【恋なんかじゃない】~恋をしらなかった超モテの攻めくんが、受けくんを溺愛して可愛がるお話。

星井 悠里

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◇「周知」

「久先生」

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「玲央が迷惑かけてたら、今のうちに言っていいからね」

 希生さんが笑いながら言う。

「かけてねーし」
「ないですよ」

 玲央とオレの答えが、同時だった。
 ふ、と見つめ合って、笑ってしまう。

 久先生はがクスクス笑って。

「仲良さそうだから大丈夫だよ」

 そう、希生さんに言う。
 うんうん、とオレが頷いてると、希生さんも、クスッと笑う。


 ――――……なんか。玲央のおじいちゃんだと思うと。似てると思うと。
 もともとオシャレな人だなと思ってたけど。

 何倍もかっこよく見えてしまうのは何故……?
 なんて、自分に不思議になっていると。

「じーちゃん、蒼さんの作品、買ったの?」
「ああ」

「何買ったの?」
「青空の写真。部屋に飾る」
「青空の写真? ――――……オレが見てた写真かな?」

 玲央がそんな風に言いながら、オレを見つめてくる。

「青空の写真、そんなに何枚もはなかったよな?」
「うん……無かったかも」

 そうだ、見てたね、玲央。買わなかったけど。
 その写真を希生さんが買ってたら、すごいなあ……。

 何買ったんだろ。
 ワクワクしながら希生さんを見てると。

 希生さんは、オレと玲央を見て、ぷ、と笑う。


「……見たいのか?」
「ん」

 短く答えてる玲央の横で、オレも頷いていると。
 また希生さんが笑った。


「車にあるから取ってくる」
「じゃあ、その間にオレは、優月の絵を当ててる」

「何だそれ」

 クスクス笑いながら、希生さんが教室を出て行った。

「優月の絵を探すの?」

 久先生が笑いながら、玲央に言った時。


「あ。すみません。驚きすぎてちゃんと挨拶してなくて」
「ん?」

 玲央はまっすぐ、久先生に向き直った。

「神月玲央です。……蒼さんにも、お世話になってます」

 玲央がそう言うと、ふ、と久先生が笑った。

「やっぱり似てないかも」
「……え?」

「希生はそんな風には挨拶しなかった気がする。大人になるまで」

 クスクス笑って、久先生が、玲央を見つめる。


「玲央くんの方がしっかりしてるね」

 オレと玲央が顔を見合って、クス、と笑ってると。
 今度は久先生が玲央を見つめて口を開く。


「野矢久だよ。優月の先生だし、自称おじいちゃんでもあるけどね」
「うん。孫みたいに可愛がって貰った気がします」

 ふふ、と笑っていると。


「蒼とはどこで会ったの? あいつまだ優月の学校に行ったりしてる?」

 苦笑いの久先生。

 蒼くんが保護者みたいに、オレの学校の学園祭とかに来てたのを、久先生がからかってた過去が思い出されて、ちょっと笑ってしまいながら。


「学校じゃなくて――――……こないだ、玲央のライブの時に、一緒に2次会に行ってもらって、そこで会って……その翌日、玲央が個展も見に来てたし」

「玲央くんのライブ?」
「はい。玲央、バンドやって、て――――……」


 そこまで言って、あ。と気付いた。


 あ。
 待って。


 待って、ちょっと待って。


 こないだオレ。 
 ――――……大事な人の、ライブに行くって、言って……。
 蒼くん、オレの好きな人のだって……。


 全部繋げて考えたら、もう、バレバレ――――……?

 思わず言葉を切って、口を押えていると。


「優月?」

 玲央が少し首を傾げて、オレを見る。

「どした?」
「あ、の……」


 久先生に、絶対隠そうなんて思ってない。
 でもいまここには、玲央のおじいちゃんが居て。

 ……玲央は、家族には、しばらく言わない方がいいって言ってたし。
 時間を置いてからって。

 だから、希生さんに言うのはあんまり良くなくて――――……。

 オレがどうしよう、と思っていると。
 久先生はオレをまっすぐ見つめて。
 少し間が空いたけど。ふ、と笑った。


「ああ――――……そういえば言ってたね、蒼も個展の後に行くって。そこで会ったんだね?」

 言いながら、玲央に視線を移す。


「優月の事が大事でしょうがない、自称兄だから」
「知ってます」

 玲央の返事に、久先生が苦笑い。

「知られてるって、あいつはほんとに……」

 そう言いながらも、笑顔は優しい。


「玲央くん、探しておいで。優月の絵は――――……雰囲気で優月っぽい、と思うよ。同じ対象を描いても、人によって全然違うからね」
「はい。――――……優月、オレ、ちょっと一回りしてくる」

 玲央がオレに言って、離れて行く。


「あの――――……久先生」

 気づいた、かな……。
 さっき、間があったけど……気づいたからだったのかな……。

 なんて言ったらいいんだろう。
 希生さん、すぐ戻るだろうし。説明してる暇も……。


「優月」
「は……っはい!」

 何だか変に大きい声が出てしまった。
 久先生は、クスクス笑って。


「……蒼は、玲央くんを見に行った?」
「――――……」

 なんか、ものすごい間接的、だけど。


 そういう意味だって、分かって。


「……はい」

 頷いて、久先生がなんていうか、ドキドキしてると。


「蒼は、玲央くんを認めたの?」
「――――……」

 頷いたら。
 久先生は、ふ、と微笑んだ。


「あの優月大事すぎな蒼が、認めてるんなら――――……」
「――――……」

「良いんじゃない?」

 先生の視線は、あくまでめちゃくちゃ優しくて。


「まあ蒼は関係なく。優月が自分で選んだんだよね?」
「――――……」

「違うの?」
「……そう、です。オレが、自分で、どうしても……」

「じゃあ良いと思うよ。いつかそういう意味で、紹介して」


 ああ、もう。
 ――――……泣いちゃいそう。
 


「え。嘘でしょ……優月」

 ものすごい苦笑いの久先生が、近くの棚からティッシュを持ってくる。


 あ。
 泣いちゃいそう、じゃなくて、泣いてた。



「はい」


 めちゃくちゃ苦笑いされながら、ティッシュを差し出されて、それを受け取った所に。
 希生さんが帰ってきて、ドアが開いた。

 




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