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◇「恋人」
「甘える?」*優月
しおりを挟む再び数人のお客さんが続いて、案内を済ませて、また一息。
「里村さん、少し休憩して、飲み物とか飲んだ方が良くないですか?」
「蒼が戻ってから――」
「大丈夫そうですよ、今なら」
ふ、と笑んで、里村さんを見上げると、里村さんはじっとオレを見下ろした。
「どんな子なのかなーと思ってたんだ、蒼が可愛がってるとかさ」
その、言い方だと……。
「……蒼くんが可愛がるって、不思議なんですか?」
「――ああ、不思議、だなあ」
くく、と、笑いながら言うので、オレも思わず苦笑い。
「……だってあいつそういうタイプじゃねーもん」
「どう聞いてるのか、分かんないんですけど」
おかしくなって、くす、と笑ってしまう。
「高校生から蒼くん、ずーっと変わんないので……ずっと世話焼きのお兄ちゃんですけど」
「世話焼きねー……」
「からかわれること、多いですけどね」
笑ってしまいながらそう言うと、里村さんは、ますます面白そうに笑う。
自動ドアが開いて、蒼くんがスマホを後ろポケットにしまいながら、戻って来た。
ふと、オレと里村さんを見てから、里村さんに視線を流す。
「晃、優月に絡むなよ」
「……絡んでねえし。な?」
ふ、と見下ろされて、うんうん、と頷いて蒼くんを見つめる。
「蒼くん、里村さんも、休憩してきて? 何かあったらすぐ電話するから」
「んー……行くか、晃」
「ああ」
「いってらっしゃい」
と、二人そのまま行くのかとおもいきや。
「晃、先行ってていいよ。――優月」
自動ドアが開いた所で、蒼くんが不意に戻ってきて。
「玲央は来てねえの?」
と言う。
「来てないよ」
「あれおかしーな。絶対ついてきてるんだと思ったのに」
……確かに来ようとしてくれてたけど。
「ああ。お前、断った?」
「――」
何で分かるんだ。
「何で? 甘えりゃ良かったのに」
「――だって、なんか、悪いし」
はは、と蒼くんが笑って、オレの髪をまたクシャクシャにする。
「バカだなーお前。 甘えた方が絶対喜ぶって」
「だから、髪グシャグシャにしないでよ、スーツなんだから」
髪を整えながら蒼くんをちょっと睨んでいると。
「遠慮しない方がいいぞ。あーいうタイプは、頼られた方が嬉しいから」
「え。……そうなの?」
「絶対そうだろ」
そうなんだ。
……えーでもなー……。
「やってくれるっていう事、全部受けてていいの?」
「イイと思うけど――何だ、玲央がついてきてるんだったら、うまい店、連れて行ってやろうと思ったのにな」
そんな言葉に、ふ、と笑ってしまう。
「先に言ってくれたら、玲央に言ったのに」
「だってオレ、あいつ絶対ついてくると思ってたから。来てなくて驚き」
クスクス笑われて、何回も断ったっけ、と思い出して苦笑い。
「また今度、誘って? 玲央に言っとくね」
「おう。じゃすぐ戻る。五分位」
「もうちょっと行ってて良いよ。混んだら、電話するから」
「ん」
今度こそ出て行く蒼くん。
自動ドアから出ながら、外側に立ってた里村さんに気付いて、「先行かなかったのか」とか言ってる。
二人が並んで歩いていくのを見送りながら、ふ、と息をついた。
……全部甘えるって。
かなり難しいけど。
いつもだけど。
蒼くんの言葉ってなんか説得力があるから、すごく迷う。
そうなのかなーて。
でもどうなんだろ。 これは分かんないなあ。
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