「四半世紀の恋に、今夜決着を」

星井 悠里

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第10話 決意。

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「――先輩?」

 愛梨さんが、私を不思議そうな。心配そうな声で呼ぶ。


「先輩、泣いてます……?」
「……ううん。泣いてないよ」

 私は、息を吸って、顔を上げた。


「――涙目ですけど」
「……私、泣き上戸だから」
「そんなの初耳ですけど」

 なんだか可愛く、むう、とふくらんだ鋭い突っ込みに、あは、と笑ってしまう。
 
 人に泣き顔を見せるなんて、いつぶりだろう。
 何してるんだか。私。

「泣き上戸なんだよ……ほんと。ちょっと飲み過ぎた。トイレ行ってくるね」
「……大丈夫ですか?」
「うん。全然大丈夫」

 ふふ、と笑って見せて、私は席を立った。

 トイレで自分の顔を見つめる。
 鏡の中の自分が、なんだか、知らない顔をしていた。

 ――あんなことで、こんなに切なくなるなんて。
 後輩の前で、泣くなんて。
 ――バカみたい。
 ほんと、どうかしてる。

 気を取り直して、個室に戻ると、愛梨さんが私の顔を見上げて、ちょっとほっとした顔をした。


「ごめんね、なんか――ちょっと思い出しちゃったかも」

 嘘ついても仕方ないか、と思って、そう言うと、愛梨さんは肩を竦めさせた。


「先輩、涙見せる相手が違いますよ。私に見せても何にもならないです!」
「……見せようとした訳じゃ……」
「そうそう、そういうとこが、私は、大好きなんですけど……どうせ泣くなら、彼のとこで泣きましょうよ」
「ええっ絶対やだよ。泣かないよ」
「……でしょうね。そうだと思いますが。でも、そしたら何か変わるかも……」
「無理。泣かないってば」

 蒼真の前で泣くなんて、無理。

 小さい頃はよく泣いて、庇ってもらってたけど――。
 私が泣くと、蒼真、すごく心配するし。泣かせた人を怒ったりもするから。
 絶対泣かないって、決めたんだっけ。なんかいろいろあったよなぁ……。

 また思い出しかけて、ふ、と思考を止めた。
 顔をあげて、愛梨さんを見つめる。


「――私、愛梨さんと話してて、思ったよ」
「何をですか?」

「自分がしなきゃいけないことが何か、分かった」
「うんうん。何ですか?」

 わくわくした感じで、頷いてる愛梨さんに、意気込む。


「決着つけて、ちゃんと振られてくることにする」
「――」

「やっぱり、きっぱり振られないと、ぐずぐず残ってダメなんだなぁって、分かった」
「――いや……ふられてっていうか、告白してくるっていうのではなくて?」

「告白って言っても、今さらだし……とにかく、同窓会できっぱり、けりをつけてくるね」
「けりって言い方……なんか違う気がするんですけど」
「違うかなぁ?」
「うーん……むしろほんとはそっちじゃなくて……」

 愛梨さんは困ったように、私を見てるけど。

「何か、私ね、思ったんだけど」
「なんですか?」
「……三か月あるから、ダイエットして、綺麗になって、一番綺麗な私で――振られてくることにする。そしたらなんか、余分なもの全部綺麗になった私が生まれてくれる気がしてきたような……」

 うーん、と考えていた愛梨さんは、しばらくしてから、ああ、と頷いた。

「あ、それ、いいと思います。よし、じゃあ一番綺麗な先輩で帰りましょう!」
「ねっいいよね!」
「はい! ……そうそう、まずはそこから、やるだけやっといて……うんうん。いいかもです!」
「ん?」

「いえいえ。――ていうか、先輩は、今も綺麗ですけどね?」

 そんな風に言われるけれど。

「それが、お腹のお肉とか見えないとこ……脚とかすぐむくむし、フェイスラインも最近むくんできたなって……」
「あー、じゃあエステとか!」
「エステかぁ。行ったこと無いなぁ……」
「私がたまに緊急でいくとこあるんですけど」
「緊急ってなに??」
「すごく外せないなっていう合コンとか……」

 あはは、と笑う愛梨さん。

「まあまあのお値段なんですが、結構いいんですよ、むくみとか、一回でも結構すっきりするし。行きますか? 紹紹介者特典、たしか色々つきますよ~ 先輩も私もお得な感じです」

 なんだか楽しそうに、スマホをいじって、見せてくる愛梨さん。
 いろいろ聞きながら、ちょっとわくわくしてくる。

 そうだ。
 一番綺麗な私で、蒼真に言おう。

 昔、好きだったんだよって。
 ちゃんと伝えて、終わりにしてこよう。
 そのとき、少しでも、綺麗に笑える私でいたいから。

 その日はちょうど、二十五歳の誕生日。
 いい意味で、節目にしよう。


 なんだかとっても乗り気な、愛梨さんとともに。

 いつの間にか、エステとジムに通うことになってて。
 でも一人じゃエステもジムも初で心細いし。ありがたい。

 私は、三か月、頑張ることに決めた。



 なんだかぼんやりしていた私の世界に。
 再び色を取り戻すために。




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