【Stay with me】 -義理の弟と恋愛なんて、無理なのに-

星井 悠里

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◆Stay with me◆本編「大学生編」

「辛い」

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 翌日十九時。
 約束した場所に着いて、寛人に連絡しようとスマホを見た時。 

「彰」

 そう言いながら、ちょうど寛人が現れた。

「あ、お疲れ。 ありがと、こっちまで来てくれて」
「電車で二十分だし別に……。店はどこがいい?」
「んーどこでも…… その駅ビル、飲み屋がいっぱい入ってるよ」

 ビルの下で看板を見て、「四階がいい」と寛人が言うので、それで決まった。団体客は待っていたけれど、二人だったのですぐ入れて、個室に案内された。

「今日は、仁はどうしてんだ?」
「剣道に申し込みに行くって。夕方出ていったよ」
「夕飯どうすんの?」
「適当に買って食べるって。……ていうか、仁の夕飯の心配しちゃうの、寛人」

 クスクス笑って、寛人にそう言うと。

「ちょっと聞いただけ」
 寛人は苦笑い。

「面倒見いいよな、寛人」
「そうか?」
「うん。ぱっと見、面倒なんか見そうにないのにね」
「るせ」

 ふ、と笑って寛人が言った時。 頼んだ酒が運ばれてきた。

「お疲れ、彰」
「寛人こそお疲れ」

 軽くグラスを合わせて、飲みながら、オレは笑った。

「てか、今日オレは、何もしてないから疲れてないんだけどね」
「今日は何してたんだ?」

「んー。仁の部屋のカーテンとか買いに行って、つけて……DVDで映画見て、食事作ってたべて……でまた、もう一本映画見て。コーヒー飲んで、仁が道場に出かけてったから……オレはちょっと家事して、ここに来た」

「ふーん。……全部仁と一緒?」
「……うん。まあ……」

 頷きながら、またグラスに口をつけた。

「彰、明日朝バイトか?」
「うん、そう」

「じゃあ、あんまり飲むなよ」
「まだいーじゃん、十九時だし」

「……帰る頃には冷まさせるからな」
「うん」

 色々たわいもない話をしながら、速いピッチで飲んでいると。

「一回水飲め」

 いつの間に頼んだのか、水を渡された。

「ん」

 ……熱い。

「――――お前、酒弱いんだから。そろそろおさえとけ」
「別に弱くないし」
「弱いっつーの。気分よく飲んでんのかと思うと、急に寝るだろ。今日はおぶっていかねーぞ」
「大丈夫大丈夫」

「つーか、仁が心配すんぞ」
「……うん。大丈夫」

 仁の名前に、ふ、と視線が落ちる。


「……仁と、何かあったか?」
「――――いや、別に。普通に仲、良いよ」
「……そうか」

「うん。なんかちょっと一緒に居すぎだけど……春休みだけだろうし……」
「――――ん」

 頷きながら、寛人がオレをじっと見つめてくる。

「……あのさ、寛人、ちょっと……話、聞いてくれる?……どうにも、なんない事なんだけど……」
「何でも聞くって、いつも言ってんだろ」

 即答に、ありがと、と笑っておいて。
 オレは、話し始めた。

「……あのさ、オレ、寛人にさ」
「ん?」

「考えたくないって、言ったじゃん……?」
「ああ」

「……もう、そうしようって、決めたんだ。……ほじくり返しても、良い事無さそうだから」
「ん。それはそれで、いいんじゃねえか」
「……うん。 そうなんだけど……」

 しばらく、言葉が出てこない。
 水じゃなく、アルコールを、喉に流し込む。

「――――勝手に、昔の事がさ、よみがえってくる訳……」

 はー、と、息をついて、オレがそう言うと。
 寛人が首を傾げた。

「――――例えば?」

「んー……キス、されてた事とか。 抱き締められてた事とか……」
「勝手に思い出しちまうって事?」

「んー……勝手にっていうか……匂いとかさ……階段から落ちた時とかさ」

「……におい?? 落ちた? ちょっと分かんねえ。ちゃんと話せ」

 言われて、確かに分からないよな、と思って、自分に苦笑い。
 ちょっと酔ってるな…… もう少しちゃんと話さないと……。


「……仁のシャンプーの匂いで、キスされてた時の事、思い出したりさ」
「――――」

「階段から落ちたの助けてくれた時……抱き締められてた時の記憶がもどったり、さ…… 考えないようにずっとしてたのに」
「……ああ。なるほど、分かった」

「……こっちに一人で居る間、ずっと忘れてた事まで思い出して……嫌でも、頭に浮かんできて、考えさせられてる気もするんだけど……」

 寛人が、ん、と頷いてる。

「なんかもう――――普通の顔してる仁の前でさ……」
「――――」

「どうしたらいいか、よく、分かんないんだよね……」


 初めて、自分の中の想いを、言葉に出した。

 アルコールの力も借りて。
 目の前に居るのが寛人だって事もあって。

 オレは、そう言うと、テーブルに肘をついてその手に、額をのせた。
 言ってしまうと、ますます自分の中の、気持ちを、認識されられる。

 そっか。
 ――――やっぱり、オレ。


 これ…… 辛いんだな。





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