155 / 170
153.ありがと
いろんなことを考えて一人で恥ずかしがりながら、鍋のミルクを見つめる。
沸騰させちゃうとハチミツの効能消えちゃうから、適度で……なんて思っていたら、瑛士さんが戻ってきた。すぐ隣に立って、「温め直してくれてるの?」と聞いてくる。
「あ、はい」
「ありがと」
優しく言われて、ふ、と瑛士さんを見上げると、「ん?」と微笑む。
ありがとって。
――嬉しいなあ。
一人だと、言われないし、自分も言えない言葉だもんね。
誰かと一緒に居られるから、使える言葉。
――瑛士さんは、いつも、優しい言葉をくれるから。一緒にいて、楽しい。
マグカップに淹れなおして、鍋を洗っている間に、瑛士さんがローテーブルまで運んでくれた。
「ありがとうございます」
「うん」
さっきまで座っていたソファに戻って、一口飲む。
温かくて、ほっとする。
「凛太にさ」
「はい?」
「ありがとうって言われるの、好きだなぁ、オレ」
「え」
んん。さっきオレが考えてたこと、読み取った? と思って、瑛士さんをマジマジと見てしまう。瑛士さんはオレの顔を見て、ふ、と笑った。
「オレ、そんな変なこと言った? びっくりした顔してるけど」
「あ、いえ。そうじゃなくて。――さっきオレも、ホットミルク温めてて、ありがとって言われて嬉しかったので」
「――ふうん……そうなんだ」
瑛士さんはオレを見つめ返して微笑むと、オレの頬に手を伸ばして、ふに、とつまむみたいにして触れた。
「ありがとって、仕事中とかもよく言うけど……こんな風にゆっくり一緒にいて言ってると、改めて嬉しいのかも」
そんな風にしみじみと言ってくれる瑛士さんに、なんだか胸があったかくて。なんか。ふわふわと、気持ちが軽い。
それからなんとなくくっついて座ったまま、それぞれやりたいことをする。本を読んでると、くい、と引き寄せられて、瑛士さんの腕によりかかる。
大きなクッションは向こうの部屋にあるけど。……瑛士さん、十分クッションのかわりになっちゃうかも。なんて思いながら。
しばらくそのまま。
静かな音楽と、瑛士さんの叩くパソコンのキーボードの音が、耳に心地いい。――キリがいいところで本を読み終えて、SNSを開いた。
いくつかの相談や質問があって、フォロワーさん達同士で盛り上がってる。大体はいつもの雑談とか、Ωあるあるで、面白おかしく書いてる人も多い。表も裏も、大丈夫そうかなぁ、と思ったとき。
――ひとつ気になるものが目に入ってきた。
(2026/2/24)
あなたにおすすめの小説
人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます
七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。
歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。
世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。
気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
学内一のイケメンアルファとグループワークで一緒になったら溺愛されて嫁認定されました
こたま
BL
大学生の大野夏樹(なつき)は無自覚可愛い系オメガである。最近流行りのアクティブラーニング型講義でランダムに組まされたグループワーク。学内一のイケメンで優良物件と有名なアルファの金沢颯介(そうすけ)と一緒のグループになったら…。アルファ×オメガの溺愛BLです。
帝に囲われていることなど知らない俺は今日も一人草を刈る。
志子
BL
ノリと勢いで書いたBL転生中華ファンタジー。
美形×平凡。
乱文失礼します。誤字脱字あったらすみません。
崖から落ちて顔に大傷を負い高熱で三日三晩魘された俺は前世を思い出した。どうやら農村の子どもに転生したようだ。
転生小説のようにチート能力で無双したり、前世の知識を使ってバンバン改革を起こしたり……なんてことはない。
そんな平々凡々の俺は今、帝の花園と呼ばれる後宮で下っ端として働いてる。
え? 男の俺が後宮に? って思ったろ? 実はこの後宮、ちょーーと変わっていて…‥。
空港清掃員58歳、転生先の王宮でも床を磨いたら双子に懐かれ、国王に溺愛される
木風
恋愛
羽田空港で十五年、黙々と床を磨いてきた清掃員・田中幸子(58)は事故死し、没落寸前の子爵令嬢エルシアとして転生する。
婚約破棄の末に家を追われた彼女が選んだのは、王宮の清掃員――前世の技で空気まで変わるほど磨き上げていく仕事だった。
やがて母を亡くした双子王子王女に懐かれ、荒れた執務室の主である喪中の国王とも距離が縮まり……。
「泣くなら俺の胸で」――床も心も磨き直す、清掃令嬢の溺愛成り上がり。
のほほんオメガは、同期アルファの執着に気付いていませんでした
こたま
BL
オメガの品川拓海(しながわ たくみ)は、現在祖母宅で祖母と飼い猫とのほほんと暮らしている社会人のオメガだ。雇用機会均等法以来門戸の開かれたオメガ枠で某企業に就職している。同期のアルファで営業の高輪響矢(たかなわ きょうや)とは彼の営業サポートとして共に働いている。同期社会人同士のオメガバース、ハッピーエンドです。両片想い、後両想い。攻の愛が重めです。番外編をちょこちょこ追加しています。