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◇週末の色々

「優月との電話」*玲央

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「確かに玲央、遅刻どころか、めっちゃ早いよな」

 ――――……確かに朝が早くて、不健康から一転、超健康的に過ごしてる事は、自分でも分かっているんだけれど
 そんなに楽しそうに見られるのもどうかと思うが。

 勇紀は、心底楽しそうにオレを見て、続ける。

「昨日優月、可愛かったな。やっぱさ、オレ、優月が赤くなるとか今まで見た事なかったと思うんだけど。玲央絡みだと、すぐ真っ赤んなるよね」
「よっぽどお前の存在と、セリフと行動が恥ずかしいんだな」

 クスクス笑う勇紀と甲斐。

 どんな言われようだ……。


「あれ、でも他の奴とでも赤くなるんだっけ? 何か玲央、言ってたよな?」
「……ああ、あれ、結局全部オレ絡みだった」

「あ、そうなの? はは。 ほんと可愛いー、優月」
「――――とりあえず優月の話は終わり。飲み物頼めよ」

 オレが無理に話を切ってそう言うと。
 颯也と勇紀がメニューも見ずに「ブラック」「カフェオレ」と言いながら、店員を呼ぶボタンを押した。すぐに来た店員に注文を済ませる。

「とりあえず、曲順は昨日話してたこれでいいか? ここらへんで、優月が来ると思うけど、正確には分かんねえから、そこらへんは臨機応変で頼まねえと……」

 言いながら、進行表を三人の方に向ける。

「うん。いんじゃない?」
「良いと思うけど。 誰か変えたい?」

 颯也の言葉に皆、首を振る。これで、曲目、曲順は決定。

「あとはMC。……たまには颯也と甲斐も喋れば? 盛り上がるんじゃねえのか?」

「オレはいーよ。玲央と勇紀が喋ってりゃ十分」
「オレもいー」

 颯也と甲斐が嫌そうに言う。

「オレ居なくても 玲央がちょっと喋ればいいと思うけど」
 と勇紀。

「玲央から一言聞ければ、皆、満足なんじゃないの?」

 甲斐もすべて押し付けようとしてくる。思わず苦笑。
 
「つか、オレも好きじゃねーし。勇紀が一番向いてるだろーが」
「好きじゃなくても、玲央が喋るのが一番盛り上がるんだから、頑張れよー。
オレは良いけどさ、オレ1人喋ったってしょーがないでしょ。リーダーでボーカルなの、玲央なんだから」

 一通り押し付け合った後。

「……だからオレら、喋りが極端に少ないとか、言われるんだよな」
「そもそもオレらのライブに、それ楽しみには来てないと思うんだけど……まあ、全くしゃべんない訳にもいかないしねー。所々、曲紹介くらいしようよ、ちゃんと」

 甲斐が言って、勇紀がそれに続けて。
 ふ、と何秒か黙った後、皆で顔を見合わせて苦笑い。

「まあ……頑張ろ」

 勇紀が笑いながらオレに言う。肘をついたまま、頷く。
 その時、甲斐がスマホを見て、「あ、搬入は終わったって」と笑んだ。

「設置も今からするって」
「サンキュー甲斐。そか――――…… どーする、早めに食べとく?」
「そーだな。リハ終えたら、軽く食べるし。今食べちゃおう。もーこの店でいいよね?」
「ああ」

 勇紀の言葉に、テーブルの隅のメニューを真ん中に置いた。


「あ、オレサンドイッチにしよ。卵サンドうまそう」

 勇紀の言葉に、昨日ほくほく卵サンドを食べてた優月の顔を思い出した。
 その瞬間、勇紀に見咎められて、顔を覗き込まれる。

「何? 玲央」
「……何って何だよ?」

「玲央もサンドイッチにするの?」
「いや。昨日食べたし」

「じゃあなんでそんな嬉しそうなの」
「――――……別に」

 嬉しそうになんて、していただろうか。
 そっけなく返すが、勇紀は楽しそう。

「……ああ。昨日カフェ行ってたもんね。優月と食べたのか。何、優月が好きなの?」

 クスクス笑う勇紀。
 
 ……ほんと、お前、エスパーかよ。 
 何も言わず。じろ、と視線を流すと。

「――――……玲央、なんか、ほんと分かりやすくなっちゃって。 オレ、めっちゃ楽しい……」

 あははー、と笑う勇紀と、残り二人の笑った顔に、眉を顰める。

 無視するに限る。


「――――……」

 ――――……昨日のとこれと、どっちがうまいんだろ。
 昨日の、すげえ幸せそうに食ってたもんな。
 
 今度美味いとこ探して連れてってやろ。

 なんて考えていることは、読み取られないように。
 勇紀から視線を逸らしてメニューに、目を向けた。

 その瞬間。
 ぴこん、と優月からメッセージ。

『今話せる? 無理ならスルーしてね』

 スマホをもって立ち上がり、「電話してくる。これ頼んどいて」とメニューを指さす。

「優月?」
「ああ、そう」

 甲斐の言葉に頷いて、そのまま、優月を呼び出しながら店の外に出る。

『あ、玲央?』
「優月……」

 なんか。和む。声。

「どうかしたのか? どうだ、そっちの仕事」
『ぁ、うん。今んとこ問題なくやってる。今オレ休憩なんだけど、玲央、今話してて平気?』
「オレも今から昼頼もうとしてたから。大丈夫」

『ごめんね、忙しいのに。 あのね、もしかしたら、割と早く行けるかも。個展は二十時までで、ほんとはもう少し残ってやる事もあるんだけど、一緒に受付してる人がね、夕方以降空いてたら一人でも良いって言ってくれて』
「ん」

『明日その人も少し早く帰りたいらしくて、お互いそうしたいねって事になって、蒼くんもオッケイくれたの。着くの二十時過ぎかなーと思ってたんだけど、その前に行けるかもしれない。あ、でもまあ、空いてたら、なんだけど……』

「明日もその仕事あるのか?」
『うん、個展自体は五日間あるの。土日は手伝う事になってるから』

 ――――……二日あるとは聞いてなかった。

「……優月、今夜、どこで寝る?」
『え。あ、考えてなかった……ていうか、今日は玲央、打ち上げで遅いでしょ? オレ打ち上げに行ったとしても、そんなに長くは居ないから、家帰ろうかなって思ってる。明日もここ来なきゃだし』
「……そうか」

『蒼くんが、打ち上げついてくる気満々でいてくれてるから、とりあえず、ライブ終わったら外に出て、蒼くんと一緒に入ればいい?』
「あぁ、いいよ」

『とりあえず用はこれだけ……なんだけど……』
「ん?」

『……玲央?』
「ん?」

『オレ、すっごい楽しみで。――――……見たら泣いちゃうかも』
「――――……」

『もうさ、練習だけでも、カッコいいのめちゃくちゃ分かってるからさ。ヤバそう。すっごい号泣してても、スルーしてね』
「――――……」

 何だそれ。もう――――……可愛いな……。


「優月」
『うん?』

「オレ、今日は、お前に見せるために歌うから」
『――――……』

「今までそんな風に思ってライブしたことねえけど。今日は、そうするから』
『――――……余計泣いちゃいそうなんだけど……』

 優月のセリフに、ふ、と笑ってしまう。

『あ。オレ、そろそろ食べて戻らないと……』
「ん。じゃあ優月、後でな」


『うん。玲央――――……頑張ってね、死ぬほど楽しみにして行くから』
「ああ」

 優月が最後に、ゆっくりそう言うので、頷くと、電話が切れた。


 ――――……何で優月、こんなに、可愛いかな。 
 あー。 キスしたい……。


 ふ、と息を付いて、浮つきすぎた気持ちを抑えてから。
 店に戻った。




 ――――……ライブハウス入りまで、あと三時間。



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