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◇週末の色々
◇嬉しい*優月
しおりを挟む「あ、玲央。ギターも、ドラムと一緒に運んでおいてやるから、楽屋に置いといて」
「あぁ。サンキュー」
甲斐の言葉に玲央が頷いてる。
そのまま、皆に別れを告げて、玲央と一緒に楽屋に寄った。
あんまり話さない玲央に、オレも何となく、余計な事は話さない。
玲央がちょっと待って、と、スマホを触ってる間。
少し考える。
なんか玲央、静かだなあ。
……蒼くん、さっき玲央に何て言ったんだろ?
蒼くんの事だからなあ。何言ったのか……ちょっと怖いけど。
だから静かなのかなあ、玲央……。
でも機嫌が悪い訳じゃなさそうだし、落ち込んでるとかでもなさそうだし。
「優月、いこ。――――……裏口から出るから、こっち来て」
「うん」
手首を優しく掴まれたまま、一緒に歩く。
裏口はライブハウスで働く人達の出入り口らしくて、警備員の前を挨拶をしながら通り過ぎた。
外に出てから、玲央が、オレに視線を向けながら、歩き始める。
「今ホテル取った。ルームサービスでご飯食べるんで良いか?」
「ホテル?」
「蒼さんがここら辺で泊まってゆっくり話せって。それでいい?」
「あ、うん」
歩きながら、隣の玲央を見上げる。
「ね、玲央」
「ん?」
「蒼くん、最後、何て?」
「――――……んー……蒼さんがキスしたと思った時の気持ち、優月に話せって」
「――――……」
「あと、明日の服は持ってくから、ゆっくり話してやれって」
「……なんか。ごめんね、蒼くん。過保護で」
そう言うと、玲央は、ぷ、と笑って、オレの頭を撫でる。
「過保護になる気持ちは分かるから、別に」
クスクス笑いながら、オレを見下ろす。
「可愛いもんな、優月」
すごく至近距離で、ふ、と瞳を細められて。
玲央の笑顔に、どきっとして。
顔、熱くなる。
ぷ、と笑った玲央に、頬に優しく触れられる。
「……早く行こうぜ、ホテル」
「ん」
なんか。
――――……玲央と並んで歩けるの、嬉しいな。
さっきまであんなに遠いところで、大勢の前で、歌ってて。
遠い世界の人、みたいだったけど。
打ち上げも、玲央は、色んな人に囲まれてて。
色んな人が玲央を好き、で。
そんな玲央が、
今は、オレの手を繋いで、歩いてくれている。
やっぱりちょっと不思議。
――――……でも、すっごく、嬉しい。
ふ、と1人で笑ってしまう。
「優月?」
「え?」
「何でそんな、嬉しそうに笑うンだよ」
「……え、嬉しそうだった?」
「――――……すごい嬉しそうだった」
玲央がクスクス笑う。
「オレ、今日ね。玲央とさ、ずーっと離れてたでしょ。朝からだし。ライブもだし。打ち上げも」
「ん」
「でさ、初めて会う人とも話したりしてさ、玲央との事、ずっと、考えてたんだけどね」
「ああ。それで?」
「後で、詳しく、話すけど――――…… オレは、玲央が大好きだなーて……もう、絶対好きだなって、思ったんだよ」
「――――……」
玲央が少し黙っちゃったけど、続けた。
「……少し迷ってたりもしてたんだけど――――……玲央が、居てくれる限り一緒に居るって、決めたの、オレ。」
言い終えた瞬間。
突然、ぎゅ、と抱き締められてしまった。
ライブハウスの裏口から出て、そのまま裏手の道を歩いていて、あんまり人は、居ない、とはいっても――――……。
「玲央……?」
「――――……優月」
きつく抱きしめられてしまっていて。
何とか玲央の顔を見ようとしたのだけれど。
さらに、ぎゅう、と抱き締められて。
後頭部、手で押さえられて、玲央の胸に、顔を押し付けられる。
「……っ??」
「あーもう……お前」
玲央が、くっ、と、笑ってる。
「……かわいーな、優月」
最後にもう一度、むぎゅ、と抱き締められて。
そっと離される。
見上げた玲央は。
――――……すごく、嬉しそうに笑ってくれてて。
だめだ、もう、オレほんとに、好き過ぎて。
胸がドキドキして、痛すぎて。
ただ見つめていると。
まっすぐ、見つめてくる瞳が柔らかく、笑んだ。
「――――……オレも後でちゃんと話す」
「……うん」
一応、頷いた。
そしたら、また、手を掴まれて。
引かれて、一緒に歩き始めた。
――――……なんか、でも。
もう、その笑顔見てるだけで。
話してくれなくても、良い気が、してしまう。
言葉、無くても。
なんかもう。大丈夫、な、気がする。
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