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◆Stay with me◆本編「大学生編」
「懐かしい」
しおりを挟む「じゃあ、これからも塾のバイト、よろしく」
仁が、にこっと笑いながら、そう言った。
「あ、でもカフェの方もあるんだから、無理はしない方が、いいと思うけど」
「いいよ。カフェは、色々知りたい事覚えたら、やめてもいいし」
「なにか覚えたい事があるの?」
「うん。色々」
「へえ……? あ、コーヒーとか詳しくなったら、教えてね」
そう言ったら、仁は、ふっとまっすぐオレを見つめて。
「うん。もちろん」
と、笑顔。
そんな楽しそうに笑う位、何を覚えたいんだろ?と思いながら、コーヒーを飲む。
「カフェはあくまで試しだから。向いてるか分かんないし」
「まあ何でもやってみるのは良いと思う。あ、塾はさ、続けるなら、その内きっと講義とかも任されると思うけど……まあ平気かな、仁は」
「ん、たぶん。慣れるだろうし」
「それが慣れなくてやめてく子もいるからね。……仁、すごいよね」
自然と褒めたら、一瞬照れたように詰まって、仁は視線をコーヒーに落とした。
「――――つか、彰だって超普通にやってるじゃん」
「オレは…… 生徒会歴、長いから。副会長って司会役多いからさ。中学からマイクに慣れてたから」
「そっちのがすごいけど。 あれ、何で立候補したの?」
「完全に、寛人に乗せられて」
即答すると、仁が、あ、やっぱり?と、ぷっと笑った。
「――――のせたりするの、あの人うまそう」
「ほんと、うまいよ」
クスクス笑ってそう答える。
――――なんか、寛人に対しての口調が柔らかくなった気がする。あんな短時間で。
寛人、さすがだなぁと思いながら、仁を見てると。仁が急に、ぱ、と笑顔になって、オレを見た。
「な、今日の夕飯だけどさ、から揚げでいい?」
「うん。いーよ」
どんどん料理グッズが増えて、調味料が増えてくキッチン。
油もの揚げるなんてありえなかったキッチンに、それ用のフライパンまで現れた。
「仁て、料理、結構好きだよね」
「彰と作るの楽しいし。結構才能あると思わない? オレ」
「うん、あるある」
「……適当じゃね?」
べ、と舌を出してくる仁に、笑ってしまう。
「別に適当じゃないよ。絶対あるよ。調味料とか適当に入れても美味しいし」
「彰、いちいち量るんだもんなー。オレ、めんどくさくてそれ、無理」
「……性格出るね、料理って……」
「そーだね。彰、基本に忠実」
「……てか、全然知らないからさ。基本守ってた方が安心なだけ。まだ、感覚でとか、分かんないし」
「オレは感覚。 計量スプーンとか、めんどい」
「いいよ、それでも美味しいから」
「彰のは、当然美味しいけどね」
顔見合わせて、笑う。
「五時んなったら 作り始めよ」
「うん」
ちら、と時計を見ると、まだ結構時間はある。
「彰、なんかする事ある?」
「ん? ん―――― 特にない、かなあ」
「じゃあさ」
立ち上がった仁が、コーヒーのカップをテーブルの端の方によけた。
「ん?」
「ちょっと待ってて」
仁は、そう言って、部屋の方に消えていって。
少しして、戻ってきた仁の手にあったものは。
「……オセロ?」
「そう。スーパーの特価品で積まれててさ。久しぶりにやろうよ」
「いいよ。何年ぶりだろ」
「んー……中三まではやってたよ」
「中三?」
なんで中三? 受験生……。
と、思った瞬間、ふっと思い出した。
「ああ……そっか。 受験勉強の息抜きだね」
「そう」
仁が、オレと一緒の難関高校を受けると決めてから、家での勉強を見てて。
明らかに、勉強が辛そうになってきた時、気分転換で、色んなゲームをした。
結構夜遅い時間に、オセロや将棋や、謎解きを出し合ったり。
違う事で頭を活性化して、笑いあって、また勉強に戻ろうとしてたのを、不意に思い出した。
……全く忘れてた、というか――――思い出そうとしてなかったというか。
「……懐かしいね……」
楽しかった、記憶が、不意によみがえって。
なんでだか、不意に、目頭が、熱くなった。
――――あ、やば……。
思わず少し視線を下げて、動揺を、落ち着かせようと、する。
仁は、テーブルにオセロをおいて、石を分けたりしてて気づいてない。
「――――」
……今立ったら、不自然、だろうか。
どうしよう。
思った瞬間だった。
テーブルの隅に置いてたスマホが着信の音を立てた。
「……あ、ごめん」
助かった。そう思いながら、小さく告げて、スマホを取って立ち上がる。
部屋に向かって歩いている間に、涙は、止まった。
「あ、亮也……?」
部屋に入って、電話に出る。
『彰?……今へいき?』
「うん。平気」
『なんか春休みになってから会えないからさ。元気なの?』
「あーごめん……うん。元気だよ。春期講習とか、結構入ってて……」
『終わってからとか、うち、来れない?』
――――亮也との関係も……どうにかしないと……。
でも、女の子よりも、むしろ、亮也がグイグイくるから、普通にいつも仲良くて。
学部も一緒だから、完全に切るかとかもできないし。
どうしたら、良いんだろう。
友達に戻って、と伝えるべきなのか。
……最初の頃は誘われても断ってて、それでもずっと友達、だったんだよな……。
――――戻れると、ありがたいんだけど。
どっちにしても、ちゃんと話さないと。
「……うん、今近い予定が分かんないんだけど……考えとくね。また連絡するから」
『なんか、そっけなくない?』
「んな事ないよ?」
『だってこないだうち泊まってから、一週間以上たつだろ?』
「そうだね、ごめん……弟がいるからさ、一緒に夕飯作ったりしてて」
『ああ、そうなんだ』
「春休みは、結構難しいかも……」
『んー。うちは夜からでもいいから、泊まりに来いよ。どっかで誘うから。あけといて』
「――――ん、考えとく。ごめん」
少し話して、電話を切って。
ふ、と息をついた。
――――さっきオレ。
なんで、泣きそうになったんだろ……?
鏡で確認。大丈夫、もう泣きそうな顔はしてない。目も赤くない。
仁と――――楽しかった頃の思い出……。
――――なんで、あんな事で、泣きそうになってんの、オレ。
やっぱり、おかしいな、オレ。
くしゃ、と前髪を掻いて、少し下に落とす。
仁の所に戻ると、「電話もういいの?」と笑いかけてくれる。「うん」と答えて、仁の前に座る。
「黒白どっちがいい?仁」
「白」
「じゃオレ黒ね」
「白のが少し有利って聞くからさー……ずっと白使ってんのに、彰に勝てた記憶がほとんどない」
「うーん……オレ白黒で有利とかよく分かんないけど……」
「オレ、彰以外にはさ、白でも黒でも、全然負けないんだよ。なのに、彰には勝てない」
「あー……オレ……寛人には勝てないよ」
「げげ。て事は、オレなんか、片桐さんには全然勝てないじゃん。やっぱムカつくな……」
「オレが強いのは、寛人とよくやってたからかもしんない」
「……オレ本気で、やるから。今から喋らない」
仁が、む、と口を曲げて。
ふー、と息をついて、喋るのをやめた。
なので、オレも、話すのをやめた。
静かに、石をひっくり返す音だけが、部屋に響く。
静か。
――――心地、良いな……。
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