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◇希生さんちへ
「つやつや」*優月
しおりを挟むデパートの駐車場で車を降りて、店内に続くエレベーターを待つ。
「地下直行で良いか? どこか寄りたいとこ、ある?」
玲央がオレにそう聞いて、ふと笑む。
「ううん。無いよ。お土産買いに行こ」
「ん」
なんとなく黙って、エレベーターの階数表示を見つめていると、後から来た女の子二人組が、ふと玲央に気づいた。気づいたっていうか、別に玲央を知ってる感じじゃなくて、うわーイケメンが居る、みたいな。一人が気づいて、一人にちょんちょん、と囁いた感じ。
オレも女の子たちと同じように、上の階数を見つめてる玲央をちょっと見上げる。
ふむ。……てか、すっごくすごくカッコいいよね。
見ちゃうの分かる……。
綺麗だし。カッコイイし。
なんか、一回見たら、目が離せないというか。
「ん?」
ふと気付いた玲央が、オレを見つめ返して、クスッと笑う。
……わー。なんか。外だと、服装もすごくカッコいいし、アクセサリーとかもつけてて、もうなんかモデルさんみたいなんだよね。めちゃくちゃカッコいい玲央が、オレをまっすぐに見つめて、そんな優しい顔で笑われてしまうと。
斜め後ろの方に居る女の子たちもきっとそれを見たのだと思う。ものすごく静かに、でも、すっごく盛り上がっているのが分かる。
でも、玲央は、全然そっちは見ない。全然気にしてないのか。気付いてるけど、いつものことだから無視してるのか。どっちなんだろ?
「優月は何が食べたい?」
「……ん? 何って?」
「和菓子は買うって決めたけど。優月は?」
「えー何だろ……考えてなかった。玲央は?」
「オレも別に……あ。プリンは買っていこうか」
「プリン?」
「こないだ実家に帰った時、食べなかっただろ」
「あ、そだね」
双子たちに置いてきた時のプリンかぁ。
……なんかそういうの、覚えててくれるのが、嬉しい。
頷きながら、開いたエレベーターに乗り込む。
中に居た人と、乗り込む人とで、少し奥に詰め込まれる。
なんとなくオレの腰のあたりに、玲央が触れてる。ちょっと支えるみたいに。
さっきの女の子たちは隣に立ってるけど、隣過ぎてさすがに玲央のことは見上げられないみたい。
「希生さんたち、プリン好きなの? 食べる?」
「ん、食べると思うよ。買ってこ」
クスッと笑って、玲央が頷く。
うーん。さっきも思ったけど。玲央って、家にいると、すぐ頬に触れてきて、キスしてきて、撫でたり、抱き締めてくれたり。テーブルとかも隣に座るし、すごくすごく、近い。声も。囁くみたいな声で、なんか甘い。
なんかこう。周りに他人が居るところで、離れて見る玲央は、すごく新鮮で。
少し余所行きの声、な気がする。ほんと、かっこい……。
世の中にこんなにカッコイイひと、他に居るかなあ?
ほとんどの階に止まるものだから、地下の階まで結構長くて、なんとなく黙ったままそんなことを考えていた。やっとついて、エレベーターを降りた。
「ねね、玲央」
「ん?」
「さっき途中まで乗ってた女の子たちが玲央を見てたの、知ってる?」
「いや?」
「……なるほど」
知らないんだ。ていうかもう自然とスルーなのかな。そういうば前もそうだったかも。
気づいて対応してたら大変そうだもんね。
「皆が玲央を見て、キラキラするの、すごい分かる」
「キラキラする?」
「うん、キラキラする。カッコイイ人見ると、潤うのかな?」
ふふ、と笑いながら、通路を歩き出す。
「何それ、初めて言われたな」
「潤うって??」
「ん」
「でも、ほんとにオレも潤ってる気がする。つやつやしてない? オレ」
「――――……ん、まあ、してる」
玲央のおかげだね、なんて言って笑ってると、玲央が「面白いな、優月」とクスクス笑いながら隣に並ぶ。
「優月」
「ん?」
内緒話みたいに寄ってくるから、耳を傾けると。
「性的に満たされてると、艶々するって」
「――――……!!」
瞬間的に真っ赤になって、玲央を見つめてしまう。
キラキラの瞳が、ふ、と細められて。
「……みたされてるかどうかは、また今度聞かせてもらお」
クスクス笑われて、もう、なんか、オレは真っ赤。玲央は可笑しそうにクスクス笑っている。
もーもーもー。
ぷんぷんと膨らみながら、玲央の後をついて、和菓子屋さんに入った。
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