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第二章

24.「梨花」*俊輔

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 部屋に戻り、バスルームで真奈を抱いた。外に食事に行くか尋ねると、驚いたような顔はしていたけれど、真奈は頷いた。服を着替えて真奈とともに玄関に向かったところで、和義が外から戻ってきたが、なんだか様子がおかしい。

「和義?」
 声を掛けると、和義は珍しく戸惑ったような顔を見せ。

「あ、若……あの――――……」

 言いかけた和義の脇から顔を覗かせたのは――――……梨花だった。

「俊!」
 笑顔の梨花に抱き付かれて、とりあえずその体を抱き止める。

「またお前は、連絡もせずにいきなり……」
「だって。ここんとこずっと俊に会ってなかったから。会いたかったんだもん!」

 抱き付いたままの梨花は甘えるように言って、オレにすり寄ってくる。

  …… 相変わらず、だな。
 苦笑しながら色々質問して、和義に梨花のことで指示を出し、それから真奈を振り返った。

「真奈。――――……出かけるの、無しだ」
「……うん」

 頷いて、真奈はそれきり黙っている。
 真奈の食事を用意させるようにと和義に告げると、梨花が真奈を見ながら、オレを振り仰いだ。

「俊、この人は?」
「ああ……」

 何と言うべきか一瞬言葉に詰まったオレに、和義が助け船を出してきた。

「真奈さんです、梨花さん。事情がありまして、今このお屋敷で生活されてます」
「……ここで?」

 怪訝そうに眉を寄せた梨花の腕を掴んで、オレは歩き出した。
 口では色々文句を言いながらも、楽しそうにじゃれてくる梨花をとにかく引っ張りつつ、屋敷外へと引っ張り出した。結局、和義によると、梨花は今回はちゃんと親に頼み込んでから来たらしく、数日預かる事が決まった。
 
「ね、ちゃんとOKもらってるでしょ?」

 嬉しそうに笑う梨花。

「……あんまり構ってやれねえぞ?」
「言ったでしょ、俊輔が忙しいのは知ってるてば。夜、一緒に過ごしてくれればいいから」

 する、と首に掛かる腕。

 そういう行為に興味があり、女なら誰でも良いと思っていた時期に初めて関係を持って。
 その後何回か、梨花とそういう関係を持った。

 梨花は多少ワガママではあるけれど、幼い頃から何度も顔を合わせていた身としては可愛いもので、明らかに美人の部類に入るそのルックス。オレの事を好きだという梨花に、今までは別に断る理由もなかった。

 けれど。正直今、全くその気にならない。

「――――……今回はそれは無しだ」
「え?」

 きょとんとしている梨花の腕をそっと離させる。

「どうして?」
「どうしても、だ」
「……彼女、できたの?」
「出来てねえけど、無し。……ちょっとここで待ってろよ」

 固まってる梨花から離れて屋敷に戻り、とりあえず部屋に戻った。

「……俊輔? あれ、出てなかったの?」

 驚いたような顔で振り返る真奈。

「あぁ、今から行くけど……真奈」
「……?」

「今度また外に連れてく。 梨花、さっさと追い返すから」

 少し首を傾げた状態で、真奈が頷いた瞬間。

「しゅんーーー!どこーー!」

 梨花の大きな声が聞こえた。
 
「――――……」

 ため息を付きながら、オレは真奈を残し、部屋を出た。
 すぐに梨花が絡んでくる。

 梨花が行きたいというレストランで食事を取ってから、そのまま行きつけの店の個室に入った。
 何だかんだと楽しそうに話し続ける梨花の相手をしながら。 

 ……思うのは、真奈の事だった。
 手首にはめたバングルに、何となく視線を落とす。

「……素敵、これ」
「ん?」
「これ。 すごく、素敵」

 オレの視線の先を追ったのか、梨花がバングルを見て、そう言った。

「そうか……?」
「うん。 俊が選んだの?」
「……ああ」
「俊に似合う」

「――――……」

 ……真奈に似合うと思って買った事を思い出して、何となく笑みが零れた。
 そんなオレに、梨花はふと、首を傾げた。

「……何か、俊、変わったみたい」
「何がだよ?」

「……よく分かんないけど…… 何となく」
「別に……変わってねえよ」
 
 そうかなあ、と首を傾げてる梨花には特に何も言わず、バングルに触れる。

 ……もう寝たか?
 時計を見ながら、ふと、真奈を思う。
 

「あ、そうだ、ねえ、俊」

 梨花に目を向けると、梨花は身を乗り出してきた。

 
「あの子、誰? さっき俊輔と一緒に居た男の子」
「……和義が紹介しただろ」

 そう返すと、梨花は少し眉を顰めた。

「何であそこで暮らしてるの?」
「――――……」

「友達とかじゃないでしょ? あの子って年下よね?高校生くらい?」

 そこまで聞いた所で、オレは立ち上がった。

「……帰るぞ」
「え、ちょっと待ってよ、俊……!」
「明日も早い。――――……まだどこかで遊んで行きたいなら置いてくぞ」
「一緒に帰るわよ! ……俊ってば!」

 腕を掴まれて、引き留められる。

「答えてくれてないじゃない」
「……あいつの事はお前には関係ないだろ」

「――――……」

 オレの言葉に、梨花はむっとして口を噤んだ。

「家に居るのは良いけど、真奈には構うなよ」
「……何なのよ、ほんとにあの子」

「良いから、ちょっかいだすな。いいな」
「……」

 ひたすら納得できないと言った顔をして、むっとしてる梨花と共に、屋敷に帰り着いたら、もう二十四時前で。
 真奈は、なぜかソファで寝ていた。




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