【Stay with me】 -義理の弟と恋愛なんて、無理なのに-

星井 悠里

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◆Stay with me◆本編「大学生編」

「二人だけがいい」

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「……帰ったの?」
「うん。近くに来たから、少し話しに来ただけだって」 
「そっか」

「仁、寝たのかと思った」
「寝てない」

 言いながら、仁がリビングに戻る。

「……明日の準備してから寝る」
「そっか」

 仁について、リビングに入ると、片付けようと思ったコーヒーのカップがちゃんと洗われていた。

「あ。片づけてくれたんだ。ありがと、仁」
「……ん。で、 何を持っていけばいい?」
「あ、うん」

 テーブルの上に置いてたメモを手に取る。

「とりあえず、印鑑と、履歴書だって。やる気あるならもう書いていってもいいって。あと、オレが今日着てたみたいな服、もってる?」

「……ワイシャツみたいなシャツはない。 黒のパンツはあるけど……」
「シンプルならいいんだけど。薄い色のセーターとかない?」
「白のVネックのセーターならあるけど」
「それでいいよ。仁は講義するわけじゃないし」

 ――――なんか、仁、笑わない。
 気のせい、かな……。

「履歴書は――――ちょっと待ってて、オレのが残ってるかも」

 部屋に戻って、棚を探す。
 前に書いたまま残っていた履歴書を見つけて、リビングに戻る。

「明日、塾で書いてもいいけど……今書いちゃう?」
「ん。書く」

「これ、見本とボールペンね」
「ん」

 仁は静かに履歴書を書き始める。
 目の前に座って、しばらく肘をついて、眺める。


 ――――仁、無表情。……な、気がする。
 
「……仁……?」
「……ん?」

「……勝手に人を入れたから、怒ってる?」
「――――」

「……お前に聞かなかったから?」
「怒ってないよ」

 履歴書から視線をあげて、まっすぐ、見つめられる。


「……さっき決めたばっかで、その後いきなり来た人じゃん。そんなので、怒るわけないし」
「――――」

 静かな、瞳。
 ならいいけど……と、視線を落とした。

 仁は、そのまま、また履歴書を書き進めていく。


「――――仁……」
「……ん」

「……怒ってないなら、笑ってよ」
「――――」

 不意に見上げられて。
 ちょっと困って。ふ、と笑って見せる。


「――――…」

 一瞬目が少し大きく見開かれて。
 ――――次の瞬間。 仁が、ふ、と笑った。


「……それ――――何年ぶりだよ」 


 あ。
 ……覚えてたんだ。

 小さい頃。
 仁はわりと良い子だったけど。ごくたまに仁が怒ったり、泣いたり、駄々こねたり。
 宿題できなくてふてくされたり。

 そんな時、オレ、よく言ってた。「仁、にっこり」って。
 笑った方が可愛いよ、うまくいくよて。
 
 なんだろう。二年前、と言わず。
 それまでも、お互い中高生になってからは、そんなに密接に触れあってなかったからか。 


 こうして一緒に過ごしていると、小さかった頃の事ばかり、思い出してしまう。


「――――彰」
「ん」


「――――やっぱりさ」
「ん?」

「この家は、二人だけ…… でもいい?」
「――――」

「……だめ?」
「――――いいよ、仁」


「怒ってるんじゃないよ。――――ただ、何となく……」
「……いいって。分かったよ。まあお互い気は遣うし…… 人連れてくるのは無しにしよう」

「――――ありがと。彰」

 仁が、少し、ホッとしたように笑んで。
 また履歴書に視線を落とした。


 ――――怒ってたんじゃなくて……。
 それ、言いたかっただけか……。

 
「……やなこととか、言ってくれていいからね。隠されてる方が嫌だし」
「――――ん。彰もね」

 履歴書を書き進めながら、仁が頷いて、見つめてくる。


「うん。分かった」

 頷くと、仁はふ、と笑んで、また下を向く。


「履歴書の写真、朝撮っていく?」
「……ん」

「そしたら今日より少し早く出ようかな…… 行ってから少し挨拶とか、準備もしたいし。七時二十分位に出よ」
「ん。了解。書けた、よ。志望動機とか、これでいい? 確認してくれる?」
「うん」

 仁から手渡されて、目を通す。

「ん、大丈夫。 そしたらもう今日は、寝よっか」
「ん。そうだね」

 仁は立ち上がると、リビングのドアの所で振り返った。

「――――彰、今日、色々ありがと」
「うん。おやすみ」

 バイバイ、と手を振って見送ってから。
 なんとなく、一人で、履歴書を眺める。


 ――――仁、字、キレイだな。

 趣味特技、剣道ね……。
 そーだ、道場、聞かないとな……。

 そんな風に思っていたら、スマホが鳴った。

 寛人だった。『大丈夫なら良かった』だって。
 ありがとうスタンプを、送ってから、スマホをおいて、ふ、と息をついた。


 ――――家、二人だけがいいって思ったのは。

 やっぱり亮也が来て嫌だったのかな。
 怒ってない、とは言ってたけど……。

 ……とにかく、亮也だな。
 ――――会う時は、外にしよ……。


 なんだか ため息が漏れる。



 ――――なんか今日、色々、疲れた……。
 もう、寝よ。



 歯を磨いて、部屋に入ってベッドに倒れると。
 その日は―――― あっという間に眠りに落ちた。
 
 



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