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◇週末の色々
◇ライブハウス入り*玲央
しおりを挟むライブハウス入りして、スタッフや関係者に挨拶を済ませた。
楽屋に一度戻って、ステージに呼ばれるのを待っていると。
こんこん、とノックの音。
顔をのぞかせたのは、見慣れた顔。
「こんにちは~」
「お疲れ~ 音合わせはまだ?」
「あ、お疲れ様です」
皆が口々に挨拶をする相手は、甲斐の親戚2人。
小原 美奈子と、佐山 里沙。姉と妹で、それぞれレコード会社の社長。
美奈子はかなり大きな音楽会社を運営している。契約すれば、メジャーデビューが可能。里沙の会社と今は契約していて、インディーズでのデビューは去年果たした。
まだ売れてない実力があるバンドを探してきて、インディーズでデビューさせるのは里沙で、その中でも売れそうなのを美奈子が引き継いで、全国に向けて売り出す。お互い得意分野を生かしてて、このシステムはすごくうまくいっているように見える。
ちなみに、甲斐の母親の由美は、この2人の姉で、楽器の販売やイベントホールの運営をしてる会社の社長。姉妹3人、学生時代にはまったバンドへの愛からそのまま、今の仕事に繋がってるらしい。まあ、親の元手があるから始められる仕事だろうけど。ここまで長い事続いてるのだから、それぞれ手腕は文句なし。仕事熱は半端ない。
「玲央、今日も良い男ねー」
「ほんとほんと」
「美奈子さんも里沙さんも、いつもめっちゃキレイですよ」
ふ、と笑って返すと。
当たり前ー、なんて言って笑う。
年は、甲斐の母の年からざっと考えても、多分40は過ぎてると思うのだけれど。年齢不詳。めちゃくちゃ若い。
2人とも、名前で呼ぶように言われている。
「ね、メジャーデビューする気になった?」
会うといつも聞かれる。
答えはいつも同じだけど。
「もう少し考えます」
「またそれ?」
分かってるからか、美奈子は苦笑いするだけ。
「あたし的には、Ankhには今のまま、うちに居てもらった方が、稼げるんだけどね」
里沙が笑う。
甲斐を可愛がって関わってきた彼女たちの会社なので、おそらくデビューしても割と自由にやらせてくれるとは思うが。
オレを含めて、メンバー全員、音楽だけでやっていくとは決めかねている。
「まあその内ちゃんと考えて。 でも曲だけは作っといてね。どっちにしても、アルバム作ったりはしたいから」
「はい」
毎回聞かれはするけれど、しつこくないのも、楽でいいとこ。
「そーだ、美奈子さん、里沙さん、玲央がいま恋してるんですよ」
勇紀が面白そうにウキウキしながら、2人に言う。
えっ、と揃って振り返られる。
「ほんと? ついに?」
「どんな子??」
余計なこと言うなよ、と勇紀を睨む。
「反対されそうなんでしばらく黙っとこうと思ったのに」
「え、何で反対するのあたしたち?」
「しないわよ、玲央と甲斐が超適当に遊んでたって、否定してないじゃない」
美奈子と里沙が呆れたように言う。
「……相手、男ですけど」
「え。それ、本気で?」
「流行りのBL?」
瞬間的に色めき立った2人に、密かに、どん引きするメンバーとオレ。
「……別に流行ってるからじゃないですけど」
この反応って、むしろ喜んでる気がするけど、この人達、ほんと、おかしいな。
「なんか、タイのBLドラマをたまたま見ちゃったら、ハマっちゃって。ね、姉さん」
「そうなのよ、里沙に薦められて軽い気持ちで見ちゃったら……」
…………ああ。
なんかこの、ゆるーい、そこら辺の感覚。
……甲斐の親戚って感じ。
ちらっと甲斐に視線を流すと、甲斐も少し眉を顰めて、叔母達を観察していた。
「その子、今日見に来るの?」
「ちょっと用事があって、遅れて来ますけど」
「わー、楽しみー玲央のお眼鏡にかなう子でしょ~ すっごい美人さんかなー」
「来たら教えなさいよね。今日一番楽しみかも……」
もはやノリについていけない。仮にも売り出そうっていうバンドのボーカルが、男と恋してるとか。……いいのか??と思うのだけれど。聞くまでもなく、気にしてなさそうだ。 楽でいいけれど……本当についていけない。
勇紀が辛うじてついていってて、その子が来たら、出入り口から、ライトをステージに向けて光らす、なんて説明をしてるので、完全に任せる事にして、口を出さないでいると。
コンコン、とノックがされて、ライブハウスのスタッフが顔を出した。
「Ankhの皆さん、音合わせとリハ、お願いしまーす!」
皆それぞれ返事をして、出る準備。
ステージに向かった。
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