31 / 142
31.眩しい
しおりを挟むとりあえず下に落とされていたシャツに袖を通して、パンツだけという格好からは脱却してから、オレは瑛士さんを見つめた。すごくわくわくした顔で、オレの言葉を待ってる、ような気がする。
「えっと、ですね……ある意味、宝物かも、なんですけど」
「ん」
「……瑛士さんの筋肉が理想的すぎて、びっくりしてました」
「――」
オレの頬にふにふにと悪戯に触れたままだった瑛士さんと、ゆうに数秒、見つめ合った後。瑛士さんは、ぷは、と笑い出した。頬から手が離れて、ちょっとほっとする。緊張するから、あんまり触らないでほしかったりする。
「なに、理想的って」
めちゃくちゃ笑ってて、涙目になりながら、そんな風に聞かれる。
「あの……鍛えすぎて固すぎるとかじゃなくて、なんか……すごく綺麗で。筋トレするなら、瑛士さんを目指したらいいんじゃないかなって……」
「ぷぷ。ありがと」
まだめちゃくちゃ笑いながら、ぽふ、とオレの頭に手を置いて、ぐりぐり撫でてくる。しばらくして、そっかー、と言いながら、オレの肩にポン、と手を置く。
「凛太はちょっと細すぎるかも。節約してるって言ってたよね」
「まあ、そうですね」
うんうん頷くと、瑛士さんは、んー、と考えた素振りで。
「食費として別に渡すから、それ使い切る感じで食べて。まずもう少し太った方がいいよ」
「……まあ、確かにオレ、標準体重割ってて、教授たちにも、痩せすぎも健康に悪いって言われてて……うーん。でもどうしても一人だとぱぱっと」
「おにぎり?」
「はい――あ。そうだ、それより瑛士さん、あの。オレって昨日、どうやってここに来たか知ってますか?」
「ああ、うん。知ってる」
瑛士さんはおかしそうに瞳を細めて微笑む。
「何がどうなったか、聞いてもいいですか? そっちが気になって」
「ん。いいよ」
クスクス笑って、瑛士さんが話し始める。
「昨日、オレ、凛太に連絡したでしょ。今家? って」
「……はい。あ、まだ外って送りましたよね」
「そう。でね、少しして、オレ、電話したんだよ。学校なら迎えに行こうかと思って。ご飯食べたか聞きたかったし」
学校までわざわざ迎えに? ……ご飯も?
聞きたいことはあったけど、先が知りたくて、飲み込んだ。
「そしたら、竜くんて子が電話に出て――凛太は今寝てるんですがって。瑛士さんてお名前だけは聞いてるので出ました、っていう訳」
「はい……」
「飲んで寝ちゃったんで、もし、良かったら、迎えに来てもらえませんかって。場所聞いたら近かったし、寝ちゃったなら車出して迎えにいこうと思って、行くよって答えたらさ。出来たら、適度にオシャレしてきて下さい。スーツとかがいいかも、て言われて」
「……?」
竜……??
「よく分からなかったけど、まあオレ仕事帰りでスーツだったし、ちょっと小物に気合いれてオシャレして行ったんだよね」
「……なんかすみません」
良く分からないけど、お手間かけて、と思ってそう言うと、瑛士さんはクスクス笑って「行って良かったよ」と笑う。
……行って良かった? どういう意味なのか、いまいち分からない会話が続く。
「店の人に、中にいるのでって言って探してたら、少し騒がしい団体が居てさ。そこかなと思って近づいたらさ。声が聞こえてきて――」
「はい……?」
「Ωなんて信じられない、とか。αと結婚? まあαにもピンキリあるよなーとか。マジでΩなのかな? 今まで一回も何も感じてない、あいつ、別にそんな学校休んでないよな。ヒートとかもない? あぁ、欠陥品なのかもな。そんなのと結婚するαなんていんの? みたいな――なんかすっごいムカつく感じの会話が聞こえてきて。まあ多分、凛太が発表したんだろうなって思ったんだけど。ちょっと許せなくなったので」
「……許せなく?」
ああ、αがピンキリとか言われてるし…キリじゃないもんね。ピンの方のトップだもんね。うんうん、そりゃそうだ、許せないよね、あそこに居る程度のαたちに、知らないとはいえ……と、めちゃくちゃ納得しかけたところで。むぅ、と瑛士さんが眉を寄せて、口を膨らませた。
「だって、オレの可愛い凛太、欠陥品とか。許せないでしょ」
「――」
オレのって。可愛い凛太って。
……オレ、まあまあ自分でも、「欠陥品」なんだろうなという認識あるし、まあそれで楽だったっていうのがあるから、気にしないし。全然良いんだけど。
それを聞いた瑛士さんが。
……オレのことの方で、許せないとか、言ってくれると。
――なんか、瑛士さんて、眩しいなぁ。と、改めて、思ったりする。
2,313
あなたにおすすめの小説
のほほんオメガは、同期アルファの執着に気付いていませんでした
こたま
BL
オメガの品川拓海(しながわ たくみ)は、現在祖母宅で祖母と飼い猫とのほほんと暮らしている社会人のオメガだ。雇用機会均等法以来門戸の開かれたオメガ枠で某企業に就職している。同期のアルファで営業の高輪響矢(たかなわ きょうや)とは彼の営業サポートとして共に働いている。同期社会人同士のオメガバース、ハッピーエンドです。両片想い、後両想い。攻の愛が重めです。
学内一のイケメンアルファとグループワークで一緒になったら溺愛されて嫁認定されました
こたま
BL
大学生の大野夏樹(なつき)は無自覚可愛い系オメガである。最近流行りのアクティブラーニング型講義でランダムに組まされたグループワーク。学内一のイケメンで優良物件と有名なアルファの金沢颯介(そうすけ)と一緒のグループになったら…。アルファ×オメガの溺愛BLです。
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
橘若頭と怖がり姫
真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。
その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。
高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる