【Stay with me】 -義理の弟と恋愛なんて、無理なのに-

星井 悠里

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◆Stay with me◆本編「大学生編」

「剣道の見学」

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 翌日の夕方。館長と会って話をして、道場の見学をするだけの予定だったのだけれど、仁が大会の高校生の部門で優勝したと伝えると、少し見せてほしいという事になった。それでオレは、道場の隅に座って、仁を見学。

 小中学生が多く居る時間で。道着ではなく私服で立った仁を、子供達が気にしてチラチラ見ている。
 その様子に気付いた先生たちが、じゃあ見学がてら休憩にしようと告げたので、結局、子供達皆が遠巻きに仁を見る事になった。

 竹刀だけを借りて、仁が少し準備運動をしてる。


「――――」

 そういえば、仁が剣道をしているのを見るのって久しぶりかも、
 小学生の時は、母さんのかわりに迎えに行ったりもしてたのでよく見ていたけど。

 準備を終えた仁が、竹刀を持って、構える。  


「――――」

 真剣な表情。
 まあ文句なしにカッコイイけど。

 剣道の事は、全く知らない。
 仁がやると聞いても、オレもやるとはならなかったし、大会も応援には行ったけど、勝ち負けのルールもよく知らない。
 分かりやすい一本、とかが分かる位。

 ただ――――仁の、立ち姿は、綺麗だと、思う。

 構えた状態から振りかぶって、素早く振り下ろす。
 足の動きも、素早い。

 詳しいこと、分かんないけど。
 ――――ずっと見てられそうな位。 なんか綺麗。

 素振りから始まって、何種類かの技を見せて、仁がふ、と、館長に目を向けた。 
 ふ、と笑んで、館長が「すごく良いね」と、告げてる。


「皆ちゃんと見てたか? 見本みたいな素振りだったろ」

 そんな風に、子供達に言ってる。
 ――――結構な誉め言葉じゃないかな。

 仁は、汗を拭ってる。

 こんなわずかな時間なのに、あんなに、汗かくんだ。
 集中が半端ないからか――――。

 ふ、と仁がオレに視線を流して。目が合った。

 なんか――――どき、とする。
 知らない男、みたいな、表情。

 ――――長年見てきた仁とは……違う、男っぽい顔で。


 何だか、な。
 ――――この離れてた二年間って。
 仁の成長だけ、すごい気がする。


 ……つか、オレ、成長した? 
 なんか退化してないかな……。

 ……って、これだよな、きっと。この後ろ向きな感じ。

 寛人がやばいっていうのはきっと、オレのこの感じ。
 分かってはいるんだけど……。

 仁が館長と話してるのを見ながら、目の前で練習を再開した子供達を眺める。
 さっき仁がやってたいくつかと、同じ動きの子達も居る。

 でも、速さとか、綺麗さがやっぱり全然違う。
 ――――そうだよな、優勝してるんだから、実力があるって、事だよな。小学生から始めて、高校生まで、よく頑張ってたよな。

 しばらく眺めていると、仁がゆっくり歩いてきた。

「お待たせ」
「ん、お疲れ。 話、済んだ?」
「うん」
「入るの?」

「うん、多分ね。子供達が終わると、社会人とかのクラスになるみたい。オレは別にどっちでもいいって。大学生も、この時間の途中から、社会人の方にまざったり、適当らしいから。それくらい適当な方が、やりたい時に来れるから、いいかも」
「そっか。申し込みは?」
「書類もらった。詳しい事色々書いてあるから、よく読んでから、決めてくれだってさ」

 手に持ってた封筒を見せながら仁が言う。

「じゃあ、今日はもう帰る?」

 そう言って、立ち上がり、仁を見上げた瞬間。
 仁の後ろに、男の子がひょこ、と現れた。

「仁、うしろ……」
「ん? あれ。―――― なに?」

 男の子に気付いた仁が、ひょい、としゃがんで、その子に視線を合わせた。


「あの……素振り、すごいカッコよかった」
「はは。 ありがと」

 笑って仁が言うと、その子は、ぱ、と笑顔になった。

「ここに入る?」
「うん。多分ね」

「入ったら……教えてくれる?」
「……どうだろ。 ちょっと待ってて」

 ふ、と微笑んで、仁が言って。
 館長のもとに歩いていって、少し話して戻ってきた。

「入ったら、指導とかもしていいって。見てあげられるよ」
「やった!」

 無邪気に喜んでるその子の頭をくしゃ、と撫でて、仁が笑った。

「頑張っておいで」
「はーい」

 喜んで、走り去ってく後ろ姿を見送ってる仁。
 クスクス笑ってしまう。

「仁のファンが出来てる」
「え」

 振り返って、苦笑いの仁。

「ファンて……」
「……ここに入るの、多分じゃなくて決定?」
「うん……そうだね」

 仁は、クスッと笑う。

「館長って、真鍋先生の仲良しらしくてさ」
「え、そうなの?」

「だから、見学行くならほぼ決まりかなあとは思ってたから、理念とかはもう色々ホームページで見てきたんだよね。まあ、一応これ読むけど……」

 仁は、目の前の子供達に目を向けて、ふ、と笑った。

「オレも、子供ん時、高校生とか大学生の人たちにいっぱい教えてもらったんだよね。 ……懐かしい」

 子供達を見る眼差しが優しい。
 なんとなく黙っていたら、仁が、ふ、とオレに目を向けた。

「いこっか、彰」
「ん。もういいの? 次のクラスは見なくていいの?」

「雰囲気は分かったから、いい。彰はどう思う?」
「……剣道がどうとかは分かんないけど…… 雰囲気は良いんじゃない? 子供達は楽しそうだし」
「そっか。……ありがと」

 ありがとって? と仁を見上げたら。

「なんとなく彰にも見てほしくて、連れてきちゃったからさ」

 ふふ、と笑って、仁がそう言った。


「行こう、彰」
「ん」

 館長や、他の先生たちに挨拶して、道場を後にした。

「子供達、可愛かったね。ちっちゃいのに、道着着て、竹刀持って」
「うん」
「仁も、あんなだったんだよね」
「そーだね。……なあ、彰」
「ん?」

「竹刀ふったとこ、ちゃんと見てた?」
「見てたに決まってるし」
「どうだった? 久しぶりだったからさ。なまってたかも」

「んー……すごく、綺麗だった」
「綺麗?」

「――――剣道分かんないから、うまいとか分かんないけどさ」
「うん」

「速くて、綺麗でカッコよかった」
「――――そっか」

 仁が嬉しそうに笑ったので。
 オレも、また笑い返した。

「仁、忙しくなりそうだね。塾とカフェと道場と、学校も始まったら」
「……まあ、そう、かな。でもなるべく食事は作るから」

「てか、気になるのそこなの?」
「うん」

 なんか可愛く思えて、笑ってしまう。

「オレも少しはできるようになってきたから、無理しなくていーよ」
「じゃなくて、一緒に作るって事」
「――――」

 そんな答えに、仁を見上げると。
 仁は、じっとオレを見つめてくる。


「分かったよ……一緒に、作ろうね」


 クスクス笑って答えると。
 仁もまた、笑って、頷いた。



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