「四半世紀の恋に、今夜決着を」

星井 悠里

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第9話 胸の痛み

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 新しく届いたグラスのお酒を一口。
 甘酸っぱい。

「あれ、でも先輩?」
「ん?」
「大学、こっちに来ちゃったんですね。そんなに好きな人が居るのに」
「……うん。まあ。そうだね」

 じっと、大きな瞳で見つめられる。

「憧れてた大学に受かったから」
「なるほど」

 うんうん、と頷いてる愛梨さんに、私はちょっとため息をついた。

「最初は絶対無理だと思ってたんだけどね、成績的に」
「はい」

「……彼から離れたいなって、あの時、死ぬほど勉強したら受かっちゃって」
「あらら。……受かったのはよかったですけど」
「うん。ね。そう、よかったんだけどね」

 苦笑してる私に、愛梨さんは、首を傾げた。

「どうしてそんなに離れたかったんですか?」
「――離れないと、忘れられないなーと思って」

 考えながら言った私に、愛梨さんは何秒か間を置いた。

「先輩って、なんで、告白しようとしなかったんですか?」
「……彼にとって、私はただの幼馴染でしかないって、分かってたから」
「どうして?」
「彼女、居たし……」
「ああ……んー……」

 愛梨さんは、ちょっとため息をつきながら、肩を竦めた。

「残念。先輩とその人の、一緒に居るところ、見たこと無いから、これ以上は分かんないですね」
「――そうだよね」

「じゃあこれからの話をしましょう?」
「え?」

 これから? と首を傾げると、愛梨さんは、うふふ、と楽しそうに笑った。

「告白するんですか? 七月二十五日!」
「……いや。しないから」
「ええっ」

 キラキラの笑顔が、めちゃくちゃ崩れてしまった。
 いや、だって――。

「初恋って言ったって、もう、大学入ってから、会ってないんだよ」
「ええ、なんで? 実家帰った時とかに、会わなかったんですか?」
「私も忙しかったから、帰省も短かったし……」
「成人式とかは?」
「大学の子たちで、お祝いしてて――地元には帰らなかったんだよね」

「……避けてました?」
「別に……ただ、帰った時、別に連絡はしなかったけど……」

 そう言うと、愛梨さんは、また眉を顰めて、ため息をついた。


「――待って、先輩。今はどう思ってるんですか? まだそれ、聞いてなかった。私は、てっきり、三か月も先なのに、めっちゃ楽しそうにそわそわして、好きだからだって思ってたんですけど」
「もう、七年もほとんど会ってないんだよ? その間、私、何人も付き合ってるし」
「じゃあ、ただ同窓会が楽しみなだけですか?」
「う、ん。まあ」

 微妙に頷いた私に、愛梨さんは乗り出してくる。

「ほらーその返事、絶対、何かありますよね?」
「……んん。まあ。……どんな風な大人になったのかなって、思う気持ちは――あるから」
「それは好きだからじゃなくて?」
「もちろん嫌いじゃないけど……でも今更だよ、ほんと。向こうは私のことなんて、七年も会ってない、ただの同級生だよ」

 普通に言った瞬間。

 自分が言った何気ない言葉なのに。


 胸が痛くて。
 痛すぎて、驚いた。何か細いもので、胸の奥を、刺されたみたいに。痛かった。
 息が、出来なくなって、私は少しだけ、視線を落とした。


 ――そうだよ。
 何度か連絡くれたのに。会わなかったのは、私。
 冷たいやつだと、思っただろうなぁ。


 会えなくしたのは、私なのに。
 今更、切なく思う権利なんて、ないのに。



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