【Stay with me】 -義理の弟と恋愛なんて、無理なのに-

星井 悠里

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◆Stay with me◆本編「大学生編」

「仁・初出勤」

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「イケメンだ」「超イケメンだ」「なになに、イケメン」


 女子生徒のみならず、男子生徒までが、受付の所で仁に気付き、そのワードを口にする。

 ……なんか可笑しい。

 仁は、奥の真鍋先生の所で説明を受けている。

 もうほぼ採用らしいので、オレはその間に、受付の斉藤さんに仁のIDカードを作ってもらっていて。受付を通っていく生徒たちが、挨拶しながら騒いでいる。

「斉藤さん、奥にめっちゃイケメンがいるけど……新しい先生?」

「彰先生の弟さんらしいよー」
「あ」

 ……あとで隠した方が良いか、真鍋先生に聞こうと思ってたのに……。
 斉藤さんは話しかけられた瞬間、答えてしまった。

 ……先に口止めが必要だったかな……。


「ええーーー!」


 案の定、生徒たちが叫ぶ声。
 ――――あ、もう駄目だ。口止めは不可能。

 ……名字が倉科なんて珍しいから、どうせバレるか。
 ……もう仕方ない。


「すっげー」
「イケメン兄弟だー」

 わいわい言いながら固まっている生徒たちに、「静かにー」「止まらないで教室行ってー」と、促す。

「彰先生ー」

 奥から真鍋先生に呼ばれる。

「なんか騒がしかったですね」

 真鍋先生がクスクス笑い、仁が首を傾げてる。

「どうかした? ――――なんか叫び声聞こえたけど……」
「ああ……兄弟ってバレて……」

「え、もう?」

 仁は、ぷ、と笑う。

「話したの?」
「あー……斉藤さんがさらっと……」

「そうですか」

 真鍋先生が苦笑いしながら。

「でも、名字も珍しいしもう最初からバラしましょう、と話していた所だったので、大丈夫ですよ」

 そう言われて、ホッと一息。

「仁先生と呼びますね。 仁先生は、彰先生のサポートでお願いします。結局今日も、二クラス分やってもらう形なので、小テストの丸付けや、プリントの配布、回収、質問の受け答え……できる所から、彰先生の指示でお願いします。本当は二クラス分を、とかは良くないので保護者からクレームが来る前に、体制を整えないと」

 真鍋先生の指示に、二人で頷く。
 話している間に予鈴のチャイムが鳴った。

「じゃあ、お願いします」
「はい。 仁、行こう」

 仁の先を歩き、四階への階段をのぼる。

「講師はエレベーター乗らないでこっちの階段で移動ね」
「ん」

「……イケメンイケメンて超騒がれてたよ」
「……はは」

「最初うるさいと思うけどその内子供達も慣れるからスルーして?」
「大丈夫。気になんないし」

 ふ、と振り返る。
 ――――まあ。言われ慣れてるだろうな。

「一応最初に挨拶してもらうから。簡単に自己紹介、できる?」
「ん、平気」

 教室に入った瞬間、ざわざわ、と生徒たちが騒ぐ。
 

「おはようございます。今日は最初に……皆が気になってると思うので、自己紹介からしてもらおうと思います」

 教卓でマイクを通してそう言い、ドアの所で止まっていた仁にマイクを差し出した。

「倉科仁です。……彰先生の弟です。とりあえず春休みは、彰先生のサポートで、丸付けや授業進行のサポートをします。よろしく」

 大教室の結構な人数の興味深げな視線にも、一切臆する事もなく、マイクを使ってスムーズに自己紹介を終える。

「仁先生かっこいー」「イケメンすぎー」

 なんて声と、拍手が起こった。主に女子から。
 でも男子も、それに乗って、拍手してる。

 仁、苦笑い。

「仁先生、彼女はいますかー?」

 そんな質問が飛んできたので、もう切り上げて授業に入ろうとしたら。
 仁がまたマイクを持って。


「……好きな人は居るので。それ系の質問はここで終わりにして下さい」

 一言すっぱり言い切って、見事質問を切り上げさせた。
 仁が歩いてきて、オレにマイクを返してくる。

「……えーと。授業を始めます。まず小テストを配ります」

 言いながら小テストのプリントを手にすると、仁がすかさず取りに来てくれて配ってくれる。

「プリントが手元に行ったら名前だけ書いて待っててください」

 並んでる席の後ろで、余ったプリントを回収しながら戻ってくる仁を見つつ、テスト開始を伝える。

「余ったプリントね」
「ん、ありがと」
 それを受け取って教卓に置き、回答を仁に渡す。

「丸付け用の回答これね。今日のは、表が漢字と、裏は数学の計算問題だから、〇か×かでつけてくれればいいんだけど、たまに文章題とかだと△つけたりする……まあそっちは出てきた時に」
「ん」

「で、丸の数を点数のとこに書いて。そうだ、丸付け終えたら回答と一緒に配るから、列で順番に返せるように、プリントの並び順変えないで丸付けて。各自間違えたとこやり直して百点にしてから、提出。 提出された小テストの点数を、この表に書いておいて、で、次の時に返す感じ。 って一気に言い過ぎ?」

「大丈夫、分かったよ。丸付けて、点書いて、皆に配って、やり直したら回収だろ? で、点数を記録しとく。でいい? 記録は名前順?」
「うん。でも名前順なんだけど、もう一人の先生のクラスの子達の表は、また別になってて。オレは自分のクラスの子の名前分かるから分けれるんだけど……」
「……じゃあ彰のクラスの子達にさ、提出前に名前の横に〇してもらっといてくれたらいいよ」
「……なるほど。 分かった」
「ん」

 ふ、と笑って仁が回答に視線を落とす。

「……中学生の問題、懐かしいな」
「――――」
「彰によく教えてもらったな」

 そんな風に言って仁が黙る。
 時計を見ると、もう、時間。

「はい、終了。もともと先生のクラスの子は、名前の横に〇をつけといてください。真司先生のクラスの子は何も書かないで。 終わったらプリント前に回してください」

 前に流れてくるプリントを、仁が回収してくれている。


「はい、教科書、六十七ページからいきます。開いてね」

 教室の一番後ろの空いてる席に座って、仁が丸付けを始めてる。



 何だか、仁がいる所で授業するの、変な感じ。
 ――――少し気恥ずかしい気持ちになりながら、授業を始めた。





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