「Promise」-α×β-溺愛にかわるまでのお話です♡

星井 悠里

文字の大きさ
75 / 147
第三章

13.「取引」*真奈

しおりを挟む



 凌馬さんがふと気付いたように立ち上がって、机からペットボトルをもってきてくれた。

「水、飲めそうか?」
「……はい」
 
 ゆっくりと体を起こすと、ペットボトルのキャップを開けて、渡してくれる。強そうで一見怖そうだけど、優しい人なんだろうなと思う。
 水を飲んで、ふ、と息をついたら、凌馬さんもため息をついて、また横に座った。

「……何が、あったンだよ?」
「……」
「俊輔が真奈ちゃんに、そんな真似すんなんて、さ」
「……」
 
 何が? ……拒否したことがそれにあてはまるのかな……。
 
「真奈ちゃんにそんな、傷つける程縛り上げるなんて、何かなきゃありえねえだろ」
「……もう、嫌だって……言って……」
「言って? そんで?」
 
 そんで? と言われても。別に続きがある訳でもなく。
  
「……それだけです……けど……?」
  続きがないとマズイのだろうか? そう思いながら答えると、凌馬さんは呆れたような表情を見せた。
 
「そんだけ? ……今更嫌って言われた位で、そんなキレたのか?」
 
 そんだけって……そんなこと、オレに言われても。
 確かに、あの時、元々苛々はしてたんだと思うけど……。
 曖昧に頷くと、目の前の凌馬さんの顔が少し歪んだ。
 
「……にやってんだ、アイツ……」
 
 大きなため息に、特に何も言えない。
 
「……そんで真奈ちゃんは、何で泣いてたの」
「……」
「痛いから泣いてるってな感じじゃないだろ?」
「……自分でも……良く分からないです」
 
 首を傾げながら、何とかそう答えると。
 
「……ふうん……」
 
 再び大きな息をついて、凌馬さんは前髪を掻き上げた。
  
「……さて。どうしようかな。……オレは、アイツの一応親友なんだよな」
「……」
「真奈ちゃんが逃げたなら本当なら真っ先に教えてやんなきゃいけないんだ、とは……思うんだけど……」
「……」
 
 それも、凌馬さんの姿を見た時から覚悟していたことだったのだけれど。
 俊輔を思い起こすと、唇を噛みしめていないと、震えてしまいそうで。
 
 思わず俯いたオレの頭を撫でて、降り仰いだオレに苦笑いを浮かべた。
 
「……だけどなあ……こんな姿見ると、なんかそれも出来ねえ訳。さて。どうしたら良いかね?」
 
 どうしたらいいかなんて言われても、逃げ出してきてしまった今となっても、自分がどうしたら良いのかすら分からない。
 
「……もう俊輔の側には居たくないか?」
「……」
  
 微かに戸惑いながらも、小さく頷いたオレに、凌馬さんは困ったような顔をした。
 
「真奈ちゃんは俊輔と取引したんだよな?」
「……?」
「真奈ちゃんが俊輔のモノになるかわりに、アイツは誰かを助けたんだろ? オレは確かそう聞いたけど。違うのか?」
 
 凌馬さんのその言葉に、しばし考えて、小さく頷いた。
 確かにあの時、秀人のことを助けてくれて、多分オレのことも助けてくれた。……そのかわり、全部の生活捨てて俊輔のところに、なんて、そんな要求だった。確かに、取引と呼べるものだったかもしれない。 
 
「……とはいってもな。こんな事する今のあいつんとこに真奈ちゃん返すの、可哀想だしな。そんで真奈ちゃんが死にでもしたら、オレ、一生後悔する気がするし……」
「え」
「いや、マジでな……」
 
 冗談なのか本気なのか。苦笑いして見せた凌馬さんに、オレも思わず、ふ、と笑い返す。
 すると、凌馬さんは途端に、嬉しそうに笑った。
 
「……笑うと、普通に可愛いよな」
 
 よしよし、と撫でられて、思わず無言で凌馬さんを見上げた。
 
 もしあの時、この人のとこに、オレが乗り込んでたら。
 ……今こんな風にはなっていないだろうなぁ、と思う。
 
 思うけれど、それもまたそういう運命なんだろうかとすぐに諦めた。
 そんなオレの目の前で、凌馬さんは腕を組んで座り直した。
 
「まあ取引って言っても、取引内容はどーせ後から告げられたんだろ?」
「……一応最初に……」
「俊輔、最初にちゃんと言ったのか?」
「……今の生活捨てて、オレのモノになるなら、て言われたので……」
「それ言われて、意味分かってたか?」
「……」
 
 ぷるぷるぷる。小さく首を振ると、凌馬さんはポリポリと首の後ろを掻いて、首を竦めた。
  
「……なんっかどーも、無条件に俊輔に返すの、良心が痛むんだよな……」
「……」
 
 オレの命って。
 ……今この人が握ってるんだよな、きっと。
 戻されたら、やっぱり殺されるかな……。
 
 ぼんやりとそんなことを考えていると、凌馬さんはふ、と気付いたように、オレを覗き込んだ。

「水はもういい?」 
「はい。……ありがとうございます」
「ん。 ……ほんと、普通の良い子、だよな」
 
 クスクス笑う凌馬さんは、ペットボトルを受け取って蓋をしめた。
 
「……いつからちゃんと食えてねえの?」
「え?」
「飯。食べれなくなってどの位だ?」
「……四日位ですけど、 でもそれまでもあんまり食欲はなかったんで……」
 
 どれ位、だろ。
 ……そういえば、少し痩せたかな……?
 
 答えると、一体何回目なんだか。また大きく息を付いて、椅子に座り直すと、凌馬さんはゆっくりと言葉を口にした。
  
「……真奈ちゃんが決めて良いぜ」
「え?」
「戻りたいか 戻りたくないか」
「……」
 
 そんな聞かれ方をしたら、間違いなく戻りたいないと答える。

 その筈なのに。
 咄嗟に声が出なかった。




しおりを挟む
感想 124

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? 騎士×妖精

こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡

なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。 あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。 ♡♡♡ 恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学で逃げ出して後悔したのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞に応募しましたので、見て頂けると嬉しいです! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」

異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈ 社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。 もらった能力は“全言語理解”と“回復力”! ……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈ キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん! 出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。 最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈ 攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉ -------------------- ※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

溺愛の加速が尋常じゃない!?~味方作りに全振りしたら兄たちに溺愛されました~

液体猫(299)
BL
毎日AM2:10分に予約投稿。   【《血の繋がりは"絶対"ではない。》この言葉を胸にクリスがひたすら愛され、大好きな兄と暮らす】  アルバディア王国の第五皇子クリスは冤罪によって処刑されてしまう。  次に目を覚ましたとき、九年前へと戻っていた。    巻き戻す前の世界とは異なるけれど同じ場所で、クリスは生き残るために知恵を振り絞る。  かわいい末っ子が過保護な兄たちに可愛がられ、溺愛されていく。  やり直しもほどほどに。罪を着せた者への復讐はついで。そんな気持ちで新たな人生を謳歌する、コミカル&シリアスなハッピーエンド確定物語。  主人公は後に18歳へと成長します(*・ω・)*_ _)ペコリ ⚠️濡れ場のサブタイトルに*のマークがついてます。冒頭のみ重い展開あり。それ以降はコミカルでほのぼの✌ ⚠️本格的な塗れ場シーンは三章(18歳になって)からとなります。

被虐趣味のオメガはドSなアルファ様にいじめられたい。

かとらり。
BL
 セシリオ・ド・ジューンはこの国で一番尊いとされる公爵家の末っ子だ。  オメガなのもあり、蝶よ花よと育てられ、何不自由なく育ったセシリオには悩みがあった。  それは……重度の被虐趣味だ。  虐げられたい、手ひどく抱かれたい…そう思うのに、自分の身分が高いのといつのまにかついてしまった高潔なイメージのせいで、被虐心を満たすことができない。  だれか、だれか僕を虐げてくれるドSはいないの…?  そう悩んでいたある日、セシリオは学舎の隅で見つけてしまった。  ご主人様と呼ぶべき、最高のドSを…

処理中です...