふふふ~と笑う愛梨さん。
「聞くって……」
「先輩の、長い初恋について」
手で口元を隠しながら、こそこそ言ってるけど。
どうせ端っこだから誰にも聞かれないし。二十五にもなる人の初恋なんて誰も興味ないし……。
と思いながらも。
目の前にいる子は、めちゃくちゃ興味津々だなぁと思って。
「そんな話、ほんとに聞きたい……?」
「はい!」
明るい声に、ちょっと苦笑して、すこし俯いた。
聞きたいと言われて、どこか、嬉しいような自分がいるのが、なんだか悔しい。
「そういう長い気持ちって、人に話した方が楽になるかもですよ?」
「――」
「もしかして先輩が、全然誰とも付き合わないのって、それのせい……? もしそうなら、ほんと、聞いたほうがよければ、真剣に聞きますよ……?」
後輩だけれど、なんだか、とても、恋の先輩みたいに見えてくる。
ちょっと困って、どうしようかな、と考える。
でもふ、と思った。
いい機会かもしれない。
自分から今さら、こんな遠い初恋の話なんか、することはない。
奇特にも、聞きたいって言ってくれてるし。
愛梨さんなら、私の学生時代の友達、誰にもつながってないし。そこはかなり重要だし。
あと、仕事柄もあって、わりと口が堅いのも知ってるし。
あとこの子、すごくモテるし、恋愛相談みたいなの、よくされてるみたいだし。
……分かる気がする。
「えと……」
「はい?」
「――奢るね?」
そう言ったら、愛梨さんは、ふっと私を見つめて、にっこり笑った。
「いえ、素敵なお話だったら、私が奢りますねっ」
「ええ……いや。素敵では、ないから……」
「ええーだって、十年以上まえですよね、出会いは。絶対素敵な気がする」
わくわくしている愛梨さんに、「約二十五年かも」といったら、ますます期待されそうで。
いや。どっちだろ。引かれるかな?
とりあえず、そのことは、今は黙ってることにした。
――個室、予約しよう……。
150
あなたにおすすめの小説
両片思いの幼馴染
kouta
BL
密かに恋をしていた幼馴染から自分が嫌われていることを知って距離を取ろうとする受けと受けの突然の変化に気づいて苛々が止まらない攻めの両片思いから始まる物語。
くっついた後も色々とすれ違いながら最終的にはいつもイチャイチャしています。
めちゃくちゃハッピーエンドです。
好きな人の好きな人
ぽぽ
恋愛
"私には何年も思い続ける初恋相手がいる。"
初恋相手に対しての執着と愛の重さは日々増していくばかりで、彼の1番近くにいれるの自分が当たり前だった。
恋人関係がなくても、隣にいれるだけで幸せ……。
そう思っていたのに、初恋相手に恋人兼婚約者がいたなんて聞いてません。
先輩のことが好きなのに、
未希かずは(Miki)
BL
生徒会長・鷹取要(たかとりかなめ)に憧れる上川陽汰(かみかわはるた)。密かに募る想いが通じて無事、恋人に。二人だけの秘密の恋は甘くて幸せ。だけど、少しずつ要との距離が開いていく。
何で? 先輩は僕のこと嫌いになったの?
切なさと純粋さが交錯する、青春の恋物語。
《美形✕平凡》のすれ違いの恋になります。
要(高3)生徒会長。スパダリだけど……。
陽汰(高2)書記。泣き虫だけど一生懸命。
夏目秋良(高2)副会長。陽汰の幼馴染。
5/30日に少しだけ順番を変えたりしました。内容は変わっていませんが、読み途中の方にはご迷惑をおかけしました。
✿ 私は彼のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい
設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀
結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。
結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。
それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて
しなかった。
呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。
それなのに、私と別れたくないなんて信じられない
世迷言を言ってくる夫。
だめだめ、信用できないからね~。
さようなら。
*******.✿..✿.*******
◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才 会社員
◇ 日比野ひまり 32才
◇ 石田唯 29才 滉星の同僚
◇新堂冬也 25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社)
2025.4.11 完結 25649字
☘ 注意する都度何もない考え過ぎだと言い張る夫、なのに結局薬局疚しさ満杯だったじゃんか~ Bakayarou-
設楽理沙
ライト文芸
☘ 2025.12.18 文字数 70,089 累計ポイント 677,945 pt
夫が同じ社内の女性と度々仕事絡みで一緒に外回りや
出張に行くようになって……あまりいい気はしないから
やめてほしいってお願いしたのに、何度も……。❀
気にし過ぎだと一笑に伏された。
それなのに蓋を開けてみれば、何のことはない
言わんこっちゃないという結果になっていて
私は逃走したよ……。
あぁ~あたし、どうなっちゃうのかしらン?
ぜんぜん明るい未来が見えないよ。。・゜・(ノε`)・゜・。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
初回公開日時 2019.01.25 22:29
初回完結日時 2019.08.16 21:21
再連載 2024.6.26~2024.7.31 完結
❦イラストは有償画像になります。
2024.7 加筆修正(eb)したものを再掲載
思わせぶりには騙されない。
ぽぽ
恋愛
「もう好きなのやめる」
恋愛経験ゼロの地味な女、小森陸。
そんな陸と仲良くなったのは、社内でも圧倒的人気を誇る“思わせぶりな男”加藤隼人。
加藤に片思いをするが、自分には脈が一切ないことを知った陸は、恋心を手放す決意をする。
自分磨きを始め、新しい恋を探し始めたそのとき、自分に興味ないと思っていた後輩から距離を縮められ…
毎週金曜日の夜に更新します。その他の曜日は不定期です。
【書籍化決定】憂鬱なお茶会〜殿下、お茶会を止めて番探しをされては?え?義務?彼女は自分が殿下の番であることを知らない。溺愛まであと半年〜
降魔 鬼灯
恋愛
コミカライズ化決定しました。
ユリアンナは王太子ルードヴィッヒの婚約者。
幼い頃は仲良しの2人だったのに、最近では全く会話がない。
月一度の砂時計で時間を計られた義務の様なお茶会もルードヴィッヒはこちらを睨みつけるだけで、なんの会話もない。
お茶会が終わったあとに義務的に届く手紙や花束。義務的に届くドレスやアクセサリー。
しまいには「ずっと番と一緒にいたい」なんて言葉も聞いてしまって。
よし分かった、もう無理、婚約破棄しよう!
誤解から婚約破棄を申し出て自制していた番を怒らせ、執着溺愛のブーメランを食らうユリアンナの運命は?
全十話。一日2回更新
7月31日完結予定
【完結】それ以上近づかないでください。
ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」
地味で冴えない小鳥遊凪は、ずっと憧れていた蓮見馨に勢いで告白してしまう。
するとまさかのOK。夢みたいな日々が始まった……はずだった。
だけど、ある出来事をきっかけに二人の関係はあっけなく終わる。
過去を忘れるために転校した凪は、もう二度と馨と会うことはないと思っていた。
ところが、ひょんなことから再会してしまう。
しかも、久しぶりに会った馨はどこか様子が違っていた。
「今度は、もう離さないから」
「お願いだから、僕にもう近づかないで…」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる