【Stay with me】 -義理の弟と恋愛なんて、無理なのに-

星井 悠里

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◆Stay with me◆本編「大学生編」

「不機嫌」




「私、優奈ゆうなって言います。 良かったら、仁くんにプッシュお願いします」

 うふふ、と笑った「優奈ちゃん」の笑顔の向こうから、急に仁が現れた。

「オレが料理持っていくって言ったよね?」

 優奈ちゃんに視線を投げて仁がそう言うと、優奈ちゃんはにこっと笑って。

「あ、仁くんごめんね、お兄さんとお話してみたくてつい……」

 呆れたように、仁が優奈ちゃんを見やる。

「話さなくていいから。 仕事戻んなよ」

 とん、と優奈ちゃんの背中を押す。
 仁がくる、と振り返った。

「ゆっくり食べてて。 また来るから」
「――…ん」

 二人は、なんだかんだと楽しそうに話しながら、オレの席を離れていった。

「――――」

 ……仁がモテるのなんか、ずっと知ってる。
 ――――弟がモテたって、関係ない。 ……何も。

 要らない想いを、何もかも全部吹っ切って、いただきます、と心の中で呟いて、食べ始める。

 ―――― あ、すごく、美味しい。

 コーヒーも美味しいし、食べ物も美味しいんだ。いいな、この店。
 仁が美味しいって言ってたの、納得。

 不意にスマホが震えだした。

 ……亮也か。
    あまり人から見えないし、少しなら平気かな。
    少し声を潜めて、話し始めた。

「もしもし? 亮也……?」
『彰いま何してる? もう昼食べた?』
「今ちょうど食べてる」
『外だよな? 一人? 行ってもいい?』
「うん。別にいいけど……」

『どこで食べてんの?』
「駅前のカフェなんだけど」

 場所を説明すると、たぶん分かる、と言って、電話が切れた。

 ……断った方がよかったかな。
 ……て、別に関係ないか……。

 ただ友達が一緒に昼食べに来るだけだし。

 そんな事を思いながら、食事を食べ終えた時。
 仁が寄ってきた。

「どう? 美味しかった?」

 聞かれて、うん、と笑った。

「おいしかった。仁が作れるようになるの、待ってるね」
「ん、頑張る」

 くす、と笑って、そう言う仁。

「あ、あのさ、仁」
「うん?」

「さっき友達から電話が来て、昼一緒にて言うからさ。ここ教えたから、今から来ると思う」
「あ、そうなんだ… 女の子?」
「男だよ」
「了解。来たらここに通すね」
「…うん。よろしく」

「その人来たら、彰にもカフェオレ、持ってくるね。奢るから」

 ふ、と笑んで、オレを見下ろしてくる。
 ――――…なんで、そんな、優しく、笑うかな。

 「仁くん、ごめんね、ちょっと手伝って?」

 優奈と名乗ってた子とは別の店員の女の子に呼ばれて、「いってくるね」と言って、仁が消えてく。

 ――――その内、こうやって、離れて行って。
 ……仁はオレの前から、消えてくんだろうなー…。

 意図せず、そんな考えになって。
 ふ、とため息をついた瞬間。

 窓が、こんこん、と外から叩かれる音。外から亮也が笑いかけてきていた。

「亮也……」

 なんだか――――ほっとした、というのか。
 聞こえないのは分かっていても。つい、その名前を口にした。

 すると、一瞬眉をひそめた亮也に、待ってて、と言われた。聞こえはしなかったけれど、分かって、頷いた。
 入店の音が鳴って、優奈が亮也を出迎えてる。 亮也はオレの方を指さして優奈の案内を断ると、まっすぐにオレの席に来て、目の前に座った。

「……彰、平気? どした?」
「……」

「なんか、死にそうな顔してるけど」
「……死にそうな顔なんてしてないけど……」

 ふ、と笑って、返すけれど――――。
 なんとなく、視線が、落ちていく。

「彰? ……ほんとにおかしいな。 どうした?」

 伸ばされた手に、そっと顎を掴まれて、顔を上げさせられる。

「……何でもない。……目立つから……」

 その手を外させる。

「じゃ、こっち見ろよ」

 手を戻して、亮也がそう言う。

「どうしたの、ほんと、顔、変」
「……そんな変じゃないし」

 そう言った時。

「――――いらっしゃいませ」

 低い声が響いて。
 水とメニューが、亮也の前に静かに置かれた。

 丁寧ではあるのだけれど、威圧感のあるそれに、亮也は、不審そうにその主を見上げている。
 オレは見上げる気にもなれなかった。

「――――ご注文はお決まりですか」

 仁の、低い、声。
 ……今のやり取り、見られたかな……。
 って別にそこまで、変なことでもないか。顎に触れたのは……変? でも絶対しないことでも、ないよね。

「亮也、何食べる?」
「彰は何を食べた?」
「オレは、これ」

 指した先を見て、「オレもそれにする」と亮也。

「……お飲み物は」
「――――アイスコーヒー」

 亮也はそう答えて、仁を見あげて、何だかすごく、不服そう。
 かしこまりました、低い声でそう言って、仁は、離れていった。

「……何だあれ? 接客業向いてねーな……」

 確かに……。
 さっきまでオレに向けてた笑顔とは、別人過ぎる。

「……あー…… うん。 あの……」
「ん?」

「……弟」
「は?」

「……弟、だよ。こないだ、家で一回ちょっと会っただろ?」
「え? あ、弟?」
「……うん」

「……え、じゃあなんで、あんなに、オレ、睨まれるの」
「…………ごめん、なんか、態度、悪くて」

「てか、あいつあれで、この仕事できるの?大丈夫?」

 まさか、自分だけを睨んでいったなどとは思わない亮也は、オレの弟と分かると、今度は心配までしてくる。苦笑いが浮かんでしまう。

 ていうか。
 ………なんであんな、分かりやすく、態度悪くなったんだろ。

 男友達が来たらテーブルに通すねって伝えたさっきまでは、全然普通だったのに。顔はあげさせられたけど、あれを見られたって、別にキスした訳じゃないし、別にそこまで変なことは、してないし。

「亮也、なんか、家からにしては早すぎない?」
「……昨日あの後女の子んち泊ってさ。その帰り」
「……何でお前、いっつも女の子帰りにオレんとこ来んの?」

 くす、と笑って、そう言うと。

「何となく彰に会いたくなるんだよね。彰が付き合ってくれたら、そっち行かないけど?」

 にこ、と笑う亮也に、「まだ言ってる……」と、苦笑い。

「なあ、食べたら、オレんち、行く?」
「――――」

「発散しようぜ」

 ――――…発散…。
 二人の間で使われるこの言葉の意味は、すぐ分かる。

「ていうか、女の子んとこ泊ってきたんだろ?」
「え、全然イケるけど」
「……お前って……ほんと元気な」

 クスクス笑ってしまう。
 ほんと、あっけらかんとしてて。

 亮也と居るのは、なんだか、すごく楽。
  余計な事を、考えなくてすむから、かな……。

 まあ。 
 ――――もう亮也と、「発散」は、しないけど。

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