【恋なんかじゃない】~恋をしらなかった超モテの攻めくんが、受けくんを溺愛して可愛がるお話。

星井 悠里

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◇週末の色々

◇非現実的な空間*優月

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 勇紀が玲央に近寄って、何かを囁いてる。
 そんな動作に、何だか下から、歓声が聞こえる。

 囁かれた玲央は、勇紀に苦笑いして見せて。
 その曲を歌い終え、音楽が止まると、玲央が片手を上げて、動きを止めた。


「――――……」

 数秒、玲央が動かないから、場内が、しん、と静まり返った。

 すごく、ドキドキする。
 カッコ良すぎ、玲央。


 ただ、片手を上げてるだけ。
 なのに。
 玲央を、そこに居る全員が見てるんだと思うと。

 ほんとにすごいなと、思って。
 

「――――……」


 玲央が静かに腕を下ろすと、ステージを照らしていた眩しいライトが消えて、青い光に包まれた。何かの、合図だったみたい。

 何の音も鳴らない、静かな中で、お客さんのざわめく声が次第に大きくなってく。


「…Stay、歌うのかな?」
「え、ほんと?」

 後ろの方で、聞こえた声。
 下の客席からも、ざわめく声。
 
 颯也のキーボードが、鳴り響いた。
 瞬間、ワッと沸く、客席。

 あ、昨日の曲だ。
 玲央が、覚えててって言った、曲。


 もしかして、お客さんて、この曲が滅多に歌われない曲って、もう、分かってるのかな。
 盛り上がりすぎてて、歓声がすごすぎて、曲が聞こえない。

 そう思った時、勇紀が、しー、と客席に向けて言った。
 途端、静かになる。


 こんなにたくさんの人が、一瞬にして静かになる。

 ――――……感動……。
 
 キーボードだけのイントロから、どんどん音が、重なっていって。

 玲央が、静かに、歌い出した。

 練習で聞いてた、他の曲とは、違う。
 ダントツで、静かな、曲。

 玲央の声だけが、すごく響く。
 ほんと、イイ声。上手い。

 静かだから余計。玲央の声が、まっすぐ耳に届く気がする。


 好きな人が居る。でも、多分、もうすぐ 別れがくる
 過去の楽しかったこと、後悔してること 思い返して
 別れるしかないって、お互いが思ってる
 でも、やっぱりこれからも一緒に居たいのに

 そんな内容の歌だった。

 そのまま一緒に居れるのか。
 やっぱり別れるのかは、分からないまま。

 切なさ全開で歌うから、きっと別れるしかないんだろうなと思うと、
 もう、胸が痛すぎて。

 好きだけど別れるとか、好きなのに諦めるとか。でもやっぱりこれからも一緒に居たいとか。そんな誰にでもある気持ちを歌ってるから、この曲、人気があるのかな……うー……。切ない……。


 玲央が、歌い終わって、またキーボードだけの演奏になって。
 静かに曲が終わって、数秒、静まり返る。その後。


 大歓声。


「――――……」

 なんか。
 ――――……玲央の声に、包まれてるみたいで。

 胸、痛くて。
 

 ステージ上の、皆が、玲央に何か言って、笑ってる。
 ふ、と笑った玲央が、不意にオレを見上げた。


 あんまりに呆然としてたオレは。
 玲央と見つめあって数秒。はっ、と我に返る。


 瞬きをした瞬間。
 目から何かが溢れ落ちて。

 え。
 気付いたら、ボロボロ、泣いてて。
 手の甲で咄嗟に頬を拭う。


 玲央が苦笑いしてるのが分かる。


「あー……――――……すげえ泣いてる奴が居るから……」

 マイクで、玲央がそう言うと、会場が笑いで湧いた。


 あ。この反応って、きっと、オレだけじゃないんだ、泣いてるの。

 ……そうだよね、玲央の歌が好きでここに来てたら。これは、絶対泣いちゃうよね。

 そうだそうだ、と納得しつつ。
 涙を拭いて、何とか前を向く。

 ああ、なんか、ちゃんと聞いた1曲目で、思いっきり泣いてしまった。


「次は明るい曲――――……jump!」
「一緒に歌って!」

 玲央の声に盛り上がった所に、勇紀が重ねて言うと、更に場が沸く。
 下の人達、音楽に合わせて、弾み出す。


 オレ、下に居たら、邪魔になったかも……。
 何となく、下じゃなくて良かった。

 密かに玲央に感謝しつつ。
 座ったまま、じっと玲央を見つめ続ける。


 ほんとに、
 ――――……キラキラ、してるなー……。

 人を「キラキラしてて眩しい」なんて思うの、玲央が初めて。
 心底、すっごく遠いところに立ってる気がする。

 
 本当にオレ、あの人と、毎日一緒に居るのかな?

 ……好きとか。可愛いとか。言ってくれてるのかな。
 …………なんか全部が、夢のような気がしてくる。



 でも、たまに流してくれる視線。
 歌いながら、視線が合うと、笑ってくれるのが、嬉しくて。


 笑ってくれる玲央は、いっつも触れてくれる玲央のまんまな気がして。
 

 すぐ涙が滲む瞳は、もう完全に涙腺がおかしくなってるし。
 胸はドキドキしっぱなしだし。


 ライブって、全体力奪われるんだなぁとか、思って。
 ……でもずっと座ってるけど、オレ。とか、ちょっと自分に突っ込みつっ。



 キラキラしてる4人と。
 盛り上がりまくりの場内とに圧倒されまくりながら。



 非現実的な空間に浮いてるみたいな時を、過ごした。



 



 
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