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◇希生さんちへ
「弟みたいな」*side野矢蒼 3
しおりを挟む玲央の子供の頃の写真を見ていたら、ライブで会った奴らが居たり、オレも知ってる優月の幼馴染が、玲央の同級生だったり。
……というか、そもそも、優月に出来た彼氏が、父さんの親友の孫だったり。
あちこちで勝手に繋がってる感がすごい。
なんというのか――――……
縁というのか、運命、というのか。
自然とつながるものを、大事にしようと思っている。
無理をしなくても繋がる。
……または、無理をしても繋げたいと思う。
それを大事に生きていきたい。
仕事で、気に入った人しか撮らないとか、もちろん最初は煙たがられた。今でもきっと、生意気とか、思う奴もいるかもなとは思う。
撮ってしまえば良い写真が撮れるんだから、仕事として撮ればいいのに、と言われたこともある。それも、分からなくはない。実績には、なるし。
それをわりと貫いて生きてこれてるのは。優月のおかげ。だったりする。
優月が高校生くらいの時。受けたくない仕事をどうしてもと言われて、迷っていた時。
例によって、優月をからかいに教室に行って、一緒に絵を描いていた。
「蒼くん。チョコあげる」
不意に差し出された、金色の紙包み。
「……何で?」
「友達にもらったの。美味しいよ」
「オレ甘いもの、そんな好きじゃねーけど?」
「んー、でも疲れてる時はさ。いっこどうぞ」
いつもと違って、ほいほい、と押し付けてくる。
とりあえず受け取って、包みを開けて、チョコを口にする。
「……甘いな」
「チョコだからね」
クスクス笑う優月。
「……何でオレ、疲れてることになってんの?」
そう聞くと、え、と優月が首を傾げる。
「あ、なんとなく……」
言いながら、また、んー、と考えてからオレを見つめた。
「静かだから?」
「……オレいつもうるさくないだろ」
「うるさいとかじゃないけど……んー。なんとなく。いつもはもっと元気かなって」
「――――まあ。仕事のことで考え事はしてたかも」
「そっか。お仕事って、大変?」
「……そうだな。やりたいことだけしてる訳にもいかないしな」
そう言うと、優月はオレを見つめて、ふ、と笑った。
「蒼くんは、好きなことだけしてるのかと思ってた」
「……」
「前言ってたじゃん。好きなものしか描かないし撮らない、そんな仕事がしたいって」
「オレ、それ、お前に言ったっけ?」
思ってはいたけど。あまり人に言ったことはない筈。
「うん、ていうか、もう、すごい昔。オレが小学生とか。聞いたんだー、蒼くんは、絵を描く人になるの?って。その時、そういうこと、言ったの」
「――――」
……小学生の優月に、何を語ってんだ……。
と、昔の自分に呆れていると。
「あの時、蒼くん、かっこいいなーて思って。その後学校でさ、尊敬する人を書くところに、蒼くんって書いたんだよねーオレ。お母さんとかに、何で蒼くん?て聞かれて、蒼くんを知らない友達にも、蒼くんて誰?って聞かれてさ。説明いっぱいしたから、覚えてるんだけど」
ふふ、と優月が微笑む。
「お仕事だから色々あるよね……でもオレ、蒼くんの絵や写真、いっつもすごく好きだから……好きなもの、扱ってるからだと思ってるー」
のどかに、微笑みながら話す優月。
――――……オレは返事をしていないが、心の中は。なんだか雲が晴れていくような、急に青空が広がったような、そんな気分。
「当然」
「ん?」
オレの言葉に、優月がオレに視線を向ける。
「そうしてくに決まってる」
にや、と笑って見せると。
少し目を大きくしてから。ふふ、と嬉しそうに優月が笑った。
「ずーと応援してるからねー」
――――なんていう、優月とのやりとりに。
多大な後押しを得たとか。
優月には言ってないから、多分、知らない。
ピアノを弾いてる優月と玲央を、写真に撮りながら。
気に入ったものを撮るのは、ほんと楽しいと、実感する。
オレが、好きなものをえらんできたおかげで、オレは自分の作品に自信があって――――それで、客も、そういうところで求めてくる。断ったとしても、またいつか、みたいな相手も居て、今は結構、うまく回ってる。
これが 高校生の優月の、何気ない言葉のおかげ、とか。
まあ多分、一生言わねーな。
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