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◇2人の関係
「強敵かも」*優月
しおりを挟む「で? セフレなら良いって言われたって事か?」
まだ少し笑いながら、蒼くんは、聞いてくる。オレはむくれた。
「……別に言われては、ないけど」
「……ん? ちょっと待って。なら、お前の希望でセフレんなったの?」
「希望っていうか……」
何て言えば良いんだろう。
どこからどうやって話そう……。
「はっきりしねえな? お前がセフレになってくれって頼んだのか?」
「うーん……」
「何、全然分かんねえな。はっきり言えよ」
やっと笑いを納めて、蒼くんがまっすぐオレを見つめてくる。
「……その人、恋人は重くてやなんだって。で、すごくモテる人だから、セフレがいっぱい居るの」
「……はあ……」
「オレ、その人の側に居たいから……セフレにしてもらえるか聞いたの」
「――――……はあ」
「……そういう事、なんだけど」
ちょっと眉を寄せて、蒼くんは黙ってる。
「……なかなか凄い話だな??」
「――――……」
「……オレ、セフレっつーのは居ない。誰とも付き合ってねえ時にエッチした事はあるけど。つか、それはいっぱいあるけど。でもそれは、相性よければ付き合ってもいいと思ってたし。付き合ってない奴と、何回もってのは、無いから、セフレってやつは、居た事ない」
あれ。意外。
……めっちゃ居るかと思ってた。
そう思って、でも言わずに蒼くんを見ていると。
「お前、オレはセフレいっぱい居そうだとか思ってるだろ」
「……っそ、そんな事……」
――――……蒼くんはたまにエスパーみたいだ。
「ふざけてんな、お前……」
「ご。ごめん……」
「……まあいいけど。――――……つか、すげえな、セフレがいっぱいいる女とか、あんま聞かねえぞ。つか、居てもいーけど、それをまわりに公言する女って、何。何でそんな女と、お前がそーなんの? あ、すげえ年上とか?」
次から次へと質問されてる間に、オレは、かなり大事な部分をまだ伝えてない事に気付いた。
「あ」
「え?」
「……あの」
「あ? 何だよ?」
「…………」
女じゃなくて、男、なんだけど。
……てか、オレ、これを最初に伝えてないってどーなの……。
バカだ、オレ。
最初に、言うべきだった……。
すごい、言いにくい。
「優月?」
「――――……あのね、蒼くん……すごく、落ちついて、聞いてね?」
「……つか、お前の口からセフレとか出た時点で、もう落ち着いてねえけどな。ヤバいっつの。お前、変な女に騙されてんじゃねえだろうな。金とか取られてないか?」
「――――……お願いだから落ち着いてください……」
「……」
思わず敬語で言ったオレに、蒼くんはため息をついて。
立ち上がって自分の鞄の所に行き、中から水のペットボトルを取り出した。
「――――……ふー……」
水を飲んで、長く息を吐いて。
そのペットボトルを持ったまま、再びオレの隣に腰かけた。
「……ん。何?」
「――――……あのね、相手なんだけど」
「ん」
「……女の人じゃない、んだ」
「――――…………」
マジマジと、真正面から見つめられる。
それはそれは、長い間。
沈黙、耐えられないレベルだけれど、絶対聞こえてるからこその、この沈黙なので、それ以上は何も言わず、蒼くんの言葉を待つ。
「……男って事?」
低い、声。
「――――……」
頷くのが怖いけれど、蒼くんの目を見ながら、頷いた。すると。
「……お前、男対象だっけ?」
「……初めて、そう思った」
「……好きなのか?」
「うん。好きだから……側に居たくて」
「んー――――……イケメン?」
「……うん。すごい、カッコいいと思う」
「オレより?」
「……」
頷きにくいけど。
うん、と頷くと。
「……そんな奴いる?」
ってすごい自信だな。
ぷ、と笑ってしまう。
「男、ねえ……」
また少し沈黙。
「……優月、飯行くぞ。詳しく話せ」
「え」
「拒否権なし。行くぞ」
立ち上がって手早くオレの画材を片付けてしまうと、さっさと歩いていき、入口で部屋の電気に手をかけてる。
「消すぞ、早く来い」
「待ってよ、蒼くん」
オレ、絵が終わったら、怜央に電話……。
……無理だ。
今、蒼くんの前で電話なんてしたら、きっと電話取られて、玲央と話し出しそうだ……後にしよ。
「車出すから早く来い」
「うん」
先生には孫みたいに。蒼くんには弟みたいに。
ずっと、可愛がってもらいながら、絵を続けてきた。
家族みたいな縁を切りたくないのもあって。もしかしたら、この教室でなければ、2人が居なければ、絵を習い続けはしなかったかもしれない。
先生も、蒼くんも、信頼してるし、大好き。
だけど。
「つか、なんか、納得いかねえ事になってるよな。よーく、話し合おうぜ、優月」
運転しながら、なんか、不敵に笑う蒼くんは、怖い……。
美咲よりも強敵かもしれない。
でも、それよりなにより、とりあえず、玲央に電話したい……。
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