【恋なんかじゃない】~恋をしらなかった超モテの攻めくんが、受けくんを溺愛して可愛がるお話。

星井 悠里

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◇出逢い

「Ankhメンバーと」*玲央

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 唇を重ねて。
 何度か、触れて、離して。角度を変えてキスする。

 そうしても、優月が嫌がってないことを確認してから。
 舌を入れて、絡めた。そのまま上顎を舐めると、びく、と震えて。

「……っん、ぁ……」

 声が、漏れた。
 今度は息ができないというよりも、たぶん、気持ちいいから漏れる声。


「……っん、ん……」

 少し離して、息をさせてから、また重ねる。
 小さく、漏れる声が――――……なんだか本当に……。


 キスすればするほど――――……とろんとしていくその瞳と、気持ちいいのを持て余してるみたいな表情が、何だかすごく可愛く見えて。
 
 目の下にある、小さなほくろ――――……なんか、エロい。


 キスが初めてというのには、驚いたけれど。

 素直に、受け止めてくれるからなのか――――……
 慣れていないのは分かってるけど、反応は、悪くない。

 いちいち、ぴくぴく反応するのが、新鮮。


「ん……っ……」

 キスしながらも、時間がヤバいのは分かっていた。
 仕方なく、ゆっくりキスを離したら、涙で潤んだ瞳が薄く開いて。

「――――……」

 離したくなくて、もう一度、押し付けるみたいに、キスをした。


 なんか、オレ――――…… 

 ……こいつに、もっとキスして。 
 触って。――――……抱いてみたい、気がする。


「優月……」
「……?」

「月曜何限まで?」
「……えと……5限……」

「オレと寝てみる気になったら、月曜の5限の後ここに来て。初めてだろうから、考えて決めろよ。 それで無理なら来なくていいけど――――……」
「――――……」
 

「……優月?」

 まっすぐ、見つめて。
 名を呼んで、頬に触れた。


「来いよな。すっげえ優しくしてやるから」


 最後にそう言って。

 絶対来いよ、の意味を込めて、
 ちゅ、と頬にキスしてから、オレは優月を離した。


「じゃな」


 後ろ髪を引かれるなんて、なかなか無いけれど。
 許されるなら、練習はバックレて、いまこの勢いで口説いて、二人きりになりたいけれど。

 キスも初めてだった奴を、いきなり連れ込むのには気が引けて。 

 月曜までなら、考える時間も、あるし。
 覚悟してから来てくれた方がいい。



 男は無理、と言っていたから。
 無理なら、仕方ない。


 来なくても、仕方ないけど。



 ――――……出来たら月曜。
 ここで、会えたら良い。


 
 何だか強く、そう思ってしまった。




 優月と別れてバンドの練習場所に辿り着き、遅刻を責められながらも、一通り練習を終えた。一旦休憩という事になったので、ソファに腰かけた。



 オレがメインボーカル&ギター。 小村甲斐こむら かいがサブボーカルとギター、和泉勇紀いずみ ゆうきがベース、里見颯也さとみ そうやがキーボードとドラムを曲によって弾き分ける。



 最初は中学の学園祭用の遊びで始めたバンドなので、何もかもが適当で始まった。



 バンド名は「アンク」=「Ankh」

 古代エジプトで「生命」とか「生きること」として使われた言葉。

 甲斐とバンドを組もうと言い出した時に、ネットから適当にいくつかの単語を引っ張ってきた中から、安易に名付けた。



 残りのメンバーの人選は任せたら、甲斐が、勇紀と颯也を選んだ。



 選んだ理由は至って明確。

 ルックスと、一緒にやりやすいかと、あとは普段から人気がある奴。

 楽器はある程度できればあとは練習すればいい位で、技術は後回しにして選んだ結果、学園祭で終わらず、今まで続いてる。



 幼稚園からのエスカレーターで大学まで来てるので、良くも悪くも、気心知りすぎたメンバー。



「なあ、玲央なんで遅刻したんだ?」


 向かい合ったソファに座りながら、甲斐がそう聞いてきた。


「んー。まあ、車で送られて着いた時はもうギリギリだったっつーか」


 ついついだるくてベンチに座ったけど、あのまま来ればたいして遅刻はしなかったかも。……その後、優月に会ったから、完全に遅刻した。


 とは言っても、時間にしてみれば、ほんの短い、出会い。


「でも学校に居たんだろ? 何してた訳?」

「んー……」


「なんでそんなご機嫌な訳? 気持ち悪ぃんだけど。新しいセフレが良かったとか??」


 甲斐は性関係については、オレと似たような所があって、自由が一番て奴なので、そこらへん、話してても楽。



「甲斐に遅刻責められてんのに、ご機嫌だし。変だよなー」


 突っ込んできて笑ってるのは、勇紀。

 勇紀は、セフレとかではなく1人の女と一応ちゃんと付き合うのだけれど長続きせず、振ったり振られたり、忙しい奴。色んな事に気付く奴なのに、恋愛となると、チャラくて軽いから、としか言いようがない。



「ほんと。歌ってても機嫌良いのすげー分かるし。 気持ち悪い」


 眉を顰めて言ってくるのは、颯也。

 この中では常識人。イケメンではあるけど、チャラくはなくて、1人の子と高校からずっと付き合ってる。玲央と甲斐のセフレ関係に、たまに苦言を呈してくるのは颯也。たまに……というか、割といつも毒舌。


「ほんとほんと。玲央、気持ち悪い」


 勇紀が、颯也の言葉に乗っかって、そう言ってくる。



「……オレそんな、機嫌良いか?」



 首を傾げながら聞くと、3人が真顔で頷いてくる。



「だから皆言ってんじゃん、気持ち悪ぃって」



 甲斐のセリフに、思わず眉が寄る。



「ほっとけっつーの……」


 そんなにか?

 まあ確かに、なんかちょっと、優月の顔が浮かんでは、いるけれど。


 機嫌良い、ねえ……。


「20分も遅刻しといて、ご機嫌で現れたんだから、理由位言えよなー」


 しつこく突っ込んでくる勇紀をちら、と見て。


「んー……なんか面白いのに会った、かな」


 そう言うと。3人が、ん?と一斉に見てくる。



「面白いのって?」

「なになに?」

「新しい女?」


 颯也、勇紀、甲斐の順番で、次々聞かれる。



 なんとも言えない。

 なんとなく、キスして。
 でもものすごく中途半端なとこで、別れてきて。

 ……月曜、とは伝えたけど、約束した訳でもなくて。


「…いや。特に話すような事は、ねえな」



 3人とも、それぞれ何だか怪訝そうな顔で、こっちを見てくる。



「つーか、今更何隠すことあんだよ?」



 甲斐のセリフに、苦笑い。



 ――――…まあそうなんだけど。


 思いながら、何となくまた、優月を思い返す。



 まあ確かに。隠す事なんか、何もねえけど。

 でもさっきのは――――……今迄の出会いの中でもかなり珍しいし。



 いまいち、何と言っていいか分からない。

 ――――……月曜、優月が来なかったら、そのまま終わるし。



「なんか面白いのに会ったけど、会っただけだから、話す事もねえっつーか……」



「面白いのって、女?」

「いや。男」



「ふうん。……てか、お前、昨日だってお泊りだろ?」

「そーだけど」



「んで、ガッコ来てすぐ、誰かひっかけたって事?」

「んー…… まだそんなに話すような事も無えし」



 勇紀に聞かれるまま答えていたけれど、そこで立ち上がる。



「続きしようぜ」



 水のペットボトルを置いて、そう言うと。

 もうオレに話す気はないと判断したらしい3人も、すぐに立ち上がった。





「あ、玲央、今日あの部屋貸して」

「あぁ」



 甲斐に言われて、鞄からキーを外して、ぽん、と投げた。



「今日明日は使わねーから」

「サンキュー」

「出る時、いつものクリーニング電話しといて」

「了解」



 あの部屋、というのは、オレが住居用とは別に使ってるマンションの事。大学から徒歩五分の所にある。



 親父にバンドや仲間と集まる場所が欲しいと伝えたら、すぐに購入して鍵を寄こしてきた。バンドでと伝えたから防音の部屋もあって、完璧。

 メンバー全員で集まって曲を作ったりもする事もあれば、セフレとラブホ代わりとして使う事もある。親が普段から頼んでるハウスクリーニングに電話すれば、勝手に掃除しにきてくれるし、便利なので、甲斐や勇紀にはたまに貸したりもする。


 持つべきは、超金持ちの、放任主義の両親。

 愛情が無い訳ではないらしいが、多忙すぎて、両親共に長く一緒に過ごしたりは出来ない分、欲しいと望んだ物は大抵与えてくれる。

 幼い頃は寂しい時期もあったかもしれないがもはや覚えていないし、今となっては、余計な干渉がないのが物凄く、楽。たまに連絡がきたり、急に会いに来たりはあるけれど、それくらいがちょうどいい。


「今日借りて、泊まらないで帰ると思うから」

「好きにしろよ。使わねーから」

「んー。サンキュー」


 2人の会話を何となく黙って聞いていた颯也が、ふと、ため息をついた。



「―――玲央さあ……あんまり変なのと絡むなよ」


 不意に颯也がそう言った。



「え?何だよ、急に」

 マイクを手に、振り返ると。



「さっきの面白いの、とかもさ。どんな奴かしらねーけど……お前の事好きな奴って、ほんと激しいのが多いっつーかさ。 今迄だって色々あったろ」



「まあ――――……恋人作るのやめてからは、そんなに無えよ?」

「あったじゃねーか、その部屋に盗聴器しかけられてたり。他にも色々あったろ」

「……ああ。そういえば……」



 記憶に残したくなくて、忘れていた。



「セフレにあんま優しくしすぎんなよな」

「……なにそれ、ひどくしろっつーの?」


「ひどくっつーか……ある程度割り切って、体だけにしとけよ」

「……んー」



「……つか、セフレ自体やめろって、オレはずっと言ってるけど」



 颯也は言いながら、オレと甲斐に視線を流す。



「とばっちりが来た……」

 甲斐が苦笑いを浮かべる。



「でも玲央は特にさー、付き合った子達皆やばくなってくからね。なんでなんだろ?」



 勇紀が、かわいそー玲央、とため息をついてる。



「トラウマんなるよね、オレ、脇で見てるだけで、トラウマんなりそうだったもんな……」



 オレは、思い出したくないものは振り切って、マイクをオンにした。



「……もう、始めよーぜ」




 オレが言った事で、その会話は終了。

 ――――……練習を再開した。










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