116 / 138
115.忘れないかも
しおりを挟むふ、と、目が覚めた。
オレは、毛布に包まれてて、ぐっすり眠っていたみたい。
随分、ヒートの熱、楽になってる気がする。
ぼんやり思い起こしてみて、数々の記憶に、顔が一気に熱くなった。
……っオレってば。
なんだかもうめちゃくちゃ、乱れて、恥ずかしいこと言って、甘えて、しまった。
「…………っっ」
枕に埋まって、それを抱き締めながらオレは、ふ、と息をついた。
瑛士さんて。
……いつも爽やかで、落ち着いてて、でもなんだか楽しそうに、いつも優しく笑って、とにかく、大人な感じだと、思ってた。
今も、思ってる、けど……。
「……」
瑛士さんの、余裕のない顔。なんか、すごく……。
すごくなんだろう。すごく。
……やらしい……??
考えた瞬間、ぼぼぼぼ、と顔に火が付いたみたいに熱くなった。
ううううう。しぬ……。顔って、こんなに熱くなるのか。
なんかもう……瑛士さんの顔、まともに見られるかな……。
思ったその時。小さいノックとともに、ドアが開く音。びく、と体が震えたけど、そのまま、ぴたっと固まったまま動けない。
少しして、ぎし、とベッドが軋んだ。瑛士さんが腰かけたのだと思う。
ふわ、と後頭部に触れる、優しい感触。
「凛太……?」
静かに呼ばれて――ふ、と顔を動かして、瑛士さんを振り返る。
顔の熱、引いたかな……。ドキドキしながら見あげると、服の前ははだけたままの、綺麗な上半身がまず目に入って――それから、優しく微笑んでくれてる瑛士さんが見えた。
「気分はどう?」
「……今、は平気です……」
「良かった。じゃあご飯、食べよ?」
「……はい」
頷いて、のそのそと起き上がる。
裸の肩に、バスローブが掛けられた。
「パジャマとシーツは洗うから。シャワー浴びておいで?」
「……はい」
思ったよりずっと、瑛士さんは普通で……というか、完全にいつも通りの瑛士さんだ。
そっか。……慣れてる人は、こんな感じなのか。
オレが気にしすぎなのか。
そうだよな。それに、あれは、ヒートを助けてくれただけで。人助けみたいなもの、だもんね。
掛けてくれたバスローブの前をしめて、のそのそと、ベッドの端に近づく。脚を降ろして、立ち上がると――なんだか力が入らなくて、よろけた。
「っと……」
とっさに手を出してくれた瑛士さんの腕に、ぽす、と埋まる。
「あ。すみませ――」
とっさに見上げると、至近距離に瑛士さんの顔。自然と見つめ合ったその時。瑛士さんは、少し引いた。
あれ? と思った瞬間。瑛士さんが、苦笑して言った。
「……なんか、照れるね」
オレは、そんな瑛士さんを、瑛士さんの腕の中から、じっと見上げる。
――そうなんだ。 照れる、んだ。瑛士さんも。
そっか。
ふふ、と微笑んでしまうと、瑛士さんも目を細める。
「……瑛士さん」
「ん?」
「……オレ、瑛士さんと会えて、良かったです」
え、と瑛士さんの口が動いて、びっくりした顔になってしまったけれど。
「会ってちょっとしか経ってないけど、すごく好きです」
「――――」
「ありがとうございます」
ふ、と笑って見せて、オレはよいしょ、と瑛士さんの腕の中から起き上がった。
「あ、だ、いじょうぶ?」
「はい。平気そうです。シャワー浴びてきますねっ」
「ぁ、うん……あ、っと。 あ、ご飯、作って待ってる、から」
「ありがとうございます、いってきまーす」
オレは、急いで出てこようと思って、バスルームへと急いだ。
バスタオルと下着を用意してから、シャワーのコックをひねった。
気づくと、体に、あちこち赤い跡が見える。
……これはもしかして。
キスマーク……というものだろうか。
また顔が熱くて、そこから視線をそらして、顔にシャワーを浴びる。
オレの体に、こんなものがつく日がくるとは、思わなかったな。
……相手が、あんなに素敵な人だなんて、正直なところ、ほんと不思議。
というか、オレがあんなことするなんて思わなかったもんな。キスだって、しないと思ってた。
瑛士さんは大人で、ああいうことも慣れてて。オレとしたことなんて、数ある中の一回で……しかもあれは、ほぼ人助けみたいなくくりなのだろうし。多分、忘れちゃうのかなーと思うけど。
なんかオレは、一生忘れないかも。
良い想い出。
(2025/7/18)
2,131
あなたにおすすめの小説
学内一のイケメンアルファとグループワークで一緒になったら溺愛されて嫁認定されました
こたま
BL
大学生の大野夏樹(なつき)は無自覚可愛い系オメガである。最近流行りのアクティブラーニング型講義でランダムに組まされたグループワーク。学内一のイケメンで優良物件と有名なアルファの金沢颯介(そうすけ)と一緒のグループになったら…。アルファ×オメガの溺愛BLです。
のほほんオメガは、同期アルファの執着に気付いていませんでした
こたま
BL
オメガの品川拓海(しながわ たくみ)は、現在祖母宅で祖母と飼い猫とのほほんと暮らしている社会人のオメガだ。雇用機会均等法以来門戸の開かれたオメガ枠で某企業に就職している。同期のアルファで営業の高輪響矢(たかなわ きょうや)とは彼の営業サポートとして共に働いている。同期社会人同士のオメガバース、ハッピーエンドです。両片想い、後両想い。攻の愛が重めです。
親友が虎視眈々と僕を囲い込む準備をしていた
こたま
BL
西井朔空(さく)は24歳。IT企業で社会人生活を送っていた。朔空には、高校時代の親友で今も交流のある鹿島絢斗(あやと)がいる。大学時代に起業して財を成したイケメンである。賃貸マンションの配管故障のため部屋が水浸しになり使えなくなった日、絢斗に助けを求めると…美形×平凡と思っている美人の社会人ハッピーエンドBLです。
若頭の溺愛は、今日も平常運転です
なの
BL
『ヤクザの恋は重すぎて甘すぎる』続編!
過保護すぎる若頭・鷹臣との同棲生活にツッコミが追いつかない毎日を送る幼なじみの相良悠真。
ホットミルクに外出禁止、舎弟たちのニヤニヤ見守り付き(?)ラブコメ生活はいつだって騒がしく、でもどこかあったかい。
だけどそんな日常の中で、鷹臣の覚悟に触れ、悠真は気づく。
……俺も、ちゃんと応えたい。
笑って泣けて、めいっぱい甘い!
騒がしくて幸せすぎる、ヤクザとツッコミ男子の結婚一直線ラブストーリー!
※前作『ヤクザの恋は重すぎて甘すぎる』を読んでからの方が、より深く楽しめます。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
氷の支配者と偽りのベータ。過労で倒れたら冷徹上司(銀狼)に拾われ、極上の溺愛生活が始まりました。
水凪しおん
BL
オメガであることを隠し、メガバンクで身を粉にして働く、水瀬湊。
※この作品には、性的描写の表現が含まれています。18歳未満の方の閲覧はご遠慮ください。
過労と理不尽な扱いで、心身ともに限界を迎えた夜、彼を救ったのは、冷徹で知られる超エリートα、橘蓮だった。
「君はもう、頑張らなくていい」
――それは、運命の番との出会い。
圧倒的な庇護と、独占欲に戸惑いながらも、湊の凍てついた心は、次第に溶かされていく。
理不尽な会社への華麗なる逆転劇と、極上に甘いオメガバース・オフィスラブ!
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる