【Stay with me】 -義理の弟と恋愛なんて、無理なのに-

星井 悠里

文字の大きさ
23 / 130
◆Stay with me◆本編「大学生編」

「塾のバイト」



 塾は三階と四階のフロアのすべて。
 受付は三階。エレベーターから降りて、廊下の奥の扉を開ける。 

「おはようございます」

 挨拶しながら中に入ると、受付にいる斉藤さんに笑顔で返される。

「彰先生、今日もさわやかですねー」

 五十代位の、元気なおばちゃん。この塾が始まった時からずっと受付に居るらしく、もう、主のような方。
 嫌われたら終わりらしいが、幸いすごく好かれてて、毎度なんだかんだと話しかけられ、お菓子をもらい、息子のように可愛がられている。

 ……たまにどう返事していいか分からない時があるけれど。

「彰先生」
「あ、はい」

 一番奥の席にいる塾長の真鍋まなべ先生に呼ばれて、自分の机に鞄を置き、向かう。

「おはよう、彰先生」
「おはようございます」

「彰先生、今日の英語の授業なんだけど」
「はい」

「別の大きい教室の方で、真司しんじ先生の生徒さんたちも一緒に講義してもらってもいいですか?」
「……真司先生は……?」

「またさっき、欠勤の連絡が来て」
「またですか……体調不良ですか?」

 大学一年生の子で、去年の夏くらいからバイトに来ているのだけれど、今年に入ってから特に二月三月と、急な欠勤が増えてる。理由が頭痛や腹痛なので、真鍋先生も強くは言えないみたいなのだけれど。

「分かりました」

 答えると、真鍋先生は助かる、と笑った。
 人のよさそうな笑顔。なのだが、生徒に喝を入れる時等は結構怖い。

「彰先生、人気があるから、却って喜んでる子達も居て。もういっそ、先生のクラスにまとめちゃおうかと思ってる位で……」
「……良いですけど、人数が倍になると、小テストの採点が時間内で間に合わなくなるかもしれないですね……」
「そこは皆でフォローしながらじゃないと無理……かな?」
「でも皆さんそれぞれ忙しいですし……時間内に終わらないとまずいですよね。そこらへんだけクリアしてもらえたら、授業は構わないです」

 むしろ、ちょこちょこと任せられるくらいなら、完全に担当した方が、生徒たちにとっても良いに決まってる。

「とりあえず今日は小テストは……さゆり先生、採点手伝ってあげてもらえる?」

 呼ばれたさゆり先生。四月から大学三年。同じ年。

「分かりました、開始三十分後くらいに、彰先生の教室に行きます」
「はい。よろしくお願いします」

 そう言ったら、真鍋先生が違う方を向いた隙に小声で。

「だから今度ご飯食べにいこ?」

 ――――……いつもこう。
 ほんとよく、誘われる。

 同じ大学の女の子ならありだけど、バイト先の塾の同僚と個人的にそんな関係になりたくないので、いつもなんとか断っているのだけれど。
 押しが強い女の子なので、なんとか断っても、次また誘われる。

 まあ多分、真剣に好かれているというよりは、なんとなく好みだと片っ端から声をかけていくようなタイプに見えるけど。
 だからといって、やっぱり断るのは、疲れる。

 と、その時。

 ちょうどよく、予鈴が鳴った。


「先生方、お願いします」


 真鍋先生の声で、皆一斉に動き出した。 
 

◇ ◇ ◇ ◇


 進学塾なので遠方からもやってくる。結構な人数の生徒の講義を行う。
 塾長の真鍋先生+社員は五人。あとは、上位の大学生のバイトで成り立ってる。

 もともと指導用のマニュアルが出来ていて、社員が指導の仕方を教えてくれるので、講義は、人前でマイクで話すのが苦手でなければ、割と誰でもできる。
 あとは質問が出た時に、答えられるかどうか。
 まあ、受験を無事クリアした大学生で、得意教科ならほぼ問題ない。

 あとは、話し方、生徒との関わり方。
 好かれるか嫌われるかで、生徒のやる気も変わる、シビアな世界な気がする。

 真司先生、さぼってばかりだと――――…… 生徒から呆れられちゃうからなあ。あんまりよくないと思うんだけど……。やめるつもりなのかな。

 倍に増えた生徒たちが問題を解いてるのを眺めつつ、今日の小テストの丸付けをしていく。こんこん、とノックがされて、さゆり先生が現れた。


「彰先生、やりますよ」
「ありがとうございます」

 中に入ってきて、近くの席に座って、丸付けをしてくれる。
 こういう所ではさすがに変な誘いもないので、安心しつつ。


 昼――――……何たべたいかなあ、仁。

 ふ、と仁の顔が浮かんで。
 朝パンだったから…… 何が良いかな。

 前のままなら、ハンバーグだの唐揚げだの、そういうのが好きだったけど。もうそんな子供っぽいものじゃないのかな。


 あ。
 ……授業中、丸付け中だった。

 気を取り直して、集中しようと試みる。

  
 ……仁、今何してるのかな。
 片付け、任せて来ちゃったしな……。

 
 ……あ。 

 ……つか、ほんと。集中しろ。

 自分を戒めながら。 
 マイクを持って、立ち上がった。



感想 60

あなたにおすすめの小説

【完結】恋人になりたかった

ivy
BL
初めてのキスは、 すべてが始まった合図だと思っていた。 優しい大地と過ごす時間は、 律にとって特別で、 手放したくないものになっていく。 けれど……

イケメン大学生にナンパされているようですが、どうやらただのナンパ男ではないようです

市川
BL
会社帰り、突然声をかけてきたイケメン大学生。断ろうにもうまくいかず……

キミと2回目の恋をしよう

なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。 彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。 彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。 「どこかに旅行だったの?」 傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。 彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。 彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが… 彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

【完結済】俺のモノだと言わない彼氏

竹柏凪紗
BL
「俺と付き合ってみねぇ?…まぁ、俺、彼氏いるけど」彼女に罵倒されフラれるのを寮部屋が隣のイケメン&遊び人・水島大和に目撃されてしまう。それだけでもショックなのに壁ドン状態で付き合ってみないかと迫られてしまった東山和馬。「ははは。いいねぇ。お前と付き合ったら、教室中の女子に刺されそう」と軽く受け流した。…つもりだったのに、翌日からグイグイと迫られるうえ束縛まではじまってしまい──?! ■青春BLに限定した「第1回青春×BL小説カップ」最終21位まで残ることができ感謝しかありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

どうせ全部、知ってるくせに。

楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】 親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。 飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。 ※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。

【完結】かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい

日向汐
BL
続編・番外編はTwitter(べったー)に載せていきますので、よかったらぜひ🤲 ⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆ 過保護なかわいい系美形の後輩。 たまに見せる甘い言動が受けの心を揺する♡ そんなお話。 ⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆ 【攻め】 雨宮千冬(あめみや・ちふゆ) 大学1年。法学部。 淡いピンク髪、甘い顔立ちの砂糖系イケメン。 甘く切ないラブソングが人気の、歌い手「フユ」として匿名活動中。 【受け】 睦月伊織(むつき・いおり) 大学2年。工学部。 黒髪黒目の平凡大学生。ぶっきらぼうな口調と態度で、ちょっとずぼら。恋愛は初心。