17 / 152
17.ごはんの相性
しおりを挟むあの出会いからもうすぐ一週間になる。
「こんにちは」
大学が終わって帰ってくると、受付の人に挨拶をしながらマンションに入る。豪華すぎるエレベーターでカードを機械に当てる。ちょっとだけ慣れてきた。部屋の暗証番号はまだ変えてない。教えてもらったのを使ってる。
部屋に入って、ただいま、と口にする。
広すぎて、ちょっとため息が漏れる。
別に嫌とかじゃないんだけど、まだ慣れなくて、自然と息が……。
あの日、瑛士さんの部屋でコーヒーを飲んだ後、オレの住んでたマンションに行って、さしあたって必要なものだけ持ってきた。生活用品と服とパソコンとか、学校の道具とか。
まあ、歩いても行けるので、必要なら帰ればいいだけなんだけど。
とりあえず今のところ変わったのは、ここで暮らし始めた、というだけ。
婚姻届けとかは出してないし、譲渡は辞めてもらったし。
結婚をするには、瑛士さんの家族に、まず会いに行かなくてはいけないみたい。まあ、それはそうだよね。その段取りをとるね、と瑛士さんは言ってた。
話を聞いてる限り……おじいさんと、お父さん、だと思う。おばあさんとお母さんは亡くなってて、兄弟は居ないって言ってたし。――やっぱり、オレの父にも挨拶に行かないといけないんだろうなぁ。オレがΩだって、言ったら……めんどくさそうだけど、でも……瑛士さんが相手なら、許してはくれそうだけど。Ωだって言うのがめんどくさい。
夕暮れ。高層マンションのでっかすぎる窓から見ると、空が広く見えて、夕日が綺麗すぎる。
大学から帰ってきて、とりあえず炊飯器にご飯をセットして三十分くらい経った。
さて。ご飯、作ろうかな。
すごく切れ味の良い包丁で、野菜を切る。木製の綺麗なまな板に、新鮮な人参や大根、青いネギ。瑛士さんが、冷蔵庫と棚に大量の食べ物や調味料を入れてくれた。好きなもの作って食べていいよ、なんて言ってた。こないだ食べさせてくれた料理に使う、調味料とかも並んでるみたいだけど、まだ使ってはない。今度時間がある時、作ろうと思ってる。
かつお節と昆布でとった出汁のいい香りがふわりと漂い始める。いい匂いー。お出汁の香りって、ほんと幸せ。
魚を焼こうとして、ちょっとだけ悩む。一匹にするか二匹にするか。
「……来るのかなぁ?」
実際来てから焼いてもいいんだけど……んー。
煮物に箸を通して、火が通ってるか確かめる。イイ感じ。
まあいいや。二匹焼いちゃえ。焼き網にのせて魚を焼き始める。香ばしい匂い。美味しそう……。
大体にして、ここのマンションの下にあるお店の食材は、めっちゃ高い。普通の時ならあの店には入らないし買わない。いや、買えない。激安スーパーとかでは見ないようなものがたくさん売ってる。
来てすぐに、一枚のクレジットカードを貰った。すぐだよ。すぐ。クレジットカードって発行するのに時間かかると思うのだけど。どんなツテがあれば、すぐオレ名義のカードが……。
常識の範囲内ならいくら使ってもいいよ。月に百万超えそうなら言ってね、とか言われて。
……超えないから。常識って何だっけ……。とオレは呆然。
ちょっと……ううん、大分引くけど。住む世界が違うんだろうなあ、と、納得することにしている。
食費に使うだけなら、今までなら節約してたし、お昼おにぎり作ってたし。一月一万とか、付き合いで外食とかで月ニ万くらいとか。……百万とは……?
ここに来た日に瑛士さんが、ここのキッチンを埋めるために使った金額に、もうめちゃくちゃびっくりした。でも色々なものが元々高いんだよね……。
下のお店で買い物すると高くなっちゃうから、今までのスーパー行こうかなあ? とかも思うんだけど。
でもなんか、お魚とかお肉も、果物とかも、良いものがあって、なんか、美味しいんだよね。うーん。この生活に慣れてしまうと、その後が怖い。と、密かにドキドキしている。
魚がとってもいい匂いになってきた。
みそ汁も煮物も、ちょうどイイ感じ。
できたて豆腐とやらがめちゃくちゃ美味しくて、さっきついついそれを買ってきてしまった。……やばい、これに慣れたらまずい。
そう思いながらも、ついつい買ってしまうのには、ちょっと理由がある。
「ただいまー!」
ドアが開いて、そんな声がした。
あ、また来た。ふ、と笑ってしまう。時計を見ると、ちょうど十九時。
火を止めて、玄関に行こうと思っていたら、もうリビングの扉が開いた。
「ただいま、凛太」
「おかえりなさい」
「まあまだ仕事途中なんだけどさ」
「ですよね――ちょうど十九時ですね」
言いながら笑ってしまう。
初日、瑛士さんがここのキッチンをいっぱいにしてくれたので、夜は、お礼にオレが作りますって言った。昼、こってりコースを食べたから、お腹いっぱい過ぎて。
ご飯とみそ汁と卵焼きと肉じゃがを作った。
――普通に作ったんだけど、お出汁とかもすごく良くて、今までで一番おいしくできたかも。と思っていたら、なんか、瑛士さんが、すげーうまい、と褒めてくれた。
なんか、しょっぱさとか甘さとか固さとか、そういうのが、好きだって。食事の相性がいいんですねってことになったんだけど……。
凛太って、いつも夕飯何時? て聞かれて、大体十九時頃ですねって、話した。学校から早く帰れる時は、作ってそれ位。実習とか居残りがあると延びるけど、とは話したんだけど。
あれから、ちょこちょこと。……ていうか、ほぼ毎日? 瑛士さんがやってくる。
なんなら、朝もやってくる。
2,106
あなたにおすすめの小説
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*本編完結しました
のほほんオメガは、同期アルファの執着に気付いていませんでした
こたま
BL
オメガの品川拓海(しながわ たくみ)は、現在祖母宅で祖母と飼い猫とのほほんと暮らしている社会人のオメガだ。雇用機会均等法以来門戸の開かれたオメガ枠で某企業に就職している。同期のアルファで営業の高輪響矢(たかなわ きょうや)とは彼の営業サポートとして共に働いている。同期社会人同士のオメガバース、ハッピーエンドです。両片想い、後両想い。攻の愛が重めです。
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
帝に囲われていることなど知らない俺は今日も一人草を刈る。
志子
BL
ノリと勢いで書いたBL転生中華ファンタジー。
美形×平凡。
乱文失礼します。誤字脱字あったらすみません。
崖から落ちて顔に大傷を負い高熱で三日三晩魘された俺は前世を思い出した。どうやら農村の子どもに転生したようだ。
転生小説のようにチート能力で無双したり、前世の知識を使ってバンバン改革を起こしたり……なんてことはない。
そんな平々凡々の俺は今、帝の花園と呼ばれる後宮で下っ端として働いてる。
え? 男の俺が後宮に? って思ったろ? 実はこの後宮、ちょーーと変わっていて…‥。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
『アルファ拒食症』のオメガですが、運命の番に出会いました
小池 月
BL
大学一年の半田壱兎<はんだ いちと>は男性オメガ。壱兎は生涯ひとりを貫くことを決めた『アルファ拒食症』のバース性診断をうけている。
壱兎は過去に、オメガであるために男子の輪に入れず、女子からは異端として避けられ、孤独を経験している。
加えてベータ男子からの性的からかいを受けて不登校も経験した。そんな経緯から徹底してオメガ性を抑えベータとして生きる『アルファ拒食症』の道を選んだ。
大学に入り壱兎は初めてアルファと出会う。
そのアルファ男性が、壱兎とは違う学部の相川弘夢<あいかわ ひろむ>だった。壱兎と弘夢はすぐに仲良くなるが、弘夢のアルファフェロモンの影響で壱兎に発情期が来てしまう。そこから壱兎のオメガ性との向き合い、弘夢との関係への向き合いが始まるーー。
☆BLです。全年齢対応作品です☆
捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~
水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。
死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!?
「こんなところで寝られるか!」
極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く!
ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。
すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……?
「……貴様、私を堕落させる気か」
(※いいえ、ただ快適に寝たいだけです)
殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。
捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!
過労死転生した悪役令息Ωは、冷徹な隣国皇帝陛下の運命の番でした~婚約破棄と断罪からのざまぁ、そして始まる激甘な溺愛生活~
水凪しおん
BL
過労死した平凡な会社員が目を覚ますと、そこは愛読していたBL小説の世界。よりにもよって、義理の家族に虐げられ、最後は婚約者に断罪される「悪役令息」リオンに転生してしまった!
「出来損ないのΩ」と罵られ、食事もろくに与えられない絶望的な日々。破滅フラグしかない運命に抗うため、前世の知識を頼りに生き延びる決意をするリオン。
そんな彼の前に現れたのは、隣国から訪れた「冷徹皇帝」カイゼル。誰もが恐れる圧倒的カリスマを持つ彼に、なぜかリオンは助けられてしまう。カイゼルに触れられた瞬間、走る甘い痺れ。それは、αとΩを引き合わせる「運命の番」の兆しだった。
「お前がいいんだ、リオン」――まっすぐな求婚、惜しみない溺愛。
孤独だった悪役令息が、運命の番である皇帝に見出され、破滅の運命を覆していく。巧妙な罠、仕組まれた断罪劇、そして華麗なるざまぁ。絶望の淵から始まる、極上の逆転シンデレラストーリー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる