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第34話 四半世紀の。
しおりを挟む向かい合って二人、しばらく無言。
私はひたすら俯いている。
「えっと……何で――泣いてる?」
「――わかんない」
「分かんないの?」
「……わかんない」
そういうと、蒼真はちょっと困った顔をしていたけど。
ぷ、と笑い出した。
「そう言えば、昔も、よく分かんないことで泣いてたよな」
「……そうだった?」
「うん。何で泣いてんのって言うと、分かんないって」
「――」
そう言えばあったような。でもそれは、ただ、理由を言うのが恥ずかしかっただけで……分かっていない訳ではなかったと思うけど。
「でも、多分言いたくなかっただけだよな。彩葉は、自分では分かってたんだと思うけど」
「――」
くすくす笑う蒼真に、また泣きそうになる。
……今度の理由は――なんだか、分かってくれてるのが、嬉しいから。
「彩葉、オレ――大事なこと言うから、聞いてて」
急に声のトーンが変わった。頷いて、待っていると。
「オレね、彩葉」
「――ん」
「赤ん坊のころから、好きだった。と思う」
「――ん?」
「二十五年間、ずっと、お前のことが、一番、好きだった」
「――」
呼吸が止まる。
え? と首をかしげてしまう。
「まあ……赤ん坊のころの記憶はないけど。その頃からお前の側に居たって、母さんが言ってるし。もう幼稚園とかの記憶はあるから。ずっと、彩葉が一番好きだった」
「……えと……どういう……」
「オレが、ずっと、守って、結婚して生きてくって、決めてた。子どもの頃は」
「――」
びっくりしすぎて、声が出ない。
「でも中学位から……彩葉、ラブレターとか持ってくるし。高校は、他の男と付き合うし……だから、彩葉はオレのことは、そういう対象じゃないんだって思って、諦めなきゃって思った」
「――」
「……さっき理由は聞いたけど。何か嫌われるようなこともしたみたいで――諦めなきゃって、ずっと思って、生きてたんだけど……二十五歳になるって思った時……いいかげん吹っ切るか、進むかしようって思った。それで、同窓会、企画した。近所の居酒屋とかじゃなくて、彩葉が結婚式したいって言ったホテルにしたのも、遥香ちゃんに手伝ってもらったのも、彩葉が、帰ってきてくれるようにと思って」
何を言ってるんだろうと。……都合がよすぎる言葉ばかりが、聞こえている気がして。
呆然と聞いていると。蒼真は、引くなよ? と苦笑する。
「誕生日にしたのは……二人で誕生会しないかって、誘う口実にしようと思って。……とにかく今日に賭けてて。これで駄目だったら、もう諦めようと思ってた」
「――」
私は呆然と聞いていた。
言葉が、優しすぎて。
都合がよすぎて。
それでも全部、本気で言ってくれているのが分かるから、涙がまた滲む。
「告白しようと思ってたけど……さっきの話聞いて……嫌悪感があったんだなって思ったら、出来なくなって――なんとなく、カーテン、開けてみたら。すげえ泣いてるし」
「――」
「何で、泣いてるんだよ……?」
蒼真は困ったみたいに聞いてくる。
「……蒼真の好きな、人って」
声が震える。
「彩葉だよ」
即答されて、また――涙が溢れた。
震える声で、話し始める。
「私も……ずっと……ずっと、蒼真と比べちゃって……誰のことも、本気で好きに、なれなくて……」
「え? ……え?」
「……ずっと……小さいときから……蒼真のこと……いちば、ん、好き、だった、から」
しゃくりあげながら、何とか言うと。
蒼真は、びっくりした顔のまま。私を見ていた。
「……え、じゃあなんで、ラブレターとか……飯田と付き合ったり……」
「……そこは……いろいろ事情があって……なが、いから……今は、……いえ、ない……っ」
ひっく、ひっく。
めちゃくちゃ泣いてると。
困った顔をしてた蒼真は、す、と手を伸ばしてきた。
「……よく分かんないけど――とりあえず、手」
「――?」
不思議に思いながらも手を差し出すと、ぐ、と掴まれた。
「こっち、おいで、彩葉」
昔、よく超えてた窓。
ちょっと怖いけど、思い切って。
窓を超えた瞬間、体勢を崩して、倒れ込む。
蒼真に支えられて、その腕の中に、すぽ、と入ってしまった。
「ご、め……」
焦って、起き上がろうとした瞬間。ぎゅ、と抱き締められた。
「彩葉――オレのこと、好きって……ほんと?」
「…………蒼真こそ……ほんと……?」
至近距離で見つめ合って。二人同時に「ほんと」と口にした。
「……っ」
また涙が零れた私の目元を、笑いながら蒼真が拭う。
「ひでえ顔になってるし」
くすくす笑われて、「ごめんね」と言うと。
「可愛いから、いい」
なんて言われて、真っ赤になってしまう。
すると、言った蒼真もカッと照れて――。
ふ、と笑った蒼真に、抱き締められた。
「――四半世紀の片思い……」
「ん?」
「半世紀になったら、どうしようって……ちょっと思ってたの」
思わずそう言ってしまった私に、蒼真はクスクス笑い出した。
「違うかも」
「……?」
「四半世紀の、両片思い、じゃねえの?」
そう言われて、考えて。
――ふ、と笑みがこぼれた。
「でもって、これからの半世紀は、両想い、でいこ」
「――」
ふ、と笑ってる蒼真に。
私もくすくす笑ってしまった。
「……うん」
今度は嬉し涙。
「あ、また泣いてるし」
苦笑しながら言った蒼真は、私の顔を、ティッシュで拭いてから。
「これ、紙袋、何持ってるんだ?」
「あ。これは……お誕生日のプレゼント……」
「オレに?」
「うん……」
蒼真は受け取ると、ふ、と笑い出した。そのまま、くすくす笑いながら、部屋の端に行って、鞄から、何かを取り出した。
「……え、なに?」
同じ、ブランドの、紙袋。
……どういうこと??
「オレもこれ――彩葉にあげようと思って買ってて……」
私たちは、お互いにプレゼントを受け取った。
開くと、色違いのボールペン。
「……え、どうして?」
「どうしてって……ほら、別れる時にボールペンあげたろ。あの時は、めっちゃ安物だったから……いいの、あげたいな、と思って、これ」
「……私は、あの時もらったお礼をしようって思って……いろいろ、見てたら、これが書きやすくて、綺麗で……」
「すごくない? オレ達」
蒼真はとっても嬉しそう。
……私も。
…………今死んでもいいくらい、嬉しい。
蒼真は、彩葉、と言いながら私を引き寄せて、また抱き締めた。
なんだかもう、幸せすぎて、困っていると。
「――とりあえず。両想いってことで、いいんだよな?」
「……うん。……えっと……よろしく。お願いします」
言ったら、蒼真は、ふは、と笑って――ん、と頷くと。
「これからずっと、よろしく。彩葉」
そう言って、ちゅ、と頬にキスをした。
Fin
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