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◆Stay with me◆本編「大学生編」
「自由な人達」
しおりを挟む今日は、仁は、十四時からのバイトなので、昼を食べたら出ていった。
午前中、一緒に買い物行った時に、夕飯はカレーライスが良いって言っていたので、仁が出てすぐ作り始めて煮込み中。もうすぐできあがる。
……暇。
仁が来る前、自分が何してたか、少し考えてみる。
――――女の子達と遊んでたり。亮也と会ってたり。他の友達と遊びに行ったりも、してた。
セフレの子達だって、別にそういう事だけしてた訳じゃなくて、遊びに出かけたり、ご飯食べたりもしていた。一人で過ごしてた訳じゃない。ていうか、むしろ色んな人と会ってた。
なのに。なんか、仁が来てから、オレ、仁だけになってる気がする。
大学生になる、弟。
別行動なんて当たり前。……ていうか、一緒に動く事自体、普通そんなにないんじゃないかと思うのに。
――――一緒に居たいというのか……。
居なきゃいけないような気になっている、というのか……。
仁は、今、こっちに知り合いは居ないから、そりゃそうなるかなって気もするんだけど……。
オレは別にこっちの友達たちと会ってもいいのに。
誘われても、春休みは忙しいと言い続けて、結局全部断ってしまった。
「――――」
これが良くない気がしてきた。
仁だけ、とかの状況にしてるから……。
仁の事か、考えられなくなってて。
……昔と今の仁の事ばっかり……。
「―――― なんか…… おかしくなりそ……」
ぽそ、と呟いた。
……はー、と、テーブルに突っ伏した瞬間。電話が鳴った。ディスプレイを見ながら、通話ボタンを押す。
「……もしもし、亮也?」
『彰?』
「うん」
『今日ひま?』
――――ずっと今のまま、一人で居たくないし。
……恋人、とかいうのも話さないと。
「いいよ。外で会えるなら。十九時には家に帰るけどいい?」
『ん、いいよ。どこ行く?』
「体動かしたいんだよね。なんか……あ、テニスは?」
『いーよ。三十分後、駅で待ち合せでいい?』
「わかった」
電話を切って、立ち上がって、カレーを煮込んでいた火を止めた。
◇ ◇ ◇ ◇
テニスコートをレンタルして、二時間、打ち合い続けた。
「――――すげーいい汗かいた」
気持ちよかったな。
やっぱ、こういうのしてないと、ダメだな。うん。
更衣室で着替えていると、急に、亮也がぷっと笑い出した。
「……何?」
「……お前、ほんと、負けず嫌いだなーと思ったら、笑えて来た」
「亮也だってそうじゃん」
「彰ほどじゃねえよ」
クスクス笑いながら亮也が言う。
「……なんかすごく楽しかった。ありがと」
「ん。 彰これからどうする? 今十七時前だけど……あと二時間くらい」
「んー……コーヒー飲みにいこ。話したいし」
「いーよ」
二人で歩きながら、通りがかりのコーヒーショップに入った。
「結構いい運動になったな~」
首を軽く回しながら、亮也が笑う。
「ほんと。テニスやるの、前に亮也とやった以来かも」
「オレも。あれいつだっけ……」
言われて、うーん……と考える。
「寒かったから……冬、だったかなあ? 去年だよね?」
「そーかも。 また近々やろうぜ」
「うん」
頷いて、少しの沈黙。
水を飲んで口を潤してから、亮也にまっすぐ視線を向けた。
「……あのさ、亮也」
「ん?」
「こないだの話なんだけど――――やっぱりオレ」
言いかけた所で。亮也が、ふ、と息をついて。
「……分かった。もういいよ」
「え」
「やっぱり無理なんだろ?」
「……ごめん」
「……そっちはとりあえず今は、諦める」
「……ん? とりあえず……?」
引っかかって、ん?と首を傾げると。
亮也は、ニヤ、と笑った。
「とりあえず、諦めるけど、いつかその気になるかもしんねーじゃん?」
「――――」
「まだあと二年は、お前と居るしさ」
「――――亮也って……すごいと思う」
思わず感心して呟いた言葉に、亮也はクスクス笑う。
「そう? 彰と恋人になれないなら、オレ、他のセフレ切んないからね?」
「……そこは好きにしていいよ」
「あと――――オレ、彰とも、セフレがいいな」
「――――」
「どーしてもしたくなったら、オレを呼んで? オレとなら、今更だしさ。気持ちいい事して発散したくなったら、な?」
「亮也……」
なんだかもう。ここまでくると、笑ってしまう。
「……笑ってんなよな、オレは本気。覚えとけよな?」
「……とりあえず聞いとくけど……」
そこで運ばれてきたコーヒーに口をつけて。
それから、また、亮也を見上げた。
「亮也、オレと友達になれる?」
その質問をしたら。亮也は、ふと顔を上げて、オレを見つめた。
「友達って、セフレも入る?」
「……入んない」
「嘘だよ。 呆れんなよ」
オレの顔を見て、苦笑いを浮かべてから。
「んー……オレにとってはセックスするかしないかだけの違いなんだよな。お前と居ると楽しいから居るんだし。というか、セックスしてても友達だし。しなくなってもそれは変わらない。彰が嫌だっていうなら、しなくても居られるし」
「――――わかった。……ありがと」
何となく嬉しくなって。ふ、と笑ってしまうと。
「――――まあでも、キスしたくなるけどなぁ、そんな風に笑われると」
「……バカ」
一言返したオレに、亮也はクスクス笑った。
「もーちょっと自由に考えたら? どーせ人生一回なんだからさ。自分が好きな方、楽しい方でいいんじゃない?」
「……お前は自由過ぎだと思うけど」
「オレと彰を足して割れば、ちょうどいいかもね」
そんな風に言う亮也に、笑って頷く。
――――自由にかー……。
そういえば、寛人も自由だよな。
なんか、誰にも侵されない感じ。
なんでオレの周りには自由な奴が居るんだろ?
オレも自由に生きれたら――――。
自由に生きれたら、どーすんだろ……。
なんて少し色々思いながらも。
……無理だなー、オレには。
ふ、とため息をつきながら。
能天気な亮也の顔を見つつ、いいなー、なんて思ってしまった。
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