【Stay with me】 -義理の弟と恋愛なんて、無理なのに-

星井 悠里

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◆Stay with me◆本編「大学生編」

「突然の再会」

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 鍵を開け、ドアを少し開いた瞬間。
 向こう側からドアをつかまれ、ぐい、と開かれてしまった。 


「……え……」

 当然ドアを掴んでいたままのオレはそれに引きずられるように体勢を崩した。咄嗟にやばい奴かと思い、身構えながら、その当人を見て――――……。

「――――……」

 完全に言葉を失った。


「……不用心すぎじゃねえ?」

 呆れたような口調で、オレを見下ろしてる、背の高い、男。

 聞き覚えのありすぎる、声。
 整った顔と、強い瞳。


「相手、確認せずに開けない方がいいよ」

 少し眉を寄せて、じっと、オレを見つめてくる。


「――――……じ……ん……?」

「うん。……なに? 弟の顔、忘れた?」


 ……忘れる訳がない。
 ――――……ただ、目の前の存在が信じられないだけ。  


「やっと、高校卒業した。大学、同じとこだから。オレもこっちに住む」

「――――……は?……」


 二年振りに会った弟は、背も伸びて、あの頃少し残っていた子供っぽい表情は完全に無くなっていて。

 ――――……びっくりする位。大人っぽい、良い男になっていた。


「彰がOKくれるなら、彰んとこに世話になることになってる」
「――――……って、え? ここ?」

「母さん達には黙っといてもらった。オレから、ちゃんと話すからって」
「――――……」

 ……それで、返事、無かったのか。 
 忘れたんじゃなくて、敢えて、返事してなかったんだな、仁の大学……。

 何考えてんだ、あの人たち……。
 事前に連絡しろよ……。

 心の中の言葉を、遠くに居る家族に向けて投げつけていると。
 仁は、まっすぐにオレを見つめた。


「色々話す前にさ、いっこだけ先に許してほしいんだけど」
「……なに……?」


「彰、て呼ぶのだけ、許して?」
「――――……」


 真剣な瞳に、射抜かれてるみたいで。
 拒否、なんて、出来なかった。

 正直、もう呼ばれ慣れてしまっていて。
 そこまでの拒否感も、なかった。


「……わかった」

「ありがと。――――……入っていい? ちゃんと話したい」
「――――……」


 頷いて。
 仁が入れるように、先に中に入る。


 仁はドアに鍵をかけて靴を脱ぐと、荷物をその場に置いた。


「……手、洗ってきなよ。……今、コーヒー……入れようとしてたから……」
「うん」

 洗面所の電気をつけて、オレは、先にキッチンに戻った。


 お湯は沸いていた。
 豆を挽いて、ぺーバーフィルターにうつして、お湯を落としていく。

 落ちていくコーヒーを見ながら、ただ瞬きを繰り返す。


 これ、さっきの夢の続きじゃないよな?


 ……仁、だよな?

 現実感が、全然ない。

 リビングに入ってきた仁は、部屋を軽く見渡した。

「部屋、キレイだね」
「……そんなに、物無いし。……座れば?」
「ん」

 言われるまま、リビングテーブルの椅子に仁が腰かけた。

 本当に、現実なのか、まだ悩む。
 ――――……二年間、声すら、聞かなかった、相手。

 あんなままに、別れてきて。

 そして、今ここに居る仁は、
 あの頃の仁とは、別人みたいだった。


「――――……」

 コーヒーを淹れ終える。

「砂糖とか入れる?」
「ブラックがいい」

 ……ブラックなんて、飲んでたっけ。
 思いながら、テーブルに、コーヒーを置いた。

「ありがと」

 そう言って、仁がコーヒーを一口飲んだ。
 テーブルをはさんで、斜めに腰かけて、オレもコーヒーを啜る。

「――――……」

 コーヒーを飲んで、なんだかすごく不思議な顔をしてる仁に気付く。

「苦い? 何か入れる?」
「……いい匂い、これ。 すげえうまいし」

「――――……」

 あ、美味しくて、そんな驚いたみたいな不思議そうな顔、したのか。
 なんだか、嬉しくて、ふ、と微笑んでしまう。

「一人暮らししてから、ちゃんと入れるようになったんだ」
「……ほんとに、うまいよ」

「……ありがと」

 うん。自分でも、割と美味しいと思うけど。
 この豆も、やっと好みの見つけたし。

 コーヒーを褒められて、少し和んだオレの表情に、仁はふ、と瞳を細めた。


「――――……彰、オレね」
「……」

 何を言われるのか、緊張して。
 仁を、まっすぐ見つめる。


「……オレ、学びたいこととか、自分の学力とかで、目標にしたのが同じ大学だった。それだけだから」
「――――……」

 それだけ。――――……他意はない、てことを、言いたいんだよな。きっと。

 まっすぐな凛とした瞳に、ん、と頷いた。

 
「……で、先に話したいのが――――……二年前のこと、なんだけど」
「――――……」

 いきなり、核心に触れた仁。
 あの頃なら、聞きたくなくて、うろたえたと思うけれど。


 落ち着いた声。
 落ち着いた、話し方。

 ……仁じゃないみたい。少なくとも、二年前の仁とは、全然違うように見える。だから、落ち着いて、その話を聞こうと思えた。

「……あの時は、本当に、ごめん」
「――――……」

「なんかオレ、彰を好きだって思い込んでて。彰が、抵抗しないでくれてるのをさ…… 彰もオレのこと好きなんじゃないかとか、思い切り勘違いして……勢いで色んなことして、言っちゃって――――……」

「――――……」

 「思い込んでて」「勢いで」「勘違い」

 仁が並べる言葉で、オレに伝えたい意図は、嫌というほど、伝わってきた。

 仁は、今、あの時のことを、
 全力で、すべて、否定したいんだ。

 なかったことにする訳じゃなくて、
 あの時のことは、全部「思い込んで」「勘違い」で、「勢いだった」と、そう言いたいんだ。




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