17 / 130
◆Stay with me◆本編「大学生編」
「罪悪感」
しおりを挟むあれからもうすぐ二年。一度も家には帰っていない。
仁からの連絡は一度も無かった。
父さん、母さんと和己からは、結構頻繁に連絡が来るので、仁がどうしてるかは、知ることができた。
仁は、オレが居なくなっても、特に問題ないみたいだった。
それどころか、できすぎな位に、色々頑張っていたらしい。
剣道の大会で優勝した。成績は抜群。生徒会長にもなった。
そんな話を家族から聞くたびに、離れて良かったんだと、思った。
もしかしたら、一緒に住んでいても、仁は大丈夫だったかもしれないけど。
――――……あの時は、離れることしか、考えられなかった。
仁が第一志望に合格した、と、こないだ母さんから連絡があった。
どこに受かったのか聞いたけど、返事がないまま。
返事を忘れてるに違いない。まあ母さんには、わりとよくあることだけど。
―――……やっぱり仁のあれは、思春期が引き起こした、謎の勘違いで、
もう、オレのことなんて忘れてるだろうは思うのだけど。
それでも、顔を見るのが、怖くて、帰れなかった。
こっちに出てきて、大学で知り合って、何だか妙にウマがあった亮也に、何度も迫られて誘われて。……試しに寝てみた。
――――……結果、男同士でも、普通にそういうことが出来るのは、分かった。
女の子を抱けるのは、もともと分かってた。 男は、抱けないけど、抱かれることなら出来るってことを知った。
そこまでの抵抗も、なかった。
女とする時と、男とする時。
攻める側になるか、受ける側になるか。
役目は違えど、することと言ったら、大して変わらない。
ただ、相手に触れて、快感を高めあうだけ。
――――……どちらの方が好きということもなかった。
どちらにしても、快感が過ぎた後に襲ってくるのは、
どうしようもない罪悪感。
罪悪感の度合いで言ったら、どっちも一緒で。
亮也に抱かれた後の方が、少し罪悪感は強いかも知れない。
――――……ここで、罪悪感なんて言葉が出てくること自体。
おかしいのは、自分でも、分かっているのだけれど。
別にその行為自体がいけないなんて思わない。
男への抵抗がそこまでなかった時点で、
もともとそういう性癖だったのかも、と思った。
気が乗れば、女の子は別に誰でも良かったけれど、男は今の所、亮也だけ。
他の男を見ても、そんな気には一切ならないし、そもそも男を抱く方になるのは無理そうなので自分から誘うこともない。
女の子とちょくちょく噂のあるオレに、声をかけてくる男は亮也以外は居なかった。
マンションについて、自分の部屋の鍵を開ける。
「――――……はー……」
中に入ると同時に、無意識にため息。
久しぶりに、何も言わない仁の夢を見てしまって、もう、気分が滅入ってどうしようもない。
「――――……」
起きてる時に、仁はどうしてるかな、と、思い出してしまうのは、
もう、いつものことなので、諦めているけれど。
夢に出てきたのは、久しぶりだった。
しかも、亮也と寝た後に。
亮也のベッドで。
――――……ほんと……最悪……。
そのまま、バスルームに入って、シャワーを浴びる。
「……またつけたな、亮也……」
首や胸元に、赤い痕。
明日は塾のバイトがあるから、絶対つけんなって、言ったのに……。
――――……シャツのボタン、上までしめとけば、見えないかな……。
まあ別に、キスマーク1個くらいで、相手が男だなんて思う奴はいないだろうし、良いのだけれど……。
でも、中学生を刺激するわけにもいかないしな。
バスルームから出て、髪を拭きながら、キッチンで水を飲む。
ぴこん、とスマホが音を立てた。亮也からだった。
「彰、家ついた?」
「うん。ついた。シャワー浴びたとこ」
「ごめん、またつけたかも、キスマーク」
「……ついてた」
「可愛くてついつけちゃうんだよねー。白くて目立つから」
「バカ」
何度かやりとりしていると、アホなメッセージに苦笑い。
亮也はバイ。女も男も、同じように愛せると言ってた。
付き合おうかとか、そんな話をされたこともあったけど、断った。
断ったのに、じゃあそれでもいいから、このままお前の近くに居たいんだけど、と言われて。――――……お互いが、したい時に、触れ合う関係になった。
亮也はちょっと軽いけど、良い奴。イケメンで清潔感もあるし、優しいから、最初から、嫌悪感とかそういうのも、無かった。
だからなのか、緩い感じで、なんとなく、続いてる。
「今度から、絶対見えないとこで」
そう入れたら、了解、という言葉と共に、ハートマークが飛んできた。
あほか、亮也……。
思った瞬間、また、ぴこん、と、受信音。
今度は、和己からだった。
「あき兄、元気?」
「うん。元気だよ。どした?」
少し間があって。
「その感じだとまだだね」
「まだって何が?」
聞いたけど、既読がついたまま、返事がない。
……なんだろ。
――――……コーヒー飲みたいな……。入れよ。
返事の来ないスマホをテーブルに置いて、キッチンに立つ。
まずお湯を沸かしてから、コーヒー豆とミル、ドリッパーとサーバーを用意して、カウンターに置いた瞬間。
ぴこん、とまたスマホが鳴った。 和己かなと、おもって、スマホを取りに行きかけた時。
ぴんぽーーん。
今度は、チャイムが鳴り響いた。
インターホンで はい、と返したけれど、答えない。
亮也なら急に訪ねてくるけど、さっき別れたばかりだし。
誰だろ――――……。
手を伸ばして、鍵に触れた。
68
あなたにおすすめの小説
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】
主任補佐として、ちゃんとせなあかん──
そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。
春のすこし手前、まだ肌寒い季節。
新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。
風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
本気になった幼なじみがメロすぎます!
文月あお
BL
同じマンションに住む年下の幼なじみ・玲央は、イケメンで、生意気だけど根はいいやつだし、とてもモテる。
俺は失恋するたびに「玲央みたいな男に生まれたかったなぁ」なんて思う。
いいなぁ玲央は。きっと俺より経験豊富なんだろうな――と、つい出来心で聞いてしまったんだ。
「やっぱ唇ってさ、やわらけーの?」
その軽率な質問が、俺と玲央の幼なじみライフを、まるっと変えてしまった。
「忘れないでよ、今日のこと」
「唯くんは俺の隣しかだめだから」
「なんで邪魔してたか、わかんねーの?」
俺と玲央は幼なじみで。男同士で。生まれたときからずっと一緒で。
俺の恋の相手は女の子のはずだし、玲央の恋の相手は、もっと素敵な人であるはずなのに。
「素数でも数えてなきゃ、俺はふつーにこうなんだよ、唯くんといたら」
そんな必死な顔で迫ってくんなよ……メロすぎんだろーが……!
【攻め】倉田玲央(高一)×【受け】五十嵐唯(高三)
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
「普通を探した彼の二年間の物語」
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい
日向汐
BL
過保護なかわいい系美形の後輩。
たまに見せる甘い言動が受けの心を揺する♡
そんなお話。
【攻め】
雨宮千冬(あめみや・ちふゆ)
大学1年。法学部。
淡いピンク髪、甘い顔立ちの砂糖系イケメン。
甘く切ないラブソングが人気の、歌い手「フユ」として匿名活動中。
【受け】
睦月伊織(むつき・いおり)
大学2年。工学部。
黒髪黒目の平凡大学生。ぶっきらぼうな口調と態度で、ちょっとずぼら。恋愛は初心。
陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。
陽七 葵
BL
主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。
しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。
蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。
だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。
そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。
そこから物語は始まるのだが——。
実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。
素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる