「四半世紀の恋に、今夜決着を」

星井 悠里

文字の大きさ
35 / 36

第34話 四半世紀の。

しおりを挟む



 向かい合って二人、しばらく無言。
 私はひたすら俯いている。

「えっと……何で――泣いてる?」
「――わかんない」
「分かんないの?」
「……わかんない」

 そういうと、蒼真はちょっと困った顔をしていたけど。
 ぷ、と笑い出した。

「そう言えば、昔も、よく分かんないことで泣いてたよな」
「……そうだった?」
「うん。何で泣いてんのって言うと、分かんないって」
「――」

 そう言えばあったような。でもそれは、ただ、理由を言うのが恥ずかしかっただけで……分かっていない訳ではなかったと思うけど。

「でも、多分言いたくなかっただけだよな。彩葉は、自分では分かってたんだと思うけど」
「――」

 くすくす笑う蒼真に、また泣きそうになる。
 ……今度の理由は――なんだか、分かってくれてるのが、嬉しいから。

「彩葉、オレ――大事なこと言うから、聞いてて」

 急に声のトーンが変わった。頷いて、待っていると。

「オレね、彩葉」
「――ん」

「赤ん坊のころから、好きだった。と思う」
「――ん?」

「二十五年間、ずっと、お前のことが、一番、好きだった」
「――」

 呼吸が止まる。 
 え? と首をかしげてしまう。

「まあ……赤ん坊のころの記憶はないけど。その頃からお前の側に居たって、母さんが言ってるし。もう幼稚園とかの記憶はあるから。ずっと、彩葉が一番好きだった」
「……えと……どういう……」
「オレが、ずっと、守って、結婚して生きてくって、決めてた。子どもの頃は」
「――」

 びっくりしすぎて、声が出ない。

「でも中学位から……彩葉、ラブレターとか持ってくるし。高校は、他の男と付き合うし……だから、彩葉はオレのことは、そういう対象じゃないんだって思って、諦めなきゃって思った」
「――」
「……さっき理由は聞いたけど。何か嫌われるようなこともしたみたいで――諦めなきゃって、ずっと思って、生きてたんだけど……二十五歳になるって思った時……いいかげん吹っ切るか、進むかしようって思った。それで、同窓会、企画した。近所の居酒屋とかじゃなくて、彩葉が結婚式したいって言ったホテルにしたのも、遥香ちゃんに手伝ってもらったのも、彩葉が、帰ってきてくれるようにと思って」

 何を言ってるんだろうと。……都合がよすぎる言葉ばかりが、聞こえている気がして。 
 呆然と聞いていると。蒼真は、引くなよ? と苦笑する。

「誕生日にしたのは……二人で誕生会しないかって、誘う口実にしようと思って。……とにかく今日に賭けてて。これで駄目だったら、もう諦めようと思ってた」
「――」

 私は呆然と聞いていた。
 言葉が、優しすぎて。
 都合がよすぎて。

 それでも全部、本気で言ってくれているのが分かるから、涙がまた滲む。

「告白しようと思ってたけど……さっきの話聞いて……嫌悪感があったんだなって思ったら、出来なくなって――なんとなく、カーテン、開けてみたら。すげえ泣いてるし」
「――」

「何で、泣いてるんだよ……?」

 蒼真は困ったみたいに聞いてくる。

「……蒼真の好きな、人って」
 声が震える。

「彩葉だよ」

 即答されて、また――涙が溢れた。
 震える声で、話し始める。


「私も……ずっと……ずっと、蒼真と比べちゃって……誰のことも、本気で好きに、なれなくて……」
「え? ……え?」

「……ずっと……小さいときから……蒼真のこと……いちば、ん、好き、だった、から」

 しゃくりあげながら、何とか言うと。
 蒼真は、びっくりした顔のまま。私を見ていた。

「……え、じゃあなんで、ラブレターとか……飯田と付き合ったり……」
「……そこは……いろいろ事情があって……なが、いから……今は、……いえ、ない……っ」


 ひっく、ひっく。
 めちゃくちゃ泣いてると。

 困った顔をしてた蒼真は、す、と手を伸ばしてきた。


「……よく分かんないけど――とりあえず、手」
「――?」

 不思議に思いながらも手を差し出すと、ぐ、と掴まれた。

「こっち、おいで、彩葉」


 昔、よく超えてた窓。
 ちょっと怖いけど、思い切って。

 窓を超えた瞬間、体勢を崩して、倒れ込む。
 蒼真に支えられて、その腕の中に、すぽ、と入ってしまった。

「ご、め……」

 焦って、起き上がろうとした瞬間。ぎゅ、と抱き締められた。


「彩葉――オレのこと、好きって……ほんと?」
「…………蒼真こそ……ほんと……?」

 至近距離で見つめ合って。二人同時に「ほんと」と口にした。

「……っ」

 また涙が零れた私の目元を、笑いながら蒼真が拭う。

「ひでえ顔になってるし」

 くすくす笑われて、「ごめんね」と言うと。

「可愛いから、いい」

 なんて言われて、真っ赤になってしまう。
 すると、言った蒼真もカッと照れて――。

 ふ、と笑った蒼真に、抱き締められた。


「――四半世紀の片思い……」
「ん?」
「半世紀になったら、どうしようって……ちょっと思ってたの」

 思わずそう言ってしまった私に、蒼真はクスクス笑い出した。

「違うかも」
「……?」

「四半世紀の、両片思い、じゃねえの?」

 そう言われて、考えて。
 ――ふ、と笑みがこぼれた。


「でもって、これからの半世紀は、両想い、でいこ」
「――」

 ふ、と笑ってる蒼真に。
 私もくすくす笑ってしまった。



「……うん」

 今度は嬉し涙。
 

「あ、また泣いてるし」


 苦笑しながら言った蒼真は、私の顔を、ティッシュで拭いてから。


「これ、紙袋、何持ってるんだ?」
「あ。これは……お誕生日のプレゼント……」
「オレに?」
「うん……」

 蒼真は受け取ると、ふ、と笑い出した。そのまま、くすくす笑いながら、部屋の端に行って、鞄から、何かを取り出した。

「……え、なに?」

 同じ、ブランドの、紙袋。
 ……どういうこと??

「オレもこれ――彩葉にあげようと思って買ってて……」

 私たちは、お互いにプレゼントを受け取った。
 開くと、色違いのボールペン。


「……え、どうして?」
「どうしてって……ほら、別れる時にボールペンあげたろ。あの時は、めっちゃ安物だったから……いいの、あげたいな、と思って、これ」
「……私は、あの時もらったお礼をしようって思って……いろいろ、見てたら、これが書きやすくて、綺麗で……」
「すごくない? オレ達」

 蒼真はとっても嬉しそう。
 ……私も。
 …………今死んでもいいくらい、嬉しい。


 蒼真は、彩葉、と言いながら私を引き寄せて、また抱き締めた。
 なんだかもう、幸せすぎて、困っていると。


「――とりあえず。両想いってことで、いいんだよな?」
「……うん。……えっと……よろしく。お願いします」

 言ったら、蒼真は、ふは、と笑って――ん、と頷くと。


「これからずっと、よろしく。彩葉」


 そう言って、ちゅ、と頬にキスをした。





  Fin

    

しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

両片思いの幼馴染

kouta
BL
密かに恋をしていた幼馴染から自分が嫌われていることを知って距離を取ろうとする受けと受けの突然の変化に気づいて苛々が止まらない攻めの両片思いから始まる物語。 くっついた後も色々とすれ違いながら最終的にはいつもイチャイチャしています。 めちゃくちゃハッピーエンドです。

好きな人の好きな人

ぽぽ
恋愛
"私には何年も思い続ける初恋相手がいる。" 初恋相手に対しての執着と愛の重さは日々増していくばかりで、彼の1番近くにいれるの自分が当たり前だった。 恋人関係がなくても、隣にいれるだけで幸せ……。 そう思っていたのに、初恋相手に恋人兼婚約者がいたなんて聞いてません。

先輩のことが好きなのに、

未希かずは(Miki)
BL
生徒会長・鷹取要(たかとりかなめ)に憧れる上川陽汰(かみかわはるた)。密かに募る想いが通じて無事、恋人に。二人だけの秘密の恋は甘くて幸せ。だけど、少しずつ要との距離が開いていく。 何で? 先輩は僕のこと嫌いになったの?   切なさと純粋さが交錯する、青春の恋物語。 《美形✕平凡》のすれ違いの恋になります。 要(高3)生徒会長。スパダリだけど……。 陽汰(高2)書記。泣き虫だけど一生懸命。 夏目秋良(高2)副会長。陽汰の幼馴染。 5/30日に少しだけ順番を変えたりしました。内容は変わっていませんが、読み途中の方にはご迷惑をおかけしました。

✿ 私は彼のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい 

設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀ 結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。 結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。 それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて しなかった。 呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。 それなのに、私と別れたくないなんて信じられない 世迷言を言ってくる夫。 だめだめ、信用できないからね~。 さようなら。 *******.✿..✿.******* ◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才   会社員 ◇ 日比野ひまり 32才 ◇ 石田唯    29才          滉星の同僚 ◇新堂冬也    25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社) 2025.4.11 完結 25649字 

☘ 注意する都度何もない考え過ぎだと言い張る夫、なのに結局薬局疚しさ満杯だったじゃんか~ Bakayarou-

設楽理沙
ライト文芸
☘ 2025.12.18 文字数 70,089 累計ポイント 677,945 pt 夫が同じ社内の女性と度々仕事絡みで一緒に外回りや 出張に行くようになって……あまりいい気はしないから やめてほしいってお願いしたのに、何度も……。❀ 気にし過ぎだと一笑に伏された。 それなのに蓋を開けてみれば、何のことはない 言わんこっちゃないという結果になっていて 私は逃走したよ……。 あぁ~あたし、どうなっちゃうのかしらン? ぜんぜん明るい未来が見えないよ。。・゜・(ノε`)・゜・。    ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 初回公開日時 2019.01.25 22:29 初回完結日時 2019.08.16 21:21 再連載 2024.6.26~2024.7.31 完結 ❦イラストは有償画像になります。 2024.7 加筆修正(eb)したものを再掲載

思わせぶりには騙されない。

ぽぽ
恋愛
「もう好きなのやめる」 恋愛経験ゼロの地味な女、小森陸。 そんな陸と仲良くなったのは、社内でも圧倒的人気を誇る“思わせぶりな男”加藤隼人。 加藤に片思いをするが、自分には脈が一切ないことを知った陸は、恋心を手放す決意をする。 自分磨きを始め、新しい恋を探し始めたそのとき、自分に興味ないと思っていた後輩から距離を縮められ… 毎週金曜日の夜に更新します。その他の曜日は不定期です。

【書籍化決定】憂鬱なお茶会〜殿下、お茶会を止めて番探しをされては?え?義務?彼女は自分が殿下の番であることを知らない。溺愛まであと半年〜

降魔 鬼灯
恋愛
 コミカライズ化決定しました。 ユリアンナは王太子ルードヴィッヒの婚約者。  幼い頃は仲良しの2人だったのに、最近では全く会話がない。  月一度の砂時計で時間を計られた義務の様なお茶会もルードヴィッヒはこちらを睨みつけるだけで、なんの会話もない。    お茶会が終わったあとに義務的に届く手紙や花束。義務的に届くドレスやアクセサリー。    しまいには「ずっと番と一緒にいたい」なんて言葉も聞いてしまって。 よし分かった、もう無理、婚約破棄しよう! 誤解から婚約破棄を申し出て自制していた番を怒らせ、執着溺愛のブーメランを食らうユリアンナの運命は? 全十話。一日2回更新 7月31日完結予定

【完結】それ以上近づかないでください。

ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」 地味で冴えない小鳥遊凪は、ずっと憧れていた蓮見馨に勢いで告白してしまう。 するとまさかのOK。夢みたいな日々が始まった……はずだった。 だけど、ある出来事をきっかけに二人の関係はあっけなく終わる。 過去を忘れるために転校した凪は、もう二度と馨と会うことはないと思っていた。 ところが、ひょんなことから再会してしまう。 しかも、久しぶりに会った馨はどこか様子が違っていた。 「今度は、もう離さないから」 「お願いだから、僕にもう近づかないで…」

処理中です...