【やさしいケダモノ】-大好きな親友の告白を断れなくてOKしたら、溺愛されてほんとの恋になっていくお話-

星井 悠里

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第1章

「あれれ?」3

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 今更逃げる訳にも隠れる訳にもいかず、立ち尽くしていると。

「あれ。雅己?」
「――――……」

 きょとん、とした顔で見られて、言い訳も出来ずにただ啓介を見つめ返す。

「何? 迎え来てくれたん?」

 嬉しそうに笑って言う啓介に、オレは思わず思い切り首を横に振る。

「べ……別にそんなじゃ……」
「そーなん? じゃ何しとったん?」
「別に」

 ちょっと俯いたオレに、啓介はくす、と笑った。

「話、聞こえた?」
「う……わ、悪い」

「全部、ちゃんと聞こえた?」
「……うん」

「そか」

 啓介はふ、と息を付いて、だんだん後ろめたくなって俯いていったオレの顔をひょい、と覗き込んだ。


「誤解せえへんでな?」
「……?」


 誤解? 誤解て何を?
 ……ていうか、オレが立ち聞きしちゃって、気まずいって話なんだけど。

「前に寝た事ある子からたまに誘われんねん。別に付き合うてた訳でもないから、敢えて別れようなんて言うてへんし。向こうもその程度やから、あっちがその気になった時なんかな。けど誘い乗ってへんし、ちゃんと断っとるから、その内誘う奴も居なくなる思うし……」

「……だから?」

「んー、だから……オレが好きなん、お前だけやから。今でもオレがそーいうのいってるとか、そんなん思わんでな?」

 ……ああ。そういう意味か。
 ……だってオレ、昔のお前の事は知ってるから。誤解も何も。

 今、断ったって言うのは、ちゃんと目撃したし。
 誤解もなにも、ねえよな、うん。


「……分かった」

 何だか思わず素直に頷いてしまった。
 すると啓介は、ん? という顔をして、こちらを見下ろしてくる。

「どした? なんや大人しいんやない?」
「別に。んな事より、お前まだ昼食ってないじゃん。早く学食行こうぜ」

「ん、せやな。いこか」

 のんきな声を出して、啓介がオレより数歩先に歩き始めた。その後をついて歩きながら、オレは、思う。


 ……ほんと、変な奴。

 女子に誘われてんのに、わざわざ断って。
 絶対女子の方がいいだろうに、好きな奴居るなんて言って断って。

 ……そんで、オレの事誘うのかな、もしかして?
 でもそんなのって、変じゃねえ?

 絶対、普通、女子の方がいいだろ?



 ……ほんと。
 変な奴。




「あ、そういや雅己、今日は泊まりに来れないんやろ?」
「……え?」

 くるりと振り返ってオレを見た啓介を、ふと見上げた。
 そのオレの反応に、啓介は再度言った。

「泊まりに来れないかもて先週言うとったろ? それ言いに、今来たんやないの?」
「べ……別に……。用事ねえから、行ってやってもいいと思ったから」
 
 ……
 …………。 

 ……………あれ?

 思ってたセリフじゃねーぞ?

 自分で固まったオレに、啓介はきょとんとした。


「ん? 用事ないん?」

 うん。無い。……いやいやいや、でも、あるんだ。
 用事があるから、今日は泊まりにはいけないんだ。

 オレは、そう言いに、ここに来た……筈なのに。


「……お前がどーしても来て欲しいっていうなら、行ってやるけど」


 ……あれれ?

 またしても口をついて勝手に出た言葉に、オレはますます混乱する。
 瞬間、啓介の奴、プッと吹き出した。

 何で笑うんだとムッとしたオレに構わず、啓介はクックッと、肩を震わせてる。

「……来て欲しくないなら、別に行かないしっ」
「雅己雅己、来いや。オレ、めちゃめちゃお前の事、抱き締めたい」

「……っ蹴るからなっ」

 顔が一気に熱くなった。
 真っ赤になって叫んだオレに、啓介は一層可笑しそうに笑って、歩き出した。

 顔の熱を懸命に冷ましながら。オレも、啓介の後を渋々と歩き出した。


 ……オレ、ちょっとおかしい。

 ……おかしい。……ちょっと?


 いや、違う。ちょっとじゃない。
 絶対的に、おかしい。


 断るつもりだったよな オレ。

 用事があると嘘をついて、断りを入れる筈だった。

 ていうか、ほんとに誰かと用事、入れちゃえばよかったのに。
 そしたら嘘にもなんないし、怪しくもなく、断れるし。

 なのに、何で。
 何で、自分から。行ってやってもいいなんて、言っちまったんだろうか。

 啓介が、「来れないんやろ?」と言ってくれたのだから、頷きさえすれば良かったのに。


 ………。

 うう。

 分からない。


 マジで、自分が分からない。

 行ってしまったら、また、このケダモノに。
 ……どうされるかも、大体分かっているのに。



 オレは男で、啓介も男で、きっと本来は、こんな形は、おかしくて。


 ……ちくしょー。
 納得いかないし。もう。



「いい天気やなぁ~」


 ……いい天気だけど、オレはちっとも納得いかねーんだよ。


 いっつもいっつも、オレの中ぐるぐるにしやがって。
 お前が絡むと、もう最近、いっつもこう。
 意味わかんなくなって、ぐるぐる迷って。悩んで。

 ちくしょー!

 心の中で叫びながら。
 のんきに空を見上げて歩いている啓介の後ろ姿を、ちょっと睨み付けてしまう。

 けれどすぐにそんな力も失って、オレはため息を付いた。



 オレ、この先。
 ――――……どうなっていくんだろ。













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