29 / 130
◆Stay with me◆本編「大学生編」
「亮也の訪問」
しおりを挟む少し考えていたら、ふっと、忘れていた事を思い出した。
「あ」
「ん? どしたの?」
「真鍋先生に明日の朝、仁が行くって連絡しとこうと思ってたのに、忘れてた……ちょっと電話するね」
「ああ……うん」
すぐ電話をかけて、真鍋先生に報告。
できそうならすぐ契約もしたいから、履歴書とか諸々持ってきてと言われて、その説明をメモを取りながら聞いていたら、意外と電話が長くなってしまった。
その時、ピンポーン、とチャイムが鳴り響いた。
「?」
あ、今日の荷物かな?
仁と目が合い、仁が、オレが行くと指先で示しながら、玄関の方に姿を消す。
明日仁に持たせるものを書きだし、真鍋先生と話を続けていると、玄関の方から、微妙な話し声。
宅配の人とはそんな話すこともないだろうし、何だろ?と思いながら、電話したまま玄関へ向かう。
「――――?」
仁の背中で、相手は見えない。
荷物じゃないの……??
電話しながら、仁の脇から覗いて――――。
「りょう――――」
玄関に立っていた亮也に、驚いて、数秒固まった。
『彰先生?大丈夫ですか?』
電話から呼びかけられ、あ、すみません、と返す。
ちょうどそこで、まあそんなところかな、と真鍋先生が言ってくれたので、挨拶そこそこに電話を切る。
「あ、仁、あの――――」
「彰、友達?」
仁が、振り返って、聞いてくる。
「うん、そう。 ごめん、中入ってていいよ、仁」
「……ん」
仁が、ゆっくり、中に入ってく。
「……亮也、どしたの?」
なんとなく、小声になってしまう。
「ごめんな、女の子のとこに行ってたんだけど、この近くでさ。彰に会いたくなって、電話してたんだけど繋がらないし、チャイム鳴らして出なかったら帰ろうと思ってたんだけどさ。 出たと思ったら、彰じゃないし」
「今、塾の先生とずっと電話してたから。ごめんね。 えっと、……弟なんだ、今の」
「へえ? 弟なの? すっげえイケメンな」
「はは。そう?」
「……恋人できたのかと思った」
二人でもともと小声だったけれど、最後は、こそっと、より小さく囁かれて。 思わず、強張る。
「違うし。――――あ、今日オレが断ったから来たの?」
「だって、なかなか彰に断られたことなかったからさ。 なんかあったのかなーとも思って」
「後で電話しようと思ってたんだけどさ」
「ん?」
「弟がさ、同じ大学なの、今年から。で、うちに住むことになって。昨日決まったから、今日色々買い出しとか行っててさ」
「あー……そっか。……えーと、上がらない方が良い感じ?」
「あ……」
玄関で話し続けていたことに気付いて。
ごめん、と言いながら、スリッパを差し出す。
「仁、ちょっと部屋で話してくるね」
「――――」
リビングを覗いてそう言うと、仁は振り返って、無言のまま、頷いた。
「明日塾行く時間、今日と同じか少し早い位ね。準備は朝してもいいから、先寝たかったら寝ちゃっていいよ」
「――――ん」
また頷くだけ。
少し引っかかるけれど、うしろの亮也が気になって、リビングのドアを閉めた。
◇
「亮也、オレの部屋行ってて。 なんか飲む?」
「いや、すぐ帰るし、いいよ」
「……ん」
二人で、部屋に入る。
――――と、同時に。
亮也に、引き寄せられてしまった。
「……っっ」
むりむりむりむり。
プルプルと首を振る。
「っ亮也、むり」
超小さな声で、囁く。
「――――キスだけ」
もっと小さい声で、囁かれる。
「……お前、女の子と居たって言ったじゃん、してきたんじゃねえの?」
「……したんだけど―――― 彰とキスしたいなーと」
「……声、出そうになったら、絶対やめるからな」
言うと、背を、ドアに、押し付けられて。「ん」と笑われた。
亮也の顔が傾いて―――― 唇が重なる。
舌がそっと中に入ってきて、舌に触れてくる。
優しいキス。舌が、絡む。
「――――っ」
息すら漏らすまいと、強張ってると、亮也の手が、首筋を撫でた。
「っ!!」
びく、と震えると、亮也はクスッと笑って。
「かーわいい、彰」
「……ばか、ほんとに、しずか、に――――」
また口を塞がれて、ゆっくり口内を刺激される。
じんわり、熱くなる。
「……っもう、おわり、にして、亮也」
「――――分かった」
とは言ってくれたけど、少し、つまらなそうな顔。
かと思ったら。
ぐい、と首元の服をずらされて。
鎖骨のあたりを少しきつく吸われた。
「――――っ!」
「これだけ。つけさせて」
……っバカ、亮也。
「怪しまれないように少し話してった方がいいのかな?」
こそ、と囁かれる。
うん、と頷くと、亮也は、カーペットに座った。
「どこ行ってたの、今日」
「んー……あそこ行ったよ、焼肉のお店」
「あの店員の子、居た?」
「うん、居たよ。元気そうだったよ」
水をかけられた時、一緒にいた亮也。めっちゃ笑ってたっけ。
あれから、亮也と二人で行くと、何となくいつもあの子が元気か確認してしまう。
「あとはね、家具屋でベッド見て……本屋行って、雑貨屋さん行って……かな」
「ふーん。そっか。 オレは彰に振られたから、女の子んとこ行って…… 夕飯は居酒屋行ってた」
「で?」
「その後、女の子ん家行ってた」
「……にしては、帰ってくんの早くねえ?」
「――――彰んとこ来ようと思ってたから」
「……ほんとお前元気な」
「違うって」
ちょっぴり苦笑いで言うと、亮也は笑った。
「顔見に来ただけだし。明日も朝から塾だろ?」
「うん、そう」
「そういえばさっきの会話さ」
「ん?」
「弟も、塾に行くの?」
「あーまだ分かんないんだけど……今日たまたま塾長に会ったら、オレのサポートで春休みバイトしないかって、話しかけられてて」
「ふうん……弟と仲いいんだな」
「――――う、ん……まあ……」
ちょっと複雑になりながら、頷く。
「ん。とりあえず顔見れたし。 帰ろうかな」
「昨日会ってたじゃん」
クスクス笑ってそう言うと。
「なかなか断られないからさ。どーしたのか気になっちゃて。なんか電話の様子もちょっと気になったし」
「……ごめん心配かけた?」
「勝手に気になっただけだから」
立ち上がった亮也が、ベッドの端に座ってるオレに、キスした。
「――――ごめん、亮也、これからうちでは無理、だから」
「いいよ。家おいで」
「……ん」
亮也は優しいし、居心地もよくて、この二年、よく一緒に居た。
一緒にいる時は、まるで恋人同士みたいに過ごしてたけど。
亮也にも他に相手が居て、別にオレとだけってわけじゃないし。
そんなお互い、気にする事も、謝る事も、ほんとは無いんだけど。
「じゃあまた連絡するから」
「うん」
二人で部屋を出ると、仁はリビングには居なかった。
「挨拶してったほうがいい?」
「んー、でももう部屋に居るみたいだから」
「そっか」
言いながら、亮也が靴を履く。
「――――またな、彰」
「うん。おやすみ。気を付けて」
手を軽く振って、亮也が帰っていった。
――――仁、もう、寝たのかな。
思いながら、振り返った瞬間。
仁の部屋のドアが、開いた。
75
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
《完結》僕が天使になるまで
MITARASI_
BL
命が尽きると知った遥は、恋人・翔太には秘密を抱えたまま「別れ」を選ぶ。
それは翔太の未来を守るため――。
料理のレシピ、小さなメモ、親友に託した願い。
遥が残した“天使の贈り物”の数々は、翔太の心を深く揺さぶり、やがて彼を未来へと導いていく。
涙と希望が交差する、切なくも温かい愛の物語。
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】
主任補佐として、ちゃんとせなあかん──
そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。
春のすこし手前、まだ肌寒い季節。
新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。
風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。
陽七 葵
BL
主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。
しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。
蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。
だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。
そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。
そこから物語は始まるのだが——。
実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。
素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪
【完結】君を上手に振る方法
社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」
「………はいっ?」
ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。
スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。
お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが――
「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」
偽物の恋人から始まった不思議な関係。
デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。
この関係って、一体なに?
「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」
年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。
✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧
✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧
【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます
猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」
「いや、するわけないだろ!」
相川優也(25)
主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。
碧スバル(21)
指名ナンバーワンの美形ホスト。自称博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。
「絶対に僕の方が美形なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ!」
「スバル、お前なにいってんの……?」
冗談?本気?二人の結末は?
美形病みホス×平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。
※現在、続編連載再開に向けて、超大幅加筆修正中です。読んでくださっていた皆様にはご迷惑をおかけします。追加シーンがたくさんあるので、少しでも楽しんでいただければ幸いです。
イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした
天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです!
元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。
持ち主は、顔面国宝の一年生。
なんで俺の写真? なんでロック画?
問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。
頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ!
☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる