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◆Stay with me◆本編「大学生編」

「好きな子」

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「これで今日は終わります。気を付けて帰ってくださいね」

 午前の講義を全て終えて、マイクを置く。
 「さよなら」と口々に言いながら、生徒達が教室を出ていく。

 何人か質問にきた生徒の対応を終えて、ふと仁の姿を探すと、教室の後ろの方で何人かの女子生徒たちに囲まれていた。質問……て感じじゃないな……と、苦笑い。


「仁」
 呼ぶと、すぐに、気を付けて、と生徒達に言って、仁が歩み寄ってくる。

「お疲れ、仁」
「ん、結構大変だね、これ一人でやってたの?」

「丸付けだけ手伝ってもらったりしてたけど…… 目が行き届かないなと思ってた」
「どうだった?オレ。役に立った?」

「うん。 すごくやりやすかった。ありがと」
「はは。良かった」

 教材をまとめて、手に抱える。

「彰の授業、分かりやすい」
「そう? それは良かった」

「オレがあの高校受かったのも、彰のおかげだし。前も分かりやすかったけど……なんかもっと分かりやすくなってる気がする」
「教え方とかも、習うからね……あと、教える用の教材もあるし」

「オレ、とりあえず春休みは彰の手伝いでしょ。んで、学校入ってからは、やる気があるなら、って、真鍋先生に言われたよ」
「そっか。 まあ、春期講習中に考えればいいよ。仁が入学して落ち着いてからでもいいしさ」
「うん。今日とりあえず、もう一個バイトしたいとこ、連絡してみる。ここに入るのは、月水土日、て聞いたから」
「うん」

 階段を下りて、三階にたどり着くと、真鍋先生に呼ばれた。


「仁先生、生徒達に大好評でしたよ」

 クスクス笑って、仁に言う。

「真司先生と話して、退職が確定したので、正式に、彰先生のクラスという事で、仁先生にサポートに入ってもらいますね。二人で担当ということで生徒たちには伝えましょう」
「分かりました」


 生徒の個人情報など書類を見ながら、オレが真鍋先生と話してる間、仁は、与えられた机で、色々資料を見ている。


 ……なんか今更だけど、変なの。
 オレのバイト先に、仁が居る。

 ――――ほんと、変なの。


「何かやりにくいことがあったらすぐ言ってくださいね。社員も、サポートに入るようにするので」
「分かりました」

 自分の机に座って、ふ、と息をつく。
 隣の仁が、オレの方を見て笑った。

「どうかした?」
「……いや。少し大変かなーと思って」
「ん?」
「人数、今までの倍だからさ。――――皆の顔見てる余裕あるかなーと思って」
「オレも見るよ。手伝うから」
「――――うん。ありがと」


 仁に助けてもらうとか。
 ……そんな日がくるなんて。

 助けるのはいつも、オレだったからな……。
 まあ、兄貴だし。当然だけど。


「さっきの、点数、表に書いてくのって、終わった?」
「うん、終わってる。確認して?」
「うん」

 確認すると、ちゃんと出来てて。

「仁、完璧」
「ん」

 仁が、ふ、と嬉しそうに笑うと。
 やっぱり可愛い。――――と、思ってしまう。


「仲良しですね」

 いつのまにか後ろにいた真鍋先生が、クスクス笑いながらそう言ってる。


 ――――一昨日まで、二年間、まったく、関わり無かったけど。
 その前も―――― 関係、めちゃくちゃで。


 ――――はー……。

 仲良し、とか―――― 言われると、
 めちゃくちゃ、複雑なんだけど。


 ……仁は、どう思ってる、のかな――――。
 ……聞ける訳ないけど。


 次の授業の準備を、仁に教えながら終えて、二人で帰ろうとしていると。
 さゆり先生に話しかけられた。

「仁先生、さゆりです。よろしくー」
「あ。よろしくお願いします」

「仁先生、彼女はいますか?」

 早速の質問。
 なんかさすがだなあ、なんて思いながら、先に行こうか迷ってると。
 
「――――好きな人は居ますよ」

 仁はそう言った。

「じゃあ、居なくなったら、教えてください」

 ……めげない。明るい返事に、笑ってしまう。
 仁も、ぷ、と笑って、「分かりました」なんて返事をしている。

 皆に挨拶をしながら、エレベーターを待つ。

「――――」

 仁、好きな人、居るのか。
 ――――まあ、この二年、彼女何人も居たって和己情報あるし。
 続いてるのかな。

「とりあえず、塾では面倒だから、好きな人居る、でやり過ごすね」

 仁が急にそう言った。 


「あ、うん。いいかもね」
「彰は? なんて言ってるの?」

「……内緒、て言ってる」
「そうすると突っ込まれない?」

「突っ込まれても、内緒って言い続けてれば終わるよ」
「……んー、めんどくさいな。 好きな人がいる、だと、そこで終わるんだよね、大体。そっちでいい?」

「うん。いいんじゃない? 実際今日それで終わってたし」

 言いながら、二人でエレベーターに乗り込む。



「……彰は、好きな人、居るの?」
「――――」


 不意に、そんな風に聞かれて。

 体の付き合いある子は居るけど――――。
 女の子も居るし。亮也もだけど。

 好きかて聞かれると…… まあそりゃ好きだけど……。
 今仁が聞いてるのは、そういう意味での好き、じゃない気がする。

 あと、仁と、こういう会話をするのは、自分の中では、まだ微妙過ぎて。
 なんて答えたら良いのかも、分からない。


 いろんな事が浮かんで、咄嗟に応えられない。



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