上 下
41 / 112
第二章

10.「もう無理」*真奈

しおりを挟む
 
 もう、ほんと、無理……。
 
 散々抱かれて、最後はまた落ちたみたいだった。ふと目が覚めて時計を見ると、まだ二十二時前。今日は俊輔が返ってきたのが早かったからか……。

 俊輔は、今はシャワーを浴びてる音が聞こえる。側に居なくて、良かった。

「――――……」

 ため息が漏れてしまう。

 本当、こんなの、無理……。

 何で、どーして、あんな風に抱くんだろう。
 ……なんで、あんな風に、見つめんだよ。

 つーか…… 今までも、あんな感じだったんだろうか。
 俊輔はいつも、あんな風に抱いてたんだろうか。
 ……オレの反応も、ずっと、ああだったんだろうか。

 翻弄されて、声を抑えられなくて、俊輔のすることに、もう何もかも分からなくなって。

「~~~……ッ……」

 もう俊輔の顔なんか、見れない。そんな風に、思ってしまう程。恥ずかしいというのか何なのか。もともとそんなに素面で向かい合うなんて事はなかったけど、でも今、本当に無理。
 ため息をついた時。俊輔がバスルームから出てくる音がした。

 もうオレ、今日は寝たふりで過ごす。そう決めて、枕に突っ伏して、絶対動かないことを誓った。

 しばらくしてから、かさっという紙の音が聞こえる。俊輔が近づいてくるのが分かった。

 寝た振り寝た振り……。
 起きれない。顔なんか見れない。
 ましてもう一度、なんてなったら、それこそ、耐えられない。

 すると、ベッドに俊輔が座る気配がして。
 ――――……何を開けているのか、静かに紙を破るような音。その後、俊輔の動く気配がしない。

 何をしてるんだろう、と不思議に思いながらも、その疑問よりも、顔を合わせたくない気持ちの方が強かったので、ひたすら眠った振りを続けていると。

 枕を抱えるような感じで伸ばしていた左手首に、俊輔が触れた。

 ……何??

 何とか動かずに耐えられたのだけれど、何やら、ヒヤリとした冷たい感触が触れて。それが、手首に、する、と収まった。

 ……何? ……なんだろ、この感触 ???
 左手、何……?

 しばらく葛藤の末、好奇心に負けて、オレはゆっくりと寝返りを打った。

「……起きたのか」
 俊輔が穏やかに言う。

「……うん」

 何かを右手に持ったまま、俊輔がふ、とオレを見つめる。
 視線をあわせる事が出来ないまま、オレはゆっくりと起きあがって、いまだ手首にある冷たい感触に目を向ける。

「――――……?」

 手首に収まっているのは――――……何やら、綺麗なブルーの石の入ったバングルだった。

「……なに……??」
「――――……やる」

「え??」

 先程までの葛藤すらも忘れて、まっすぐ俊輔を見つめる。

「いいから、好きな時、つけてろ」
「……うん」

 何だろう、これ? とすごく思いながら、それでも頷く。

「水」
 また持ってきてくれてたらしいペットボトルを渡されて、喉を潤しながらも、手首のバングルが目に入る。

「……ちょうど良い。誕生日の祝いだ」
「え」

 俊輔から漏れた意外な言葉に、ただ呆けて、俊輔を見つめてしまった。
 すると、物凄く嫌そうな顔で俊輔がオレを睨む。

「……なんだよ」
「……え。……あ、いや……あり、がと……」

 これは……ありがと、でいいんだろうか。
 ……でも、さっきまで誕生日知らなかったんだから、誕生日プレゼントっていうの変だけど……。

 誕生日とか関係なく、もともと買ってきてくれてたってこと?

 ……何で??
 色んな不思議が沸いては、聞けずに消えていく。


しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【完結】出戻り令嬢の奮闘と一途な再婚

恋愛 / 完結 24h.ポイント:809pt お気に入り:147

婚約破棄させてください!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:8,605pt お気に入り:3,022

間違って地獄に落とされましたが、俺は幸せです。

BL / 連載中 24h.ポイント:1,307pt お気に入り:277

畜犬狩り

BL / 連載中 24h.ポイント:298pt お気に入り:31

あやかし公園 

BL / 連載中 24h.ポイント:49pt お気に入り:80

竜皇女と呼ばれた娘

Aoi
ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:597pt お気に入り:184

最愛の推しを殺すモブに転生したので、全力で救いたい!

BL / 完結 24h.ポイント:5,908pt お気に入り:2,135

攻略対象の婚約者でなくても悪役令息であるというのは有効ですか

BL / 連載中 24h.ポイント:3,081pt お気に入り:1,801

処理中です...