【恋なんかじゃない】~恋をしらなかった超モテの攻めくんが、受けくんを溺愛して可愛がるお話。

星井 悠里

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◇出逢い

「興味深い」*玲央

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 ぽけ、とした顔で、ひたすら見上げてくる瞳に。
 何か言わないといけない気がして。


「……悪い――――……なんかあんまり無邪気に猫と戯れてるから」
「……え?」


「……感じたらどーなんのかなって、すっげえ、興味が湧いて……」

 ……つい、思った通りに口にしたら。
 びっくりした顔で、じっと見つめてくる。


「……そんな顔、すんだな……」

 キスした時の顔は――――……もっと、乱したいと、思う位。

 ふ、と笑って、その頬に触れてみる。
 さっきも思ったけど――――……なんか、柔らかい。


「なあ――――……オレと寝てみない?」


 もっと触れてみたい。

 じ、とまっすぐな瞳を見つめ返す。
 たぶん、寝る、という単語を理解した瞬間に、また赤くなって。

 ただ一生懸命見上げてくるのが、何だか。


 ――――……なんだか……すごく……。


「正直、好みのタイプじゃねえんだけど……」
「……っ」

 思わず言ってしまった言葉に、なんかものすごく複雑そうな顔をしてる。

 素直……。
 ――――……なんか、ものすごく、素直。


「キスしてそんな顔されると……すげえ興味ある」


 まっすぐすぎるその瞳に笑ってしまいながら、その頬に触れる。何をしても、ただひたすらに、見上げてくるその瞳から、何だか目が離せない。


 また、ふ、と笑ってしまう。


「……何で、お前、何も言わねえの?」

 表情は色々変わるから、きっと何かすごく思ってるんだろうけど。

 言葉には何も出てこないので、そう聞いてみた。すると。


「――――……びっくり、して」

 掠れた声で、それだけ、呟く。

 びっくりしすぎて、何も言えないのか、と思うと。
 何だかすごく優しい気分になって、その顔を、見つめていると。


「……い、いつも……こんなこと、してるの?」

 急にそんな質問。

「ん? こんなことって?」
「会って、ちょっとで、こんなこと……」

 会ってちょっとで――――……。

 まあ、正直しなくもないな。
 会う場所がクラブとかなら。で、お互い同意なら、あるけど。


 ただ、こんなところで、望んでもない、こんな普通の男相手には……。

 ……間違いなく、しない。
 

「んー……こんな所で、こんな風にはしたことねーな。完全に合意の、してほしそうな奴にしかしないんだけど……」

「……っ――――……じゃ、なんで、オレに……」


 そう聞かれると。もう、答えは、一つしかない。


「……悪い。ほんとに、わかんねえ。 すっげえ興味が湧いたとしか……
 びっくりさせて、ごめんな」


 興味が湧いた。

 キスしたらどうなるのか。感じたら、どう乱れるのか。
 あとは――――……何だかこいつ自身というのか……。

 とにかく、何にしても、「興味」。

 そっと、またその頬に触れる。すり、とわざとくすぐったいように触れると、思い通りの反応。体が小さく震えた。


 ――――…感じやすそう。
 もっと、触ってみたい。

「……なあ、どうする?」
「……どうするって?」

「――――……オレと寝てみる?」
「――――……」

 びっくりした顔。
 その後、視線を少し彷徨わせて、色々考えてるらしいので、待っていると。


「……会ったばっかり……だし」

 そう言われた。

 ――――……なるほど…そうだよな。
 そういうことするまでに、時間を費やしたいタイプだよな。
 ……まあ完全に、そうだろうと分かるけど……。


「――――……こういうのってさ、感覚だから、したいかどうかなんてすぐ分かると思うけど。 無理な奴はどんなに会ったって、無理」


 そう言うと、特に反論はないのか、黙ってしまった。


「お前は? ――――……オレ、無理?」


 ――――……無理じゃないって、言えよ。

 そんな風に思いながら、その瞳をまっすぐに見つめた。



「……オレはもっと触りたいんだけど」



 その頬から首に、す、と触れた。

 ぴく、と反応して。 それからすぐに、また赤くなって。



「……オレそもそも、男……」


 そう言われたけれど。


「全然問題ないけど」


 すぐにそう返した。すると。


「オレ……無理だと……思う」


 すごく、間を開けながら、そう言う。


 ――――…まあ。
 男が無理っつーなら、無理か……。

 無理強いしても、そこはしょうがねえな……。


 残念。すげえ、抱いてみたかったのに。


 思いながらも、そっと、触れていた手を離した。



「――――……無理なら仕方ないな」



 もう少し――――…… 笑顔を、見たかった気がした。

 気持ちよさそうな顔も、させてみたかった。



 手を、離した瞬間。


 なんでなのか――――……ものすごい、喪失感。



 なんでだ? こんな、出会ったばかりの、男に対して。

 いまいち自分の感情が、良く分からない。




 それでも、こんなところで、しつこくする訳にはいかない。




「キスしてごめんな。忘れて」




 そう言って、もう、離れてしまおうとした。 

 側に居ると、触れたくなりそうで。



 そいつから視線を外して、歩き出して離れようとした瞬間。



「――――……待っ、て……」



 手を、掴まれた。



「――――……なに?」



 手を掴まれたまま、振り返ると。

 何だか一生懸命な顔。その瞳を見つめ返す。



「……オレ」

「―――……?」



「オレ、あんたと……一緒に――――……居たい、かも……」

「……は?」



 その言葉に、少し驚く。



 オレと。

 一緒に居たい。 かも?



 ――――……一緒に居たいって。



 寝れるか聞いたけど――――……。

 一緒に居たいっていう返事が、返ってきた。





「……なに? 一緒に居たいって」

「――――……わかん、ない」



「……キスが、良かった?とか?」



 思いつくまま聞いてみると、小さく首を振る。



「ていうか、忘れてって……そんな簡単に、忘れられないし……」

「――――……?」



「キス、忘れろって、言われても、無理……」

「……良くて??」



 忘れられないって、なんで? 

 不思議に思って、そう聞くと。



「だって……キス、初めてだった、し……」

「え」

「――――……」



 衝撃発言に、固まる。





「……ファーストキスだったのか?」

「……うん」


「え、ほんとに?」


 驚いて、確認で聞いてると。 恥ずかしそうに、赤くなる。


「……マジか……」

 と呟いてしまう。


 居るのか、大学2年にもなって、キスが初めての男なんて。

 ――――……別に顔が悪い訳でもねえし、なんで?



 ていうか。

 ファーストキスを奪ったオレと、一緒に居たいって。



 なんなんだろう。


「――――……んーと。……それで?」

「……え?」



「……一緒に居たいっていうのは、なに?」



 そう聞くと、また困ったように黙る。

 その顔を見ていたら、もう一度確認したくて。





「……ていうかお前、ほんとにキス初めてだったの?」

「……うん」



 まあ……こんな嘘はつかないだろうけど。



 ……この年でファーストキス、まだだった奴に……。

 抵抗なかったとは言え、戸惑う間もほとんど与えずキスしてしまった。



 ……まずったな。


 さすがに少し反省していたら。

 急に、クスっと笑われて。



「――――……? なに?」


 このタイミングで、なんで、笑う?

 そう聞いたら。


「……ちょっと、悪かったと、思ってる?」

「――――……まあ」



 そう答えると、そいつは、何だかすごく、穏やかに、柔らかく、ふふ、と微笑んだ。



「……お前、名前、なに?」

「……優月ゆづき。優しいに月って書く」


「優月、か。――――……オレ、玲央でいいよ」

「れお……」

 唱えるみたいに、オレの名前を口にしてる優月を、じっと見つめる。



「……なあ、優月」

「……?」


 見上げてきた優月に。


「――――……もっかい、キスする?」

「……?」


「……ファーストキス。ちゃんとやりなおす?」

「――――……」



 してしまったものは、もうどうにもできない。


 けど、嫌じゃないなら。

 ちゃんとキス、しなおすのもありかなと思って、聞いてみた。


 優月は、じ、とオレの顔を見つめていたけれど。

 不意に、ふ、と、瞳が緩んで、くすっと笑う。



 なんかオレ――――……。

 こいつの、この笑い方。

 なんか……もっと見ていたい、かも――――……。



「……別に、いい。やり直さなくて」

「ん?」

「……やじゃなかったから、殴んなかったし」

「――――……嫌だったら、殴ったの?」

「……当たり前じゃん」



 ――――……意外。 嫌だったなら、殴ったんだ。

 そう思うと、思わず笑ってしまった。


「――――……じゃ、やり直さなくていっか」

「うん……でも」

「……でも?」


「……玲央とキスは……したい気がする」

「――――……ふうん?」


 キスしたい、なんて。

 言うんだ。



 さっきのが、初めてだった奴が。

 ふーん……。面白い。



 なんか、ますます。

 ――――……興味深い、というか。 


 何なんだろう、これは。


 見つめてると、優月は何も答えず、じっと見つめてくるだけで。



「……オレとしたいの、キスだけ?」



 そう聞くと、優月は、瞬きを繰り返して。

 かあっと、また赤くなる。


 肌が白いから、赤くなると――――……目立つ。



 と、その時。

 急にポケットのスマホが震えた。



 あ。やべ。

 そうだ。練習遅刻しそうだからって、車で送ってもらったんだから。

 もう完全に遅刻だ。



 無視する訳にもいかず、スマホを見ると、案の定、バンドのメンバーから。



「もしもし――――……」

「玲央、いまどこだよ、15分遅刻だよ!」

「……ああ、つか、もう着いてんだけど……ちょっと途中で……」

「いーから早く来て」

「……分かった、今から行くって」



 それだけ言うと、電話を切る。

 じっと見つめてくる優月に、視線を向けて。



「バンド仲間から呼び出し。練習だから、行かねえと……」

「あ……うん」



 なんか色々話がつくまで、ここに居たかったけど。





「……優月。キスしても、いい?」



 ぐい、と引き寄せて、返答を待っていると。

 息を飲んだみたいに、優月は黙って。





 それから、しばらくして、うん、と頷いた。





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