【Stay with me】 -義理の弟と恋愛なんて、無理なのに-

星井 悠里

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◆Stay with me◆本編「大学生編」

「吹っ切る」



「彰?」
「……ん?」

「ぼーっとしてる? やっぱ疲れてる?」
「……いや、全然。疲れては、ない」
「そう?」

 仁はふ、と笑んで、食事を続ける。

「仁、ベッドって、どんなのがいいの?」
「家にあったみたいな木のベッド。で、ちょっと大きいやつが良い」
「じゃ普通の家具やさん行けばいいか」
「うん」
「あとは、食器と?」

「んー。あと、本屋」
「本屋?」

「料理の本が欲しい」
「……料理???」

 意外な言葉に首を傾げると。

「一緒に料理しよ?」
 と、仁が言う。

「キッチン見たけど、あんまり……ていうか、全然料理してないだろ」
「んー……朝は食べるけど、卵とパンくらいだし。昼は外だし、夜は帰って作るのも面倒で」

「しばらく一緒に住むんだし。良い機会だし、飯ちゃんと作れるようになりたい。一緒に覚えようよ」
「――――料理かー……」

「普通に毎日食べれる料理の本が欲しいんだよね。一緒に選ぼ?」

 楽しそうに話す、仁。
 断るのもなんだし、まあ、いいかな、と思って頷くと。

 嬉しそうに、笑う。


 ――――料理か。
 この二年、ほとんどやらずに過ごしてきたなー……。

「仁、うち、ちっちゃいフライパンしかないけど」
「あ、やっぱり? どこにしまってあんのかなーと思ったんだよね。鍋もない?」
「ない」
「……嘘でしょ。二年間何してたの」
「だから外食……」
「一人で?」
「いや、大学帰りに誰かと…… あとは、塾帰りだと買って帰ってあっためて……だから、レンジはあるよ」

「……分かった。じゃあ、本買って、必要な料理道具もそろえてく。そっちはネットでもいいや。本は開いて見てから、作りやすそうなのを買いたくて」
「……任せる」

「何、任せるって。一緒にやるんだよ」
「あ、うん、分かったってば」

 何だか一生懸命言ってる仁が可愛くて、クスクス笑ってしまう。


 ……可愛いって変か。こんな、自分よりでっかい、弟に。
 ずーーっと、何年も、可愛いって思い続けて生きてきたから、咄嗟に出てしまう。


◇ ◇ ◇ ◇



 ベッドは仁が即決で決めたので、配達を頼んでから、本屋に移動した。

「料理本のコーナーなんて初めて来たかも、オレ」
「……オレもそう。こんなにあるのか……」

「仁、こういうのは? 手抜き簡単料理だって」

 仁にその本を向けると、仁はちょっと嫌そうな顔をした。

「オレちゃんと覚えたいんだって。――――最初から手抜きしたくない」
「……そっか」

 なるほど、そうなんだ……。
 ……仁、まじめ……。

「――――じゃあ、これ?」

 「初めてのお料理」とか、「小学生からできる料理」とか。
 超初心者ぽい本を差し出してみる。

「……んー……少しは出来るから、もうちょっと……」
「――――じゃこれは?」

 「超基本のお料理100」を出したら、ひょい、と取られ、仁がしばし眺めてる。

「――――これでいいかな。大体基本の料理、載ってるし。あとは、もうちょっと簡単で美味しい、みたいなのも……」

「……じゃあこれは? 色々美味しそうだよ?」

 大人気の男飯、みたいな本。
 中をめくると、男子が好きそうなメニューばかり。

「あ、いいね。じゃあこの二冊買ってくる」
「うん」

 仁がレジの方に向かっていく。


 ……ほんとにいっぱい料理の本て売ってるんだなー。
 これの通り作れば作れるのかな。

 あれやこれや手に取りながら移動していくと、今度は目の前にスイーツ作りの本が並んでいた。

 スイーツだって。 初心者でも、作れる??
 仁、意外に甘いの好きだよなー……。

 世界一簡単な手作りスイーツ、という売り文句に惹かれて手に取ったレシピは、材料を準備したら、あとは混ぜて、焼く冷やす蒸す、など。結構簡単そう。……に、見えるけど。


「彰? 何見てんの?」
 レジを終えた仁が、ひょい、と彰の持っていた本をのぞき込む。

「――――スイーツ? 作る?」
「……仁、好きじゃないっけ、スイーツ」

「んー好きだけど……作れるかな?」
「作れそうだよ、これ見てると」

 言うと、仁はクスクス笑って。

「ちょっと見せて?」

 少しの間レシピを見てた仁が、作れるかも……とにっこり笑う。

「買ってくる」

 楽しそうに言って、レジに向かう仁の後を、なんとなくゆっくりついて歩く。レジ前に並んでる本を眺めていると、仁が戻ってきた。


「えーと――――あとは食器だっけ?」
「うん」

「雑貨屋さんでいいのかな。入った事ないけど、キッチングッズっぽい店が下にある気がする」
「とりあえずそこ行ってみたい」
「ん」


 久しぶりに仁と歩くのは、穏やかに、楽しくて。


 昨日まで、ずっと、悩んでいたのは何だったのかなと ふと、思う。


 ――――こんな事なら、もっと早く連絡すればよかった。
 そしたらもっと早く、吹っ切れて――――。


 そこまで考えて、思考が止まった。


 ……吹っ切れて――――。

 何を? あ、仁の、事を?
 吹っ切って、そしたら……どうしてただろう。


 吹っ切れてたら――――。
 ――――オレ、誰かと、ちゃんと恋愛、してたかな。


 そんな疑問が不意に浮かんで。 
 ――――また止まる。


 良く分かんないな。


 ……恋愛、か。
 
 ……あれ。

 オレが誰かとちゃんと、付き合ってなかったのって、
 ……仁と関係あったんだっけ。

 ――――どうだったっけ。


「彰?」
「え」

「どうかした?」
「――――いや……何でもない」


 気付いたら、不思議そうな顔で、のぞき込まれてて。
 咄嗟にそう言って、仁とは違う方に顔を向けた。



 とにかく。

 早く、仁に彼女が出来たらいいな。


 そしたら―――― オレももう何も気にしないで、
 誰かと、ちゃんと、付き合ってみよう。



 うん。
 それがいいな。きっと。


 隣で楽しそうな仁を見上げながら。
 そんな風に、思った。


 





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